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資産形成、やってはいけないこと-FX取引、暗号資産、NFTに手を出してはいけない

金融研究部 熊 紫云
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1――ギャンブルと投機は資産形成に向いていない
投資は、長期的に参加者全員の持ち分合計が増えていき、参加者全員の利益合計がプラスになるプラスサムゲームのことである。参加者それぞれが期待できる利益もプラスであるため、資産形成に向いている。
代表的な投資商品として、債券には利息、株式には配当、不動産には賃料収入という定期的にインカムを受け取る仕組みがある。さらに、株式には将来的な会社価値が増加していくと期待できる仕組みがある。
一方、「ギャンブル(賭け事)」や「宝くじ」、「投機」は、投資とは異なり資産形成の手段としては使うべきではない。
ギャンブルや宝くじは、参加者全員の持ち分合計が減っていき、参加者全員の利益合計が確実にマイナスになるマイナスサムゲームのことである。参加者それぞれが期待できる利益もマイナスになるので、資産形成には向いていない。このことは既に多くの人が理解していると思う。
投機は、参加者全員の持ち分合計が一定で、利益合計がゼロというゼロサムゲームの取引もしくは将来的な価値が良く分からず、参加者全員の将来の持ち分合計と利益合計が不明である商品である。つまり、参加者全員の利益の平均もゼロか不明になるので、参加者それぞれが期待できる利益もゼロか不明なので、普通の人は資産形成をする手段として、投機に手を出してはいけない。
しかし、専門知識や資金がある投資のプロや資産運用機関が短期的に多額の利益を追求する目的で、投機を実際に活用する場合があるので、普通の人でも投機をすれば将来的に多額の利益が獲得できるかもしれないと思える点が魅力的なのかもしれない。また、投資との区別がつきにくいことも、普通の人が投機に手を出してしまう一因なのかもしれない。
このレポートでは、投機を中心に、世間一般によく知られている商品と取引について説明してみたい。そして、よほどの投資のプロや目利きでない限り、投機に該当する取引や商品などが資産形成に向いていないこととその理由について説明していきたい。
1 2023年2月21日 基礎研レポート「資産形成に向いている投資商品とは何か-何に投資をしたら良いか迷うのであれば、iDeCoやつみたてNISAなどを活用すべき」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=73985?site=nli
2――投機の具体例
この一日、Aさんが100万円で売り、110万円で買い戻して▲10万円の実現損、Bさんが100万円で買い、80万円で売って▲20万円の実現損、Cさんが80万円で買い、110万円で売って+30万円の実現益があった。一日を終えて、デイトレーダー全員の購入金額と売却金額は同額であり、損益を通算するとデイトレーダー全員の利益合計は基本的にゼロである。
株式のデイトレードでは、一般的に市場が開いている間に売買が終了するので会社の配当を受け取ることができない。また、将来の業績が期待できる会社の株式は中長期的に会社価値が上昇し、それとともに株価も上がっていくと期待できる。しかし、図表2のように中長期的に会社価値(ファンダメンタルバリュー)が上昇しても、たった一日(図表2:黒い丸)では会社価値がほぼ変わらず、一日の株価は基本的に様々な情報による投資家間での需給関係だけによって上下すると考えて良い。
このように、株式は長期的に投資商品として値上がりが期待できても、短期取引をするとインカムも価値増加の仕組みもないため、投資家全員の持ち分合計は一定である。従って、一日中、どれだけ取引を行っても、その日にデイトレードを行った投資家全員の利益合計は基本的にゼロとなるので、麻雀と同じでゼロサムゲームである。手数料や税金等を考慮するとマイナスサムゲームとも言える。株式のデイトレードは投機であり、資産形成に向いていない。
FX取引(外国為替証拠金取引)は2つの国の通貨を交換するレートの変動から売買を行う商品である2。為替レートは24時間変動しているので、FX取引はいつでも行える。
外国為替市場で日本の個人投資家が欧米の報道機関によって「ミセス・ワタナベ」と名付けられるほど、注目されている。これは、日本の会社員がFX取引を行い、日本のお昼休み時間帯に特異な為替変動が起こるからと言われている。このようなインパクトまで生じるほど、日本においてFX取引を行っている人が多いのであろう。
図表3でFX取引の短期売買を分かりやすく説明するため、為替レートの変動を現実よりかなり大きくした例で説明する。ある日21時、ドル円為替レートが「1ドル=130円」になった時にAさんは130万円でドルを買い、Bさんが1万ドルで円を買ったとする。Aさんは1万ドルを保有し、Bさんは130万円を保有することになった。
翌日6時に、ドル円為替レートが「1ドル=150円」に動いた。Aさんは1万ドルを保有しており、円貨換算で150万円になり、元手の130万円に対して+20万円の含み益がある。一方、Bさんは130万円をドル換算すると、0.867万ドルになり、元手の1万ドルに対して▲0.133万ドル、つまり円換算すると、▲20万円(▲0.133万ドル×150円/ドル)の含み損が発生している。AさんとBさんの利益合計は±0円である。この時に実際に売買を行うと含み損益は実現損益になる。
2日目21時のドル円為替レートが「1ドル=120円」に動いた場合を見てみよう。
Aさんが保有する1万ドルを円換算すると120万円となり、元本130万円より含み損▲10万円が出ている。一方、Bさんが保有する130万円のドル時価は1.083万ドルとなり、元本1万ドルより含み益+0.833万ドル、円換算で+10万円(+0.083万ドル×120円/ドル)である。2日目21時でも、投資家全員の利益合計はゼロである。この時に実際に売買を行うと含み損益は実現損益になる。
さらに、日本においてはFX取引でレバレッジをかけて少額から高額な取引をすることができる3。図表3のAさんは、単純計算で3,250万円(元本130万円×レバレッジ最大25倍)の取引ができる。しかし、ドル円為替レートが「1ドル=120円」に動いた時点で売却したら、▲10万円の25倍である▲250万円もの損失が出る可能性がある。レバレッジをかけると、儲ける時は利益が大きくなる一方、損をする時は大きな損失が発生する可能性があり、リスクが高すぎる。
FX取引の短期売買は基本的にゼロサムゲームで、手数料や税金等を考えるとマイナスサムゲームであるとも言える。FX取引の短期売買は投機であり、資産形成に向いていない。特にレバレッジをかける場合は極めてリスクが高い投機であり、けっして素人が手を出してはいけないと思う。
(2023年03月03日「基礎研レポート」)
金融研究部
熊 紫云
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