2022年12月28日

VTuberの魅力をわかりやすく解説してみた-VTuberを構成する2つの魅力

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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6――ご当地VTuber

昨今では「ご当地」VTuberの活躍も目立つ。もともと町おこしの手段として活躍している「ゆるキャラ」は、いわゆる着ぐるみを着て販促活動を行ったり、キャラクターがデザインされたグッズやご当地品が発売されることが中心であった。ゆるキャラの多くが口を利かないケースが一般的であるが、そのキャラクターの声を固定してしまうと、販促活動に行くたびに声優も同伴しなくてはいけないため、コスト増加や活動範囲に制限が生まれる。もちろん口を利かなくとも、何かを伝えようとしている仕草そのものが「ゆるキャラ」の魅力であるため、その点を否定するつもりはないが、何かを宣伝したり、プロモーションするためには、他の誰かが代弁する必要があり、ゆるキャラではない別の人の声に消費者は耳を傾けなくてはならない。

一方、ご当地VTuberの多くが地域に根差した明確な活動目的を持っており、目的やコンセプトが明確であることから、ゆるキャラ同様にその地域の特色を表現した記号を組み合わせたビジュアルをしており、地域性や特色を反映したストーリー性やアイデンティティを擁することができる。何より、VTuberの構成要素に「声」があるため、ゆるキャラとは異なり彼ら、彼女たちのコトバで地元の魅力をプロモーションできる事はプロモーションに一貫性を持つことができるのである。

7――VTuberは革新的なコンテンツなのか

7――VTuberは革新的なコンテンツなのか

さて、ここまでVTuberの魅力を長々と認(したた)めてきたが、筆者自身VTuberは真新しい革新的なコンテンツであるとは思っていない。既存の様々なコンテンツのフォーマットがVTuberという側(フォーマット)を用いて配信されているにすぎないと考えているからだ。そこで、VTuberを既存のコンテンツと比較しながら、その特徴と違いについて説明したいと思う。

(ア)初音ミク
例えば、バーチャルキャラクターという側面だけで見れば、ヤマハ株式会社が運営するVOCALOIDの顔ともいえる「初音ミク」は2009年の『アニメロサマーライブ2009-RE:BRIGE‐」にてバーチャルデザインで歌唱を披露している15。彼女自身がVOCALOIDという特性から初音ミクコンテンツは「歌」が中心で、どのクリエーターが曲を作曲しても初音ミクの声で歌唱されるという特徴がある。VTuberは動画投稿者にとってのアバターのような役割を持っていたが、初音ミクはミクに自分の作った曲を歌わせたいというプロデュース対象であるという点で違いがあると言える。
 
15 https://www.oricon.co.jp/news/68591/full/「“初音ミク”、2万5000人前に初ライブ「はじめまして、初音ミクです!」」2009/08/24
(イ)動画カテゴリー
次に動画カテゴリーで見ていくと、「ゲーム配信」や「歌ってみた」といったジャンルは、ニコニコ動画やYouTubeでずっと投稿されてきたジャンルである。「ラジオ配信」においても、ニコニコ生放送やツイキャスなどのライブストリーミングサービスや個人で行うインターネットラジオのように長らく行われてきたジャンルである。そのため、VTuberというフォーマットは確かに新しく感じるかもしれないが、彼らが投稿する動画のカテゴリー自体は決して新しいモノではなく、我々が従来から消費してきたネットコンテンツの焼き直しでもあるのだ。

(ウ)YouTuber
次にYouTuberとの比較であるが、YouTuberにも「ヒカキン」や「はじめしゃちょー」のように素性を明かしているYouTuberと、自身をイメージした2次元のイメージをアイコンにして素性を明かさないYouTuberも存在する。前者とVTuberの違いは匿名性・覆面性である。素性を明かしていて、且つリアルな肉体運動ができるYouTuberはVTuberよりも活動範囲が広い。またVTuber同様インフルエンサーとしての側面を持つが、前述した通り、生身の人間であるが故にVTuberよりもスキャンダルや不祥事へのリスクが高い。併せてYouTuberは、自分自身とカメラがあればコンテンツ作成(動画撮影)できるのに対し、VTuberはVRデバイスやカメラを使い、モーションキャプチャー、Unityなどの3D等の技術介入が必須な点も大きな違いと言えるだろう。

一方後者の素性を明かしていないYouTuberと比較すると、双方ともに投稿者自身のアバターを使用しており、生み出されるコンテンツのカテゴリーも双方で大きな違いはない。YouTubeに限らず、2次元のイラストをアイコンとし自身のアバターとしている動画投稿者は様々な動画や音声配信プラットフォームに存在しており、そのよう動画投稿者と比較した場合、同じ2次元のキャラクターでも、バーチャルキャラクターとして動くのか否か、という点が違いと言えるだろう。

