2023年01月27日

中国経済の現状と2023年の注目点-2023年の成長率目標、ゼロコロナ後の消費回復力、不動産関連の成長回復力、IT企業の発展牽引力に注目

三尾 幸吉郎

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1. ここ数年の中国経済

中国の経済成長率は2022年、実質で前年比3.0%増と、前年(同8.4%増)を大幅に下回り、政府目標「5.5%前後」は未達となった。なお、国内総生産(GDP)は約121兆元と、日本円に換算すれば2,300兆円余りで、日本の約4倍に達した模様である。
(図表-1)中国の実質成長率と消費者物価 ここ10年ほどの中国経済を振り返ると(図表-1)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が襲来する前から減速傾向にあり、2019年の成長率は6%まで低下していた。習近平国家主席が2014年末に、これからは高度成長期を終えて中高速成長期に入るとして「新常態」を宣言し、「量より質」を重視して過度に高い成長を目指さなくなったからだ。その後はCOVID-19に翻弄される3年間となった。2020年には第1波が襲来して経済は失速した。中国政府が景気対策で支えたにもかかわらず前年比2.2%増にとどまった。2021年は第1波が一旦沈静化していたため経済はV字回復し、財政政策では持続可能性を高め、金融政策を引き締め気味に調整したにもかかわらず、同8.4%増の高成長となった。そして2022年はCOVID-19の第2波が襲来したため経済は再び失速した。中国政府が景気対策で支えたためプラス成長を確保したものの、前述のとおり政府目標「5.5%前後」を下回る結果となった。コロナ後の3年間を均して見ると実質成長率は年平均+4.5%で、5%前後と見られる潜在成長率を下回った。そして多くの工業企業の設備稼働率が正常とされるレベルを下回り(図表-2)、失業率もコロナ前のレベル(5.2%)まで回復していない(図表-3)。
他方、インフレの状況を見ると、工業生産者出荷価格(PPI)は前年比4.1%上昇した。原油高を背景に採掘品が同16.5%上昇し、原材料も同10.3%上昇と高騰した。但し、加工品は同1.5%上昇とそれほど値上がりせず、消費財も同1.5%上昇と小幅な上昇にとどまった。これを受けて消費者物価(CPI)は同2.0%上昇と、中国政府の抑制目標「3.0%前後」を下回った。輸送用燃料は同20.9%上昇と高騰したものの、その他のモノはあまり値上がりせず、COVID-19の第2波で消費意欲が減退していたこともあって、サービス価格が同0.8%上昇と低い上昇率にとどまった。
(図表-2)工業設備稼働率/(図表-3)調査失業率(都市部)

2. 需要の趨勢

2. 需要の趨勢

コロナ後3年の需要動向を振り返ると、最終消費にはCOVID-19が大きく影響した。実質成長率への寄与度を見ると(図表-4)、第1波が襲来した2020年は▲0.2ポイントと落ち込み、それが沈静化した2021年には+5.3ポイントと急回復し、第2波が襲来した2022年には+1.0ポイントと低い寄与度にとどまった。一人当たり消費支出の内訳を見ると(図表-5)、コロナ後の3年間は食品や住居費など生活に欠かせない支出は増勢を保ったものの、必需品以外(衣料品、交通通信、教育文化娯楽など)は2020年に落ち込み、2021年には急回復、2022年には再び落ち込んだ。したがって2023年は、2022年に落ち込んだ必需品以外の反動増が期待できそうだ。但し、ウィズコロナ政策に舵を切った中国では現在、感染爆発が起きており死亡者も少なくない。この難局を政情不安なしに乗り越えることがその前提条件となる。

総資本形成(≒投資)に対するCOVID-19の影響は限定的だった。実質成長率への寄与度を見ると(図表-4)、2020年は+1.8ポイント、2021年は+1.1ポイント、2022年は+1.5ポイントと低位ながらも安定していた。固定資産投資の内訳を見ると、製造業は、2020年に前年比2.2%減と落ち込み、2021年には同13.5%増と急回復するなどCOVID-19の影響があった。しかし、第2波が襲来した2022年には輸出の好調を背景に同9.1%増とそれほど落ち込まなかった。不動産開発投資は、2020年は前年比7.0%増、2021年は同4.4%増とプラス成長を維持したものの、2022年には不動産規制強化を背景に前年比10.0%減と大きく落ち込むこととなった。インフラ投資は、2020年は前年比0.9%増、2021年は同0.4%増と停滞したが、2022年には景気対策で同9.4%増と急回復した。そして投資全体では輸出好調や景気対策を背景に安定した推移となった。なお、投資主体別に見ると、コロナ後の3年間は国有・国有持ち株企業が年平均+6.1%と高水準だった一方、民間企業は同+3.0%と低水準だった。ウィズコロナ政策に舵を切ったことや、共産党大会を終えて将来が展望しやすくなったことで、民間企業は新規投資を増やし始めるのか注目される。

