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- 通勤距離の長いオフィスワーカーほどテレワークが定着-携帯位置情報を活用したオフィス出社人数の分析
2023年01月31日
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1――携帯位置情報データによる通勤距離別のオフィス出社人数の計測
コロナ禍で活用が進展したテレワークのメリットとして、通勤時間の削減が挙げられる。ザイマックス不動産総合研究所「首都圏オフィスワーカー調査 2022」によると、テレワーク経験者が挙げるテレワークのメリットは、「移動時間・通勤時間の削減(全体の83.0%)」が第1位で、第2位の「感染症の感染リスク低減(同45.9%)」を大幅に上回る。オフィスと自宅を組み合わせたハイブリッドな働き方が定着しつつあるなか、オフィスワーカーがテレワークをどれほど活用するかを決定するうえで、オフィスと自宅の距離(通勤距離)は重要な要素となるだろう。そこで、本稿では、「KDDI Location Analyzer(以下KLA)」の携帯位置情報データをもとに、「丸の内・大手町エリア」を対象に、オフィスワーカーの通勤距離に着目してオフィス出社動向を分析する1,2。
以下では、「丸の内・大手町エリア」において、次の条件を満たす来訪者数をオフィス出社人数とみなし3、来訪者数を町丁目単位の居住地別に集計することで、通勤距離別のオフィス出社人数を算出した。
以下では、「丸の内・大手町エリア」において、次の条件を満たす来訪者数をオフィス出社人数とみなし3、来訪者数を町丁目単位の居住地別に集計することで、通勤距離別のオフィス出社人数を算出した。
1 「丸の内・大手町エリア」は、三幸エステート「オフィスレントデータ2023」に倣い、「東京都千代田区丸の内・有楽町・大手町・内幸町・日比谷公園・霞が関」を対象とした。
2 KLA は、au スマートフォンユーザーから同意を得た上で取得し、個人が特定できない形式で加工した GPS 位置情報と性年代等の属性データを活用し、任意のエリアや施設について通行・滞在人口を推計し、データを提供している。同データを活用した他のレポートは以下を参照されたい。
佐久間誠(2022)「携帯位置情報データによる街のミクストユース(Mixed-use)の評価 (1)」(不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2022年11月28日)
佐久間誠(2022)「携帯位置情報データによる街のミクストユース(Mixed-use)の評価 (2)-コロナ禍におけるJR山手線29駅の滞在人口変化」(不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2022年12月27日)
3 オフィス以外で勤務している従業員(店舗やホテルなど)も一部含まれてしまう点には留意が必要である。ただし、丸の内・大手町エリアは、特にオフィス集積が進んでいるため、その影響は小幅にとどまるものと考える。
4 同条件で抽出した結果、2019年における「丸の内・大手町エリア」のオフィス出社人数は9.1万人と推計。
2――コロナ禍前における「丸の内・大手町エリア」のオフィス出社人数の通勤距離別分布
5 「丸の内・大手町エリア」から、西に約20kmには「三鷹」や「綱島」など、東に約20kmには「船橋」や「東松戸」などが位置する。また、同エリアから西に約40kmには「八王子」や「金沢文庫」など、東に約40kmには「臼井」や「守谷」などが位置する。
3――コロナ禍におけるオフィス出社人数の動向
次に、オフィス出社人数の変化に対する寄与度を通勤距離別に確認する。2020年の減少率▲36.2%のうち、通勤距離20km未満の寄与度は▲22.3%(寄与率62%)であった。(図表3)。また、2021年のオフィス出社人数の減少率▲21.4%のうち、20km未満の寄与度は▲11.5%(寄与率56%)であった。つまり、オフィス出社人数の減少について2020年は図表1に示した通勤距離別の割合に即した寄与率であったのに対して、2021年は短距離通勤者の寄与率が低下し、長距離通勤者の寄与率が上昇したことがわかる。また、オフィス回帰の進んだ2022年の増加率+25.2%のうち、20km未満の寄与度は+20.0%(寄与率77%)で、短距離通勤者ほどオフィス出社を増やしたことになる。
オフィス出社人数の平均変化率(前年比)を通勤距離10km毎に見ると、2020年は、「0~9km:▲32%」、「10~19km:▲37%」、「20~29km:▲35%」、「30~39km:▲38%」、「40~49km:▲36%」と、通勤距離に関わらず30%台で、概ね一律の減少率となった(図表4)。一方、2021年は、「0~9km:▲22%」、「10~19km:▲17%」、「20~29km:▲21%」、「30~39km:▲28%、「40~49km:▲32%」となり、10km~50kmでは通勤距離が長いほど減少率が拡大する傾向にある。また、2022年は、「0~9km:+39%」、「10~19km:+29%」、「20~29km:+20%」、「30~39km:+14%」、「40~49km:+23%」となり、40km未満では通勤距離が短いほど増加率が拡大する傾向にある。このようにしてみると、2020年は政府の要請や会社の指示もあってか、通勤距離に関わらず一斉にテレワークを実施、2021年は長距離通勤者ほどテレワークを活用、そして、2022年は短距離通勤者を中心にオフィス回帰が進む一方、長距離通勤者は引き続きテレワークを活用しオフィスへの戻りが鈍かった、と言える。コロナ禍の影響が長期化し、一部でハイブリッドな働き方が定着しつつあるなか、通勤距離とテレワークの活用度合いに、正の相関が現れ始めていることが示唆される。
4――コロナ禍における平均通勤距離の推移
今後、コロナ禍の影響が和らいで、全体としてオフィス回帰の傾向が強まったとしても、長距離通勤者の間ではテレワークが定着しオフィス回帰が想定ほど進まない可能性が考えられる。ただし、今回は「丸の内・大手町エリア」を対象としたが、東京は全国的に通勤時間が長いという特徴があるため、他のオフィスエリアでは異なる傾向を示す可能性もあり、さらなる分析が必要だと思われる。
(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
(2023年01月31日「不動産投資レポート」)
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経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
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