(エ)ゆっくり茶番劇
また、アバターを通して自身を表現するという意味では「ゆっくり茶番劇」も比較に欠かしてはいけないコンテンツである。「ゆっくり茶番劇」とは、AQUEST 社の「AquesTalk」や「棒読みちゃん」という音声合成ソフトで生成した音声を東方Project16のキャラクター「霊夢」と「魔理沙」にあてる(しゃべらせる)ことで作成されるゲーム実況や解説動画のことである17。2022年5月に話題となった「ゆっくり茶番劇」の商標登録問題で同コンテンツを認知している読者もいるのではないだろうか。ゆっくり茶番劇も動画投稿者の代わりに「霊夢」と「魔理沙」がアバターの役目となり、ゲーム実況や解説動画が投稿されている18,19。特に解説動画は専門的な知識を基に作られているモノが多く、VTuber同様覆面性があるからこそ、その道のプロや専門家が動画を投稿できていたと考えられる。覆面性や匿名性という特性からVTuberとは投稿されているジャンルには親和性があるが、両者の大きな違いは、「ゆっくり茶番劇」では動画投稿者は皆同じアバタ―と同じ音声(声)を使用しているため作成されるコンテンツは画一化されており、動画の差別化は「動画のカテゴリー」と「クォリティ」が中心となる。ある意味無機質で個性がないことが魅力とも言えるだろう。一方でVTuberは外見と声、またデザインを基に設定されたアイデンティティが他のVTuberとの差別化の要因になるため、より個性の側面が重視されているわけだ。
表2 VTuberと比較対象との「類似点」「異なる点」
 
16 同人サークル「上海アリス幻樂団」が展開するゲームを中心としたメディアミックス作品群
17 当時匿名ネット掲示板「2ちゃんねる」などで人気のあった「ゆっくりしていってね!!!」という AA (アスキーアート)に東方Projectのキャラクター「霊夢」と「魔理沙」の顔が当てられていた。その二人に音声合成ソフトで生成した音声が当てられる事が多かったため、「ゆっくり」と呼ばれるようになった
18 日経クロストレンドによれば「ゆっくり」関連動画は2008年にはジャンルとして定着しており、騒動のあった時点でニコニコ動画では約80万本以上の動画が配信されていたというほどネット文化に根付いたコンテンツである
19 https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/01859/ 日経クロストレンド「ドワンゴが見解 ネット騒然の「ゆっくり茶番劇」騒動とは何か」2022/05/26
20 ある程度かみ砕いて書いた点もあるため、少し雑な議論であると印象を受けた読者もいるかもしれない。その点を含め本レポートが、VTuberに関して何から手を付けていいかわからない人が抱く何か真新しい取っ付きにくいジャンルであるというイメージを少しでも払拭したかったという、筆者の考えがあったという事を理解いただきたい。

8――最後に

8――最後に

表2で整理したように、VTuberというフォーマット自体は目新しいコンテンツかもしれないが、彼らが投稿している動画の内容自体は、既存のコンテンツ(フォーマットやプラットフォーム)で投稿されていた動画と類似性もあり、決してとっつきにくい真新しいコンテンツという訳ではないと筆者は考える。また、VTuberの主な視聴者層は10~30代と言われているが、彼らは前述した初音ミクのようなバーチャルなキャラクターから供給されるコンテンツに対して、それ以前の世代よりも抵抗感が少ないと考えられる。併せて、2006年には全日帯のアニメ(キッズ・ファミリーアニメ)制作分数と深夜帯のアニメ製作分数がほぼ互角になるなど、深夜アニメが普及するにつれて大衆化していった。それに伴って深夜アニメ視聴がオタクだけではなくオタクではない層にも広がり、オタク文化自体も広がりを見せた結果、それ以前の層が抱いていた2次元キャラクターへのネガティブなイメージとは異なる、ポジティブな印象を持つ若者も多い。YouTuberも当初はマスメディアのコンテンツと比較され、色物の様に消費されていた時期もあったが、今では芸能人がYouTubeに参入したり、逆にYouTuberがマスメディアに出演するということも普通になってきている21。まだ、VTuberも若年層以外では大きな広がりを見せてはおらず、バーチャルなキャラクターというフォーマットそのものに抵抗感を抱く層もいるのは事実だが、VTuberが今後マスメディアに出演する機会は益々増えていくと思われる。

一方で、オリエンタルラジオの中田敦彦が自身のYouTubeにおいて、自身は今後出演せずアバターによる動画を投稿すると宣言した際に、反対意見が多く引退宣言を撤回したという事もあった。これは彼自身にブランド力があり、中田敦彦という人間そのものがコンテンツの魅力そのものだったからと言えるだろう。注目が集まるVTuberだが投稿者のブランド力によっては、必ずしもアバターが視聴者に受け入れられるという訳ではないことを留意したい。

本レポートでは「見た目」と「提供されるコンテンツ」の2つの側面からVTuberの魅力を解説した。もちろんあくまでも入門として書いたレポートであり、視聴者ごとにVTuberに対して抱く魅力は異なるだろうし、VTuberごとの特色や魅力も異なるだろう。今までVTuberコンテンツを視聴したことのない読者の皆さんには是非このレポートをきっかけに、VTuberを視聴してもらい各々で魅力を探究していただきたいと思う次第である。
 
21 テレビ朝日系列で放送されている『超人女子戦士 ガリベンガーV』ではメインキャストにVTuberを据えている。
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2022年12月28日「基礎研レポート」)

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