2023年03月01日

世界各国の市場動向・金融政策(2023年2月)-米金融政策は再びインフレ警戒感が強まる

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:株高・ドル安が進む

23年2月の各国1の株価・為替の動きは以下の通り。
 

【株価・対ドル為替レートの動き】
・2月は、米国金融政策が注目されるなか、インフレ圧力や持続性への警戒感が強まり、ドル高・株安が進む国が多かった(図表1)。

(図表2)世界株価の動向/(図表3)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する47か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。本文中の先進市場と新興市場の区分についてはMSCIの分類に基づく。

2.ロシアの金融市場と商品価格

まず、ロシアのウクライナ侵攻後に大きく変動したロシアの金融市場や商品価格について概観しておきたい2

ロシアの金融市場について(図表4)、2月は、株は横ばい圏で推移した。為替は、12月5日にEUのロシア産原油の禁輸(一部パイプライン輸入を除く)と、G7・豪州による上限価格の設定がされて以降、ルーブル安傾向となり、2月も同様の傾向が続いている。

金利は、22年の年央以降の緩やかな上昇圧力が依然として続いており、2月は11%台に乗せた。ロシアは22年12月と23年1月が平年と比較して大幅な財政赤字になったことを受けて、国際需給が緩んでいると見られる(図表5)。
(図表4)ロシアの株価指数と為替レート/(図表5)ロシアの長期金利
(図表6)金属先物価格(ロンドン)/(図表7)農作物先物価格(シカゴ市場)
(図表8)エネルギー価格の推移 次にロシアが主要な供給源となっている商品の動向を追うと、金属(アルミ、ニッケル)価格は2月にやや下落した(図表6)。農作物価格も小麦・トウモロコシともに下落している(図表7)。3月18日に期限を迎える黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意についても延長交渉が始まっており、需給のひっ迫懸念は後退している。

エネルギー価格(石炭、原油、天然ガス)は、欧州の天然ガス価格や石炭価格が低位で推移している(図表8)。引き続きガス貯蔵量が平年比で潤沢に確保できていることから、価格の上昇が抑制されている。
 
2 ロシアのウクライナ侵攻と経済・金融制裁を受けて、22年3月にロシアはMSCI ACWIから除外されているが、世界の金融市場に大きな影響を及ぼしたその後の状況を確認するため、本節で概観する。

3.株価(MSCI)・為替レートの動き

(図表9)MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 MSCI ACWIの月間騰落率は、全体では前月比▲3.0%、先進国が前月比▲2.5%、新興国が前月比▲6.5%となり、下落した(前掲図表2)。

国別の株価の動きを見ると、2月は対象国の47か国中、21か国が上昇、26か国が下落とまちまちだった(図表9)。
(図表10)各国の株価変動率
下落を主導したのは中国株で、1月にはゼロコロナ政策からの急転換により上昇を加速させたが、2月は反落している。また、米FRBによる金融政策に関して、インフレ圧力の強さを示唆する統計データの公表が多かったことから、金融引き締めを強めるとの見方が優勢になり、株安圧力として作用している。
(図表11)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 通貨の騰落率を見ると、ドルの27カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比▲1.6%、60カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比▲1.2%となり、2月はドル高が進行した3(前掲図表3)。

MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、FRBが金融引き締めを強めるとの見方が幅広い通貨に対してドル高圧力となり、2月は36通貨中対ドルで上昇(ドル安)したのは7通貨、下落(ドル高)したのは29通貨となった(図表11・12)。
(図表11)各国の対ドル為替レート変動率
 
3 名目実効為替レートは1月21日時点の前月末比で算出。

4.金融政策:主要国でも利上げの停止が模索される段階に

最後に、主要地域の金融政策を見ていく(図表13)。
(図表13)主要地域の金融政策
2月はG7では、米FRBと欧ECB、英イングランド銀行で金融政策を決定する会合が開かれた。いずれの中央銀行も利上げを継続する一方で、利上げサイクルの後半に突入し、利上げを停止する時期を模索している状況にあると見られる。

G7以外の国では、ドルペッグやユーロペッグを採用しているサウジアラビアやデンマークのほか、オーストラリア、スウェーデン、インド、メキシコで利上げが決定された。一方で、インドネシアと韓国は、直前の会合まで利上げを続けてきたが、今月の会合では現行政策の維持を決定し、利上げを停止した。また、ブラジル、チェコ、ポーランド、ハンガリーも利上げ後の様子見姿勢を続けている。

なお、トルコはエルドアン大統領の意向に沿う形で22年11月にかけて政策金利を9%に引き下げた後、その水準で据え置いていたが、2月6日にトルコ南部で大地震が発生したことを受けて、災害復興支援のためとして、利下げを決定している。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年03月01日「経済・金融フラッシュ」)

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