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- 携帯位置情報データによる街のミクストユース(Mixed-use)の評価 (2)-コロナ禍におけるJR山手線29駅の滞在人口変化
2022年12月27日
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1――はじめに
コロナ禍を経て、「Work(働く)」、「Live(暮らす)」、「Play(遊ぶ)」の機能・用途が混在した「Mixed-use(ミクストユース)」の街づくりが、改めて注目を集めている。
前稿では、「KDDI Location Analyzer(以下KLA)」の携帯位置情報データをもとに、2019年のJR山手線29駅周辺エリア(以下、JR山手線29駅)の滞在人口に占める「勤務者・居住者・来街者」の比率を比較し、相対的な偏りをもとに各駅の特性を「Work中心」、「Live中心」、「Play中心」、「バランス型」、「その他」に分類した(図表1)1。勤務者比率が高い駅(Work中心)は、東京・神田・浜松町・田町・大崎の5つで、このうち、東京と神田は居住者比率が低く、浜松町・田町・大崎は来街者比率が低い。居住者比率が高い駅(Live中心)は、駒込・西日暮里・日暮里・大塚・巣鴨・田端の6つで、このうち、駒込・西日暮里・日暮里は勤務者比率が低く、大塚は来街者比率が低く、巣鴨と田端は勤務者・来街者比率がともに低い。来街者比率が高い駅(Play中心)は、渋谷・原宿・上野・池袋・新大久保・新宿・有楽町の7つで、渋谷・原宿・上野・池袋・新大久保は勤務者比率も居住者比率も相対的に低くなく、新宿と有楽町は居住者比率が低い。そして、3つの比率に偏りのない駅(バランス型)は、品川・五反田・目黒・恵比寿・代々木・高田馬場・目白・御徒町・秋葉原の9つとなった。最後に、プラスの偏りのなくマイナスの偏りのみがある駅(その他)は、新橋・鶯谷の2つで、新橋は居住者比率が低く、鶯谷は勤務者比率が低い結果となった。
本稿では、引き続きKLAを用いて、上記のミクストユースの分類をもとに、コロナ禍におけるJR山手線29駅の滞在人口の変化を分析する。
前稿では、「KDDI Location Analyzer(以下KLA)」の携帯位置情報データをもとに、2019年のJR山手線29駅周辺エリア(以下、JR山手線29駅)の滞在人口に占める「勤務者・居住者・来街者」の比率を比較し、相対的な偏りをもとに各駅の特性を「Work中心」、「Live中心」、「Play中心」、「バランス型」、「その他」に分類した(図表1)1。勤務者比率が高い駅(Work中心)は、東京・神田・浜松町・田町・大崎の5つで、このうち、東京と神田は居住者比率が低く、浜松町・田町・大崎は来街者比率が低い。居住者比率が高い駅(Live中心)は、駒込・西日暮里・日暮里・大塚・巣鴨・田端の6つで、このうち、駒込・西日暮里・日暮里は勤務者比率が低く、大塚は来街者比率が低く、巣鴨と田端は勤務者・来街者比率がともに低い。来街者比率が高い駅(Play中心)は、渋谷・原宿・上野・池袋・新大久保・新宿・有楽町の7つで、渋谷・原宿・上野・池袋・新大久保は勤務者比率も居住者比率も相対的に低くなく、新宿と有楽町は居住者比率が低い。そして、3つの比率に偏りのない駅(バランス型)は、品川・五反田・目黒・恵比寿・代々木・高田馬場・目白・御徒町・秋葉原の9つとなった。最後に、プラスの偏りのなくマイナスの偏りのみがある駅(その他)は、新橋・鶯谷の2つで、新橋は居住者比率が低く、鶯谷は勤務者比率が低い結果となった。
本稿では、引き続きKLAを用いて、上記のミクストユースの分類をもとに、コロナ禍におけるJR山手線29駅の滞在人口の変化を分析する。
1 佐久間誠(2022)「携帯位置情報データによる街のミクストユース(Mixed-use)の評価 (1)」(不動産投資レポート、ニッセイ基礎研究所、2022年11月28日)
2――ミクストユースの特性で違いがみられる、滞在人口の変化
図表2は、ミクストユースの特性毎に、コロナ禍における滞在人口の変化率をバイオリン・プロットで示した。バイオリン・プロットは、データの確率密度曲線を左右対称に図示することで、複数のデータ分布をわかりやすく把握できるようにしたものである。具体的には、JR山手線29駅の月次の平均滞在人口(2020年4月~2022年10月)をミクストユースの特性毎に集計し、2019年同月対比で比較することで、コロナ禍における滞在人口の変化を示している。
ミクストユースの特性毎にみた滞在人口の変化率(中央値)は、減少率が小さい順に、Live中心(▲7.3%)>バランス型(▲19.7%)>Play中心(▲24.7%)>Work中心(▲27. 3%)>その他(▲29.1%)となった。また、滞在人口の変化率の標準偏差(データのバラツキ)は小さい順に、Live中心(6.4)<Work中心(8.6)<その他(9.1)<バランス型(10.2)<Play中心(12.0)となった。この標準偏差の違いは、図表2において、「Live中心」ではデータ分布が中央値近辺に固まっているのに対して、「Play中心」ではデータ分布が細長い形状となっており、視覚的にも把握することができる。
ミクストユースの特性毎にみた滞在人口の変化率(中央値)は、減少率が小さい順に、Live中心(▲7.3%)>バランス型(▲19.7%)>Play中心(▲24.7%)>Work中心(▲27. 3%)>その他(▲29.1%)となった。また、滞在人口の変化率の標準偏差(データのバラツキ)は小さい順に、Live中心(6.4)<Work中心(8.6)<その他(9.1)<バランス型(10.2)<Play中心(12.0)となった。この標準偏差の違いは、図表2において、「Live中心」ではデータ分布が中央値近辺に固まっているのに対して、「Play中心」ではデータ分布が細長い形状となっており、視覚的にも把握することができる。
