2023年02月24日

コロナ禍で落ち込んだ高齢者の対面型サービス消費~2022年もコロナ前比2割減。個人消費回復のボトルネックに

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

コロナ禍で、高齢者を中心として外出自粛傾向が続いていることを、これまでの基礎研レポートで発信してきた1。そのデメリットについて、これまでは主に、高齢者の健康二次被害リスクという観点から説明してきたが、外出が減れば、消費低迷にもつながる。国内では、世帯主が60歳以上の高齢層で、国内消費の半数を占めているため、個人消費の回復と活性化にも水を差す。本稿ではこのような観点から、コロナ禍における高齢者の対面型サービスの消費動向について、総務省の「家計調査」等を基に報告する。

2――コロナ禍の外出頻度の低下

2――コロナ禍の外出頻度の低下

改めて、コロナ禍における外出頻度の変化についてニッセイ基礎研究所の「第10回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」から確認したい2。コロナ前と比べると、男性も女性も、コロナ禍での外出頻度は全体的に低下していた(図表1)。性・年代別に見ると、閉じこもりの定義である「週 1 日以下」の割合(当調査における「週1日」と「週1日未満」の合計)は、男性の 60歳代では約1割、男性の70歳代と女性の60~70歳代では約2割に上り、いずれもコロナ前より大幅に増えていた。厚生労働省の「患者調査」から入院・通院の受療率を見ると、高齢になると基礎疾患を抱える人が増えるため、感染不安等から外出を自粛していると見られる3。閉じこもりになると、心身機能が低下したり、要介護リスクが上昇したりすることは、これまでに報告してきた通りである。
図表1 コロナ前と比べた高齢者等の外出頻度の変化
 
2 2,022年9月27日~10月3日、全国の20歳~74歳の男女を対象にインターネット上で実施。有効回答2,557。
3 坊美生子(2022)「高齢化と移動課題(上)~現状分析編~」(基礎研レポート)

3――外出を伴う消費活動の低迷

3――外出を伴う消費活動の低迷

3-1| 対面型サービスへの支出額の減少
次に、外出頻度の低下による消費への影響をみていきたい。外出頻度が減ると、旅行や交通機関の利用、外食など、対面型サービスの消費が低迷すると考えられる。そこで、総務省の「家計調査」(二人以上世帯)から、1世帯が支出する宿泊や交通、外食などの対面型サービスの平均支出金額を算出し、コロナ禍の2020年、2021年、2022年とコロナ前の2019年を、実質ベースで比較したものが図表2である。

全年齢階級の「平均」と「60~69歳」「70歳以上」のいずれも、2020年から2022年までの3年間、コロナ前比で2~3割の大幅な減少が続いている。いずれの区分でも、直近の2022年は減少幅が縮小しているが、依然2割前後の減少率となっている。コロナ禍以降の外出抑制の影響で、対面型サービスへの消費が大幅に低迷したままとなっていることが分かる。

また、対面型サービスの消費額(年間)は、直近の2022年の場合、「平均」が464,251円、「60~69歳」が472,298円、「70歳以上」が365,140円で、いずれも各消費支出全体の約13%を占めている。
図表2 世帯主の年齢階級別にみた対面型サービス消費額のコロナ前(2019年)からの変化率(実質)
3-2| 項目別にみた対面型サービスへの消費支出額と変化率
次に、高齢者の対面型サービスの中でも、特に何の消費が落ち込んでいるのかを見るため、最新の2022年の家計調査から、項目別に、消費額の変化率(実質ベース)を並べたものが図表3である。

世帯主が「60歳~69歳」の家庭を見ると、「一般外食」は支出額が137,839円で変化率は▼18.3%、「交通」は支出額49,443円で変化率▼31.9%、「パック旅行費」は支出額22,770円で変化率▼64.2%などとなっており、外食や旅行関連の落ち込みが目立つ。

