2023年01月25日

2035年、85歳以上人口1,000万人時代の到来~埼玉、千葉、神奈川3県では2021年より8~9割増加

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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5――85歳以上高齢者のニーズ

次に、このような状態の85歳以上高齢者のニーズとして、どのようなものがあるかを検討したい。まず医療介護については、都道府県などが医療計画や介護保険事業計画を作成し、病床や在宅医療、介護サービスのニーズと供給計画などについて定めており、比較的備えは進んでいる。しかし、高齢者のニーズは医療介護だけではない。高齢者に優しいインフラや施設整備などまちづくりの他、住宅、移動、小売、金融など、社会保障以外にも、幅広い領域で高齢者向けのサービスが必要となる。

例として挙げれば、道路や駅、公共施設等のバリアフリー化、交通事故から守る歩道の整備、休憩できるベンチ等の設置、サービス付き高齢者住宅といったハードの整備、災害発生時の避難・援助態勢の整備といったソフト施策、高齢者が借りやすい賃貸住宅、外出の際の送迎サービス、認知機能が低下した顧客向けの金融サービス、移動販売車や配食サービス、介護予防に資する運動・共食・交流の場、家事支援、見守りサービス、犯罪被害を防ぐための声掛け、本人や家族の健康・生活相談窓口の設置などが考えられる。

地域ごとに、85歳以上高齢者のニーズを検討する際の一つの参考資料となるのが、介護保険法に基づいて、市区町村等が要介護認定を受けていない高齢者を対象に3年ごとに実施している「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」である。この調査には、地域に居住している高齢者の困りごとや心配ごと、自治体に対して充実を希望する施策等に関する設問がある。中には、「85歳以上」などと年齢階級別に回答結果を紹介しているケースもある。

例として、図表3でみた、2035年時点の85歳以上高齢者人口が上位の都道府県の中から、「85歳以上」の結果が公表されている自治体3団体(千代田区、大阪市、名古屋市)を選び出し、日常生活上のニーズに関する設問の結果を抜粋したものが、図表6である。これを見ると、85歳以上高齢者のニーズは、食事や掃除など家事援助や、外出時の送迎、健康づくりなど様々なものがある。市区町村によって設問と選択肢が異なるため、ニーズの全てを表している訳ではないが、備えを考える上で、一つの参考になるだろう。

また、要介護認定を受けている高齢者のニーズについては、厚生労働省が発表している「在宅介護等実態調査」の集計が参考になる1。全国集計で「在宅で暮らし続けていく上で必要なこと」(複数回答)という設問への回答をみると、「移送サービス(介護・福祉タクシー等)」(21.1%)、「外出同行(通院、買い物等)」(19%)、「見守り、声掛け」(14.6%)などが上位となっている。
図表6 85歳以上高齢者の生活上のニーズの例
 
1 坊美生子(2022)「高齢化と移動課題(上)~現状分析編~」(基礎研レポート)

6――おわりに

6――おわりに

日本が世界の高齢化先進国であることは、十分社会に熟知されていると思うが、その特徴の一つは急激な「高齢者の高齢化」である。戦後間もない1950年に全国で10万人に満たなかった85歳以上高齢者は、今ではすっかり珍しくなくなり、全国で600万人を超えた。日本全体の人口減少が進む中で、85歳以上人口は当面、増加し続け、2035年には1,000万人を超える大きな塊となる。同じ「超高齢社会」と言っても、前期高齢者の方が多かった5年前までと比べれば、ハード、ソフト両面で、必要とされる施設・設備やサービスのボリュームと比重が変わってくるだろう。 

85歳以上高齢者向けに提供するサービスとなると、援助の度合いが強まるため、民間事業として成立させるには高いハードルが予想される。かと言って、必要なサービスをすべて公的保険や公的財源で賄うことはできない。官民が協力し、行政サービスや保険サービスなどの公的サービスと、民間による保険外サービスを組み合わせて提供していくことが必要になるだろう。地域ごとにその仕組みを検討し、必要な人材やネットワークを育成・構築するには時間がかかる。「85歳以上1,000万人時代」にどう備えるか、今から検討が必要ではないだろうか。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2023年01月25日「基礎研レポート」)

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