3――滞在人口の変化に対する、居住者・勤務者・来街者の寄与度
続いて、コロナ禍における滞在人口の変化に対する、居住者、勤務者、来街者の寄与度を確認する(図表4)。まず、居住者は、コロナ禍での滞在人口への影響が軽微で、29駅のうち22駅で寄与度がプラスとなった。次に、勤務者は、全ての駅で寄与度がマイナスとなり、特に「Work中心」の駅で滞在人口減少に大きく影響した。「Play中心」や「バランス型」、「その他」においても一定の影響が見られたが、「Live中心」の駅では影響は限定的であった。ただし、品川駅(バランス型)や新橋駅(その他)では、「Work中心」の駅と同様、滞在人口減少に大きな影響を及ぼした。最後に、来街者は、「Play中心」や「バランス型」、「その他」の駅で滞在人口の減少に大きく影響したほか、東京駅や神田駅といった「Work中心」の駅でも大きくマイナスに寄与した。
4――ミクストユース特性による居住者・勤務者・来街者の変化の違い
5――おわりに
本稿では、JR山手線29駅を対象にミクストユースの特性に着目して、コロナ禍における滞在人口の変化を分析した(図表8)。滞在人口は、「Live中心」の駅で減少率が小さく、「Play中心」と「Work中心」の駅で減少率が大きい傾向にある。そして、「バランス型」はその中間に位置する結果となった。
また、コロナ禍において、勤務者は「Work中心」の駅で大きく減少し、「Live中心」や「Play中心」の駅では減少率が小さい傾向がみられる。来街者は「Play中心」の駅で大きく減少し、「Live中心」や「Work中心」の駅では相対的に減少率が小さかった。
つまり、今回のコロナ禍において、居住者の比率が高いエリアでは、勤務者や来街者の落ち込みが小幅にとどまり滞在人口が底堅く推移したのに対して、オフィス集積地や繁華街では、勤務者や来街者が落ち込んだことで滞在人口が大きく減少したと言える。このようにしてみると、不確実性の高い時代において、オフィスや商業施設など特定の機能に偏った街は環境変化に対する脆弱性が高いことを示唆しており、安定性を高めるために居住機能を組み入れることは、一考の余地がありそうだ。
ただし、本稿での分析はコロナ禍における下方耐性を示したに過ぎず、街のミクストユースの特性がもたらす長期的な成長性の違いを明らかにすることはできない。現状、携帯位置情報データはデータ期間が短いため、他のデータを用いて補完する必要があるだろう。
また、「バランス型」に分類された品川駅で滞在人口の減少率が最大となったほか、「Work中心」の駅でも来街者が大幅に落ち込むなどエリア間で違いも見られる。さらに、一括りに勤務者といっても、オフィスワーカーとエッセンシャルワーカーでは、コロナ禍における出勤状況が異なる。そのため、勤務者の属性を絞り込むことでより詳細な分析が可能になり、今後の課題としたい。例えば、KLAでは年齢や性別、平日・祝休日など細分化されたデータ分析が可能である。
人流と密接な関係にある不動産や都市開発の分野との親和性も高いことから、今後のさらなる活用に期待したい。
また、コロナ禍において、勤務者は「Work中心」の駅で大きく減少し、「Live中心」や「Play中心」の駅では減少率が小さい傾向がみられる。来街者は「Play中心」の駅で大きく減少し、「Live中心」や「Work中心」の駅では相対的に減少率が小さかった。
つまり、今回のコロナ禍において、居住者の比率が高いエリアでは、勤務者や来街者の落ち込みが小幅にとどまり滞在人口が底堅く推移したのに対して、オフィス集積地や繁華街では、勤務者や来街者が落ち込んだことで滞在人口が大きく減少したと言える。このようにしてみると、不確実性の高い時代において、オフィスや商業施設など特定の機能に偏った街は環境変化に対する脆弱性が高いことを示唆しており、安定性を高めるために居住機能を組み入れることは、一考の余地がありそうだ。
ただし、本稿での分析はコロナ禍における下方耐性を示したに過ぎず、街のミクストユースの特性がもたらす長期的な成長性の違いを明らかにすることはできない。現状、携帯位置情報データはデータ期間が短いため、他のデータを用いて補完する必要があるだろう。
また、「バランス型」に分類された品川駅で滞在人口の減少率が最大となったほか、「Work中心」の駅でも来街者が大幅に落ち込むなどエリア間で違いも見られる。さらに、一括りに勤務者といっても、オフィスワーカーとエッセンシャルワーカーでは、コロナ禍における出勤状況が異なる。そのため、勤務者の属性を絞り込むことでより詳細な分析が可能になり、今後の課題としたい。例えば、KLAでは年齢や性別、平日・祝休日など細分化されたデータ分析が可能である。
人流と密接な関係にある不動産や都市開発の分野との親和性も高いことから、今後のさらなる活用に期待したい。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年12月27日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1778
経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
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