2023年02月08日

コロナ禍を経て世界では金融アドバイザーが果たす役割が増大-日本とは大きく異なる各国の状況-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――はじめに

米国における生保・年金のマーケティングに関する代表的な調査・教育機関であるリムラが、世界12市場の成人消費者25歳から55歳を対象にオンラインで調査した結果を公表しており1、これまで、生保加入率、生保加入にあたってのインターネット利用についての国際比較について紹介した2

同調査レポートでは、コロナ禍を経て、相談できる金融アドバイザーの有無の状況、金融アドバイザー、生保募集人への信頼度についても触れられており、日本は世界の状況とは大きく異なっていることが示されている。ここでは、その概要につき、紹介したい。
 
1 LIMRA「Global Consumer Pulse」2022年9月19日。当調査は、2022年の初頭に、世界12の市場の25~55歳の成人消費者を対象に、オンラインで行われたものである。12市場ならびに各市場における回答者数はつぎの通り。中国 2562、インド2577、マレーシア1563、タイ1581、香港1263、台湾1554、シンガポール1261、韓国1271、日本2567、フランス1562、イギリス1584、ブラジル1560。
2 小著「世界の消費者はどの位の割合で生命保険に加入しているのか-生保加入率の国際比較-」『保険・年金フォーカス』(2022年11月22日)、「世界の消費者は生保加入にあたりインターネットをどう利用するのか-インターネット利用状況の国際比較-」『保険・年金フォーカス』(2022年12月23日)

2――相談できる金融アドバイザーの有無等についての国際比較

2――相談できる金融アドバイザーの有無等についての国際比較

(図表1)は、上記12市場に米国3を加えた13市場において、相談できる金融アドバイザーがいるかどうかについての調査結果である(2020年、2022年調査)。

ほとんどの市場では、コロナ禍を経て、経済環境も悪化する中、保険、投資、貯蓄について定期的にアドバイスを求めて相談する金融アドバイザーを持つ人の割合が増加した。中でも、マレーシア、タイ、台湾の増加は著しい。

また、インド、シンガポールでは、過半数(2022年でそれぞれ66%、59%)が相談できるアドバイザーを現在持っており、現在アドバイザーがいない人でも、図表にはないが、うち約半数近く(それぞれ19%、22%)は、アドバイザーを探しているところ、と回答している。

日本は、調査対象の市場の中では、金融アドバイザーを持つ人の割合が最も低く、また、図表にはないが、7割近くの人(66%)が金融アドバイザーは不要、と回答している。
【図表1】相談できる金融アドバイザーを持つ消費者(単位:%)
一方、(図表2)は、(図表1)中、相談できる金融アドバイザーを持つ人のうち、「自分の金融アドバイザーは信用できる」と回答した人の割合である。ここからは、相談できる金融アドバイザーがいる人の間では、金融アドバイザーへの信頼度は高い事を示しているといえよう。前述の通り「金融アドバイザーは不要」、と考えている人が多い日本においても、金融アドバイザーがいる人の間では、「信用できる」、と回答した人が75%を占めている。ただし、それでもその他の市場と比較すると、最も低い割合となっている。
【図表2】自分の金融アドバイザーは信用できる(対象:金融アドバイザーがいる人、単位:%)
 
3 米国の状況については、LIMRA and Life Happens「Insurance Barometer 2020,2022」に基づいたものである。

3――生命保険募集人に対する信頼度についての国際比較

3――生命保険募集人に対する信頼度についての国際比較

また、(図表3)は、生命保険募集人が信用できるかどうかについての調査結果である。ここでも日本は、『信用できる』と回答した人は38%と最低の水準となっている。
【図表3】生命保険募集人は信用できる(単位:%)
一方、その他の市場に目を向けてみると、日本、韓国以外では、5割を超える人が生命保険募集人に対して『信頼できる』と回答している。さらにフランス(58%)を除けば、その他の市場では、ほぼ7割以上の人が、生命保険募集人は『信頼できる』、と回答しており、日本、韓国といった一部の市場を除いて、世界の消費者の生命保険募集人への信頼は高いことを示している4
 
4 生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」(https://www.jili.or.jp/files/research/zenkokujittai/pdf/r3/2021honshi_all.pdf)では、チャネルについての満足度についての調査結果が掲載されており、令和3年調査では、「満足している」(30.1%)、「どちらかといえば満足している」(54.8%)、「不明」(9.3%)、「どちらかといえば不満である」(5.2%)、「不満である」(0.7%)となっている。また、同報告書では、加入チャネル別の満足度や、加入チャネル別の「加入チャネルに満足している点」についての調査結果等、より詳細な調査結果が掲載されている。

4――おわりに

4――おわりに

コロナ禍を経て、世界では、相談できる金融アドバイザーを持つに至った消費者が増加傾向にあり、また、そういったアドバイザーを持つ消費者は、自分のアドバイザーに対する信用度は高いことがわかった。一方、日本では、先述の通り、回答者の7割近くの消費者が金融アドバイザーは不要と考えており、その他の市場とは大きく異なるが、日本人の投資に対する意識が低いことを示唆している可能性があるとも考えられる5

また、生命保険募集人に対する信頼度については、日本、韓国以外の世界の市場では概ね高水準であり、その点についても、日本とは大きく異なっている。

このような国際比較は珍しく、貴重なデータといえよう。LIMRAでは、今後も同様の調査を継続するものと考えられることから、引き続き動向について注視していきたい。
 
 
5 日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較」2022年8月31日によれば、家計の金融資産構成は、日本の金融資産は、欧米と比べて現預金が占める割合が圧倒的に高い一方、逆に、投資性資産である株・投資信託の割合は、著しく低い状況となっている。
【現金・預金比率】    【株・投資信託】
日本 54.3%       米国 52.4%
欧州 34.5%       欧州 29.9%
米国 13.7%       日本 14.7%
また、保険毎日新聞「MDRT 日米の消費者意識調査 記者説明会 保険市場の需要動向探る ファイナンシャル・アドバイザーの役割説明」2022年12月26日では、11月29日にMDRT米国本部で行われた、日米で実施した消費者意識調査結果についてのオンライン記者会見の様子が紹介されている。
そこでは、米国では、最も主要な投資資産について、「株式と債券」33%、「不動産」23%、「米国国債等の現金同等物」21%となっており、その他の調査結果も踏まえ、米国消費者のポートフォリオ分散化ニーズは高く、金融知識の多寡にかかわらず、ファイナンシャル・アドバイザーの存在は欠かせないことが分かる旨、記載されている。
一方、日本では、最も使用されている資産形成の手段が「預貯金口座」と答えた人の割合が76%であるとしつつ、「実際にアクションをとっていない実情もあるが、多くの日本人にとって資産多様化のニーズはある」とされている。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2023年02月08日「保険・年金フォーカス」)

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