一方、純輸出にはCOVID-19が追い風となった。2020年は+0.6ポイント、2021年は+1.7ポイント、2022年は+0.5ポイントと、3年連続のプラス寄与となった(図表-4)。2020年と2021年は他国に先駆けて生産体制を正常化したことが、2022年は内需が低迷し輸入が少なかったことが、それぞれプラスに寄与した。したがって、中国がウィズコロナ政策に舵を切った2023年は、国内需要が持ち直す局面に入り、海外需要はピークアウトしそうなので、反動減となる可能性がある。なお、海外への団体旅行が解禁され旅行収支が悪化しそうなことも純輸出にはマイナス要因である。
(図表-4)需要項目別の寄与度/(図表-5)一人当たり消費支出

3. 産業の動向

3. 産業の動向

コロナ後3年の中国経済を産業別に見ると、[1]COVID-19の影響が大きかった産業、[2]COVID-19の影響が小さかった産業、[3]COVID-19とは別の要因で成長の勢いが鈍化した産業の大きく3つに分かれた(図表-6)。

COVID-19の影響が大きかった産業としては、「交通・運輸・倉庫・郵便業」、「卸小売業」、「宿泊飲食業」、「製造業」の4産業が挙げられる。「交通・運輸・倉庫・郵便業」、「卸小売業」、「宿泊飲食業」の3産業はCOVID-19に伴って実施された厳格な行動制限で人流が減少したことを背景に、第1波が襲来した2020年には大きく落ち込み、それが沈静化した2021年は急回復し、第2波が襲来した2022年には再び大きく落ち込むこととなった。「製造業」も工場の操業に支障が生じ、他の3産業と同様に2020年に落ち込み、2021年に急回復し、2022年に再び落ち込んだ。但し、コロナ後3年は前述したように輸出が好調だったことから、他の3産業よりも軽微な影響にとどまった。

COVID-19の影響が小さかった産業としては、「第1次産業」と「金融業」の2産業が挙げられる。「第1次産業」に対するCOVID-19の影響は限定的で、コロナ後の3年は年平均+4.8%と、コロナ前の3年(同+3.5%)を上回る成長率となった。「金融業」に対するCOVID-19の影響も軽微で、コロナ後3年は年平均+5.2%と、コロナ前3年(同+5.4%)と大差ない成長率となった。

COVID-19とは別の要因で成長の勢いが鈍化した産業としては、「不動産業」、「建築業」、「情報通信・ソフトウェア・IT」の3産業が挙げられる。「不動産業」と「建築業」はともにコロナ禍が襲来する前からGDP全体の成長率を下回る不振な産業だった。そして「不動産業」は2020年・2021年ともにGDP全体の成長率を下回り、2022年には不動産規制強化を背景に前年比5.1%減と大きく落ち込んだ。一方、「建築業」は中国政府が景気対策としてインフラ投資を増やしたため、2020年は前年比2.7%増と低位ながらもGDP全体の成長率を上回り、不動産業がマイナス成長に落ち込んだ2022年も同5.5%増とGDP全体の成長率を上回ることとなった。また「情報通信・ソフトウェア・IT」は、中国政府がIT業界の是正に乗り出したため成長の勢いが鈍化した。但し、勢いが鈍化したとは言え、2022年も前年比9.1%増とGDP全体の成長率を大幅に上回っている。
(図表-6)産業別の実質成長率

