2023年01月11日

2023年はどんな年? 金融市場のテーマと展望

基礎研REPORT(冊子版)1月号[vol.310]

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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(執筆時点:12月21日)
2022年も残すところわずかとなった。当稿執筆時点では年末の着地点が未確定だが、22年の市場を振り返り、23年の市場のテーマと動向を展望したい。

1―2022年は想定外の事象に翻弄

まず、22年のこれまでの市場の動きを振り返ると[図表1]、日本株(日経平均株価)は年初28700円台でスタートした後、一進一退となり、足元(12月21日時点)では26300円台と年初を下回っている。総じて上値の重い展開となった。
[図表1]株価とドル円相場(2022年)
上値を抑えた直接的な主因は米国株の下落だ。米国でインフレが急進し、FRBが急速な利上げを続けたことで米金利が急上昇、景気減速懸念が強まり米国株が下落した。この結果、投資家心理が悪化した海外勢による日本株売りが強まった。この間、国内での経済活動再開や円安は下支えとなったが、株価を押し上げるには力不足だった。また、年終盤には日銀が突如、事実上の利上げととれる緩和の修正に踏み切り、株価が押し下げられた。

次に、年初に0.0%台後半であった長期金利(10年国債利回り)は春から年終盤にかけて、0.2%台半ばでの膠着が続いた。既述の通り、米長期金利が急上昇して金利上昇圧力となるなか、日銀がオペによって許容上限である0.25%以下へ抑え込み、その近辺での膠着に繋がった。ただし、年終盤には緩和が修正され、長期金利の許容上限が0.5%前後に引き上げられたため、0.4%台へと急上昇した。

ドル円レートは年初115円台でスタートした後、大幅な円安ドル高が進み、10月には150円を突破した。米金利が急上昇する一方で、国内金利が日銀によって抑制されたことで日米金利差が急拡大したためだ。また、資源高などを受けた本邦貿易収支の大幅な赤字も円安をサポートした。この間に24年ぶりとなる円買い介入が実施されたが、相場の流れを変えるには至らなかった。一方、その後は円が急反発することになった。米利上げの鈍化観測が台頭したうえ、年終盤に日銀が緩和の修正に踏み切ったためだ。しかし、足元でも132円台と年初に比べれば大幅な円安水準にある。

今年の金融市場は、米インフレ急進やその一因となったロシアによるウクライナ侵攻、日銀の突然の緩和修正など多くの「想定外に翻弄された一年」だった。

2―2023年はどんな年?

それでは、2023年はどのような年になるだろうか?内外の注目材料を点検してみる[図表2]。
[図表2]2023年の主なスケジュール(見込み)
(1)米インフレと金融政策の行方
まず、23年の市場を展望する上で最も注目されるのは、22年の市場を揺るがした米国のインフレと金融政策の行方だ。米物価上昇率は低下基調にあるが、伸び率は依然極めて高く、物価目標である2%をはるかに上回っている[図表3]。米物価上昇率が今後目標に向けて着実に低下していけば、FRBは利上げを停止し、利下げを視野に入れることができるようになる。その際には米金利の低下を通じてドル円にとって円高ドル安要因になる。日本株にとっては、円高が逆風になるものの、米金利低下による米国株上昇という押し上げ効果が上回り、トータルでは上昇要因になると考えられる。

逆に物価上昇率が高止まりする場合には、利上げの長期化を通じて米金利が上昇することで、ドル円には円安ドル高要因に、日本株には下落要因になるだろう。
[図表3]米物価上昇率の実績とFOMC参加者見通し
(2)米国景気の行方
次に注目されるのは米国景気の行方だ。利上げは物価の抑制を目的に景気(需要)を冷やすべく行うものである。急速な利上げの影響で米国が景気後退に陥れば、日本経済も影響を免れず、日本株にとっては直接的には逆風となる。ただし、景気後退は米インフレの抑制に働くうえ、景気への配慮からもFRBに利上げ抑制・利下げを促すという面では株高要因にもなり得る。従って、その際の景気と金融政策のバランスが重要になる。ドル円にとっては米利上げを抑制して利下げを促すという点で円高ドル安要因になる。
(3)日銀金融緩和の行方
国内に目を転じた場合に注目されるのが日銀金融緩和の行方だ。日銀は22年末に実質的な緩和の縮小に動いたが、こうした動きが続くかどうかだ。来春に見込まれる日銀総裁の交代や、一部で報道されている政府・日銀の共同声明改定に向けた動きなどが影響する可能性もある。