「70歳以上」では、全体的に60~69歳よりも減少幅が大きい。「一般外食」は支出額が82,730円で変化率は▼28.5%と、60歳代に比べて約10ポイント、減少幅が大きい。「交通」は支出額28,719円で変化率▼35.5%。「宿泊料」は支出額15,606円、変化率
▼23.4%減となっており、平均や60~69歳代と比べても減少幅が大きい。また「理美容サービス」も支出額32,493円、変化率▼12.9%と、マイナス2桁の変化率となっている。

観光促進策として、政府は2022年10月からは「全国旅行支援」を実施しているが、年間の消費支出でみると大幅なマイナスが続いていることが分かる。
図表3 対面型サービス消費の項目別支出金額(年間)とコロナ前(2019年)からの変化率(実質)

4――個人消費の動向

4――個人消費の動向

1|コロナ前と比べた家計の消費支出の状況
次に、家計の消費支出全体についてみていきたい。コロナ禍の2020年、2021年、2022年と、コロナ前の2019年を、実質ベースで比較したものが図表4である。いずれの区分でも、2019年と比べた消費支出全体の変化率は、時間の経過とともに減少幅が縮小している。しかし、直近の2022年平均でも、60~69歳は2019年比▼2.4%、70歳以上は同▼2.2%とマイナスが続いている。3でみた対面型サービス消費の落ち込みが、消費回復のボトルネックになっていると言えるだろう。

また、2022年家計調査によると、世帯主が60~69歳の家庭は国内消費全体の約2割、70歳以上は約3割を占めており、個人消費全体へのマイナス影響が大きい。
図表4 コロナ前(2019年)と比べた消費支出全体の変化率(実質)
2|総消費動向指数の動向
国内の消費総額の動向を示す総務省の「総消費動向指数」を見ると、2021年前半までは、緊急事態宣言に伴う行動制限もあって低迷していたが、2022年は徐々に上向いていることが分かる。2022年後半からは、感染対策の緩和に伴って社会経済活動が活発化し、消費全体も回復傾向にあると捉えることができるだろう。ただし、最新の2022年12月時点の指数は、2020年平均を100とした場合に104.3(実質)で、コロナ前の2019年平均(105.6)を依然下回っている。3で述べたように、対面型サービスは消費支出全体の1割以上を占めており、今後、個人消費の回復を加速させるためには、低迷する対面型サービスを回復させることが重要な要素となるのではないだろうか。
図表5 「総消費動向指数」の推移(2000年平均月額=100)

5――終わりに

5――終わりに

今年5月8日から、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられることが決まった4。しかし、それによって高齢者の外出や対面型サービスの消費増加につながるとは言い切れない。5類引き下げの後は、マスク着用も個人の判断に委ねられ、短期的には新型コロナウイルスの感染率は上昇する可能性がある。そうなれば、高齢者の中には、寧ろ、感染不安から、外出抑制を再び強める人も出てくるだろう。高齢者の中でも、基礎疾患の状態や考え方の違いによって、社会経済活動を活発化して消費を増やすグループと、一層閉じこもりがちになって消費も停滞するグループに二極化していく可能性も考えられる。

そのような中で、高齢者の外出を促進し、対面型サービスの消費を活性化していくためには、筆者のこれまでのレポートでも述べてきたように、外出の動機付けと、外出の介護予防効果を啓発していくことが必要だろう。すなわち、高齢者の「楽しみ」「娯楽」になるような外出のきっかけを作ることと、健康状態維持のためには、基本的な感染対策と外出の両方を継続していく必要があることを、粘り強く発信し続けることだと考えられる5

国内の個人消費活性化のためにも、コロナ禍で大きな課題となっている「高齢者の外出促進」に、より目を向けていく必要があるだろう。
 
4 新型コロナウイルス感染症対策本部「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(2023月2月10日変更)
5 坊美生子(2022)「高齢化と移動課題(下)~打開策編」(基礎研レポート)
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2023年02月24日「基礎研レポート」)

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