4. 2023年の注目点

4. 2023年の注目点

1|2023年の成長率目標
第一に挙げられる注目点は成長率目標をどう設定するのかである。COVID-19など不測の事態に陥らなければ、中国政府は財政金融政策を駆使して実現しようとするからだ。コロナ後の3年を振り返ると(図表-7)、第1波が襲来した2020年は不確実性の高さを踏まえて目標設定を見送ったものの、「プラス成長を維持できる」として財政金融政策を駆使してマイナスを回避する姿勢を示した。2021年はコロナ禍で落ち込んだ反動で高成長が期待できたものの、「6%以上」と低めに設定し、持続可能性を重視した財政金融運営で臨むこととなった。2022年は「5.5%前後」と潜在成長率並みに目標を設定し安定成長を目指す姿勢を示した。しかし、コロナ禍の再発という不測の事態に直面したため途中で断念、その後は財政金融政策を駆使して何とか目標に近づけようとした。

それでは2023年はどういうレベルに設定しそうなのだろうか。これまでに公表された各地の目標を見ると(図表-8)、北京市などの一部を除けば5%を超える目標を表明した地方政府が多い。中国全国の成長率目標は3月5日に開幕する全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で表明される。
(図表-7)2022年の主要目標と財政/(図表-8)中国各地の成長率目標
(図表-9)春運の人流 2|ゼロコロナ後の消費回復力
第二に挙げられる注目点はゼロコロナ後の消費回復力である。中国政府は昨年12月、事実上ゼロコロナ政策からウィズコロナ政策に舵を切った。それに伴いコロナ対策も感染防止から重症化防止に重点が移ったため、各地で感染爆発が起きた。当面は春節(1月22日)に伴う「春運」と呼ばれる交通機関の特別態勢(1月7日~2月15日)が組まれる時期で、今年の人流は昨年の2倍近くに増える見込みだ(図表-9)。そして都市から農村へ帰省する人が多いため、医療体制が脆弱な農村で感染爆発が起きる心配があり、予断を許さない。しかし、この難局を乗り切れば、自由を制限されてきた人々が動き出すのは間違いないだろう。特にCOVID-19の影響が大きかったコロナ悪化3業種(交通・運輸・倉庫・郵便業、卸小売業、宿泊飲食業)は2021年に近い急回復になる可能性がある。
3|不動産関連の成長回復力
第三に挙げられる注目点は不動産関連の成長回復力である。昨年11月に中国人民銀行・中国銀行保険監督管理委員会は「金融による不動産市場の安定的で健全な発展のサポートを徹底する通知」(16ヵ条措置)を発表した。それを受けて中国の不動産株は小反発した(図表-10)。ただし、不動産株が小反発の域を出ないことが示すように、不動産関連が再び発展を牽引するとの見方は少ない。中国政府は「不動産業の新たな発展モデルへの平穏な移行を後押しする」とは表明したが、「住宅は住むもので、投機対象ではない」というスタンスを崩していない。住宅バブルを再膨張させかねない大幅利下げは期待できないだろう。住宅主要購入層が減り始めていることも、その発展牽引力に期待できない背景である(図表-11)。今後は底打ちするだろうが低成長にとどまると見ている。
(図表-10)中国の不動産株/(図表-11)中国の住宅主要取得層(25-49歳)の推移
(図表-12)米中のIT関連株 4|IT企業の発展牽引力
第四に挙げられる注目点は百度(B)、阿里巴巴(A)、騰訊(T)などIT企業の発展牽引力がどのくらいなのかである。昨年12月に開催された中国経済工作会議では「デジタル経済を大いに発展させ、常態化監督管理レベルを高め、プラットフォーム企業が発展牽引、雇用創出、国際競争の中で力を発揮することを支持する」と表明された。それ以降BAT株は反発に転じた(図表-12)。およそ2年に及んだIT業界を是正する取り組みにメドが立ったからだ。実際、中国銀行保険監督管理委員会の郭樹清主席は「プラットフォーム企業14社の金融業務の特別改善は既にほぼ完了した」としている。しかし、BAT株の反発が小幅にとどまるように、その発展牽引力には不透明感がある。米国でも新たなビジネスモデルが生まれ難くなっており、IT関連株の値動きは冴えない。中国IT企業は米国のビジネスモデルを学び、それを中国の風土に合わせて再構築することで発展してきただけに、もはや毎年2割も成長する時代は終わった可能性がある。当面は1桁台後半の安定成長にとどまると見ている。
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2023年01月27日「Weekly エコノミスト・レター」)

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