23年も日銀が正常化に向けた緩和縮小に動けば、日本の金利上昇を通じてドル円にとっては円高ドル安要因になり、株価にとっては下落要因になるだろう。
(4)原油価格の行方
原油価格の行方も軽視できない。過去の投資不足や経済活動の再開、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う供給リスクなどから、原油価格は22年の春から初夏にかけて急騰した。その後は世界経済の減速懸念によって下落したものの、近年と比べて高めの水準に留まっている。

エネルギーを輸入に頼る日本の貿易収支は、原油価格が上昇すると輸入額が増加することで押し下げられる。また、LNG(液化天然ガス)の大半の値決め方式が原油価格に連動する形となっているため、原油高が時間差を伴ってLNG価格を押し上げ、貿易収支を押し下げるという波及経路もある。既往の原油高を受けて、日本の貿易赤字は大幅に拡大し、実需の円売りをもたらしてきた。また、原油価格の上昇が米物価上昇圧力を高め、利上げを通じてドル高に働いてきた面もある。

従って、今後、原油価格が上昇に向かえば、ドル円にとっては円安ドル高要因になる。一方、米政策金利の高止まりに繋がり米株の下落を促すことで、日本株にとっては下落要因になると考えられる。

なお、その他の注目材料としては、地政学リスク、とりわけ現在進行中のウクライナ侵攻や米中対立の行方が挙げられる。また、23年からねじれ議会となる米国の政治動向の経済への影響や中国のコロナ政策の行方もポイントになる。

3―メインシナリオとリスク

以上、23年の注目材料を取り上げてきたが、最も重要な材料は22年の市場を揺るがした米インフレと金融政策の行方だ。

足元の米国の高インフレは、需要面(経済活動の再開、労働需給逼迫に伴う賃金上昇など)、供給面(行動制限に伴う供給・物流網の混乱など)、価格ショック(資源価格上昇など)が複合的に作用したものだが、供給面の物価上昇圧力は既に緩和している。また、今後は利上げの効果で需要面の物価上昇圧力が和らぐことが期待される。米労働市場は良好な状態にあるため、今後利上げの効果が浸透しても、大幅な景気後退は避けられると見ている。

このことから、米物価上昇率は緩やかに低下に向かい、FRBは春に利上げを停止すると予想している。ただし、物価目標を大きく超える状況は続くことから、利下げは24年に先送りする可能性が高い。

日銀金融緩和については正常化に向けた大幅な修正は見送られると予想している。国内の物価上昇率が低下に向かい、2%を割り込む公算が高いうえ、インフレ圧力やその一因となった円安が修正されて日銀への風当たりも弱まるとみられるためだ。欧米経済の低迷も修正のハードルとなる。

足元80ドル弱にある原油価格は23年にやや上昇すると予想。当面は欧米の景気後退が上値を押さえるものの、西側による制裁によってロシアの原油供給が今後減少するうえ、中国で次第に経済活動の再開が進み需要が増加することで、国際的な原油需給が引き締まっていくと見込まれるためだ。この間、OPECプラスは今より原油価格を押し下げるような増産には応じないだろう。

以上の展開を踏まえ、ドル円については、米国の物価上昇率低下、利上げ停止、先々の利下げ織り込みを受けて円高ドル安に向かうと予想している。ただし、足元の市場は23年後半の複数回の利下げ実施を前のめりに織り込んでいるため、遠からずその修正が入り、一旦ドルが持ち直す局面が想定される。ドルが一旦持ち直し、その後利上げ停止・先々の利下げが再び織り込まれるにつれて下落していくイメージだ。また、日銀の大幅な緩和修正は予想していないものの、新総裁の就任や共同声明改定への思惑による修正観測が燻り、円高圧力となる場面もありそうだ。一方、原油価格の持ち直しに伴って、日本の多額の貿易赤字が継続することは円高ペースの抑制に作用するだろう。以上より、23年は緩やかな円高ドル安となると予想しており、年末時点では1ドル125円をやや上回る水準になると見込んでいる。

日本株については、年初に一旦下落する可能性が高いと見ている。FRBの利上げが継続中であるうえ、足元の市場が先々の利下げを織り込みすぎていることから、その修正が入ることで米金利が一旦上昇すると見込んでいるためだ。また、欧米が景気後退に入ることも逆風になる。米国株の下落が日本株に波及する形を想定している。一方、その後は次第に24年からの米利下げが意識されることで、米株価の上昇を通じて日本株も上昇に向かうだろう。年末時点の日経平均株価は29000円前後と予想している。

以上が中心的なシナリオだが、不確実性が高い点は否めない。予想の土台となる米物価上昇の先行き不透明感が強いためだ。従って、今後も動向を注視し、シナリオを小まめに点検していく必要がある。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2023年01月11日「基礎研マンスリー」)

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