2022年11月30日

米中新冷戦で世界はどう変わるのか

三尾 幸吉郎

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■要旨
 
  • 米中両国が対立を深めた根本には政治思想の違いがある。米国を初めとする西洋諸国が民主主義を普遍的価値と考えて、その「欧米型民主主義」を世界に広めようとしているのに対し、「人民民主独裁 」を憲法で定める中国は「中国の特色ある社会主義」で中華民族の偉大なる復興という夢を実現しそれを世界に広めようとしている。これは西洋文明と中華文明の衝突とも言えるものである。
     
  • また米中対立が激化した背景には、中国がその経済力をテコに世界で影響力を強めたこともある。途上国が豊かになるためには、輸出できるモノとそれを作る人材、それに資金を必要とするが、中国はそれらを提供し産業振興を図った上で、それらを輸入している。米国は自らの政治・人権思想と全く違う価値観を持った中国が、世界でこれ以上影響力を強めると、パクス・アメリカーナの世界を揺るがすと、脅威に感じ始めた。
     
  • 米中新冷戦になったあとの世界は、G7など「欧米型民主主義」という共通の価値観を持つ国々で構成される陣営と、反パクス・アメリカーナで一致する中国、ロシア、北朝鮮、イランなどで構成される陣営に分断されると見られる。しかし、ほとんどの途上国は米中対立に巻き込まれたくないと考えているため、「第三世界」にとどまり中立を保つ国も相当あるだろう。インドがその典型である。
     
  • 米中新冷戦になると、「米国を中心とする経済圏」と「中国を中心とする経済圏」とに大きく分断(ブロック化)されることになる。そうなれば、経済圏をまたがるモノ、サービス、情報、カネの流れが遮断されるため、グローバリゼーションの逆流が起こることになるだろう。これは全体最適から部分最適に移行することを意味するため、世界全体の生産性が大きく低下することは間違いないだろう。
     
  • 米中新冷戦となれば、その悪影響は計り知れないため、是非とも回避しなければならない。しかし米中新冷戦になった場合、米中どちらに軍配が挙がるのかを考察しておく必要もある。結論は神のみぞ知るということなのだが、「西洋諸国が米国の中国包囲網に同調し続けられるか」、「中国で内乱が起こるか」、「科学技術力で米中どちらが競り勝つのか」の3点が勝負のカギと筆者は考えている。


■目次

1――はじめに
2――米中対立の深層にある政治思想の対立~「欧米型民主主義」vs「中国の特色ある社会主義」
3――中国が経済力をテコに世界に影響力を及ぼし始めたことも対立の背景
4――米中新冷戦になったあとの世界
  1|世界情勢~G7、中露、第三世界に3つに分断される可能性大
  2|世界経済~両陣営ともに大打撃を受ける可能性大
5――米中新冷戦になった場合、どちらが勝つのか
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三尾 幸吉郎

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