2022年12月19日

東南アジア経済の見通し~観光関連産業の回復により内需中心に安定した成長が続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1.東南アジア経済の概況と見通し

(経済概況:コロナ規制の緩和による経済回復が続く)
東南アジア5カ国(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム)はコロナ禍からの経済の回復が続いている。各国政府はオミクロン株の感染が改善に転じた今春から観光産業の早期回復を目指して外国人観光客の受け入れを加速、これまで水際対策として実施していた入国規制(入国後の隔離措置や入国時の陰性証明書など)をほぼ撤廃したほか、オミクロン株の流行に伴い見合わせていた活動制限を更に緩和した。このため観光関連産業が持ち直し、国内の雇用所得環境が改善して内需が景気の牽引役となったほか、海外経済の回復により財貨輸出も堅調に推移している。
(図表1)実質GDP成長率 22年7-9月期の実質GDP成長率(前年同期比)はマレーシア(同+14.2%)、ベトナム(同+13.7%)フィリピン(同+7.6%)、インドネシア(同+5.7%)、タイ(同+4.5%)の5カ国が揃って4-6月期から上昇した(図表1)。特にマレーシアとベトナムは前年同期の実質GDPがデルタ株の感染拡大と活動制限措置の影響で低水準だったことによるベース効果が大きく二桁成長を記録した。
 
(図表2)消費者物価上昇率 (物価:年内高止まり、来年低下へ)
東南アジア5カ国の消費者物価上昇率(以下、インフレ率)は今年に入ってインフレが加速した(図表2)。経済活動の再開により内需が回復、ウクライナ情勢の悪化を受けて燃料や食品、金属など商品価格が幅広く上昇、そして米国利上げ開始により東南アジア通貨の減価傾向が強まり輸入インフレが加速したことが物価の押し上げ要因となった。もっとも足元では国際商品市況の頭打ちや金融引き締め効果の発現などによりタイやインドネシアではインフレ率がピークアウトしつつある様子が窺える。

先行きのインフレ率は、当面は米利上げペースの減速により各国通貨の減価圧力が弱まるものの、コロナ禍からの経済活動の回復により受給面からの物価上昇圧力が働いて高止まりするだろう。その後はこれまでの利上げ効果と通貨安による輸入物価上昇の一巡を受けてインフレが減速し、次第に落ち着きを取り戻すと予想する。
(図表3)政策金利の見通し (金融政策:2023年前半まで金融引き締め継続)
東南アジア5カ国の金融政策は今年、コロナ禍からの経済回復とインフレの加速、米国の利上げを背景とする自国通貨安を受けて金融引き締め策に転じた(図表3)。2022年累計の利上げ幅は未だインフレの加速が続くフィリピンが+3.5%と積極的な利上げを実施、続いてベトナムが+2.0%、インドネシアが+1.75%、マレーシアが+1.0%、タイが+0.75%となっている。

金融政策の先行きは、当面コロナ禍からの経済回復が続くなかでインフレが高止まりすることや米国の利上げ継続により各国中銀は金融引き締めを続けるだろう。しかし、2023年に入ると米国の利上げの打ち止めにより自国通貨の減価圧力が弱まるほか、各国のインフレ圧力が低下するなか、東南アジア5カ国の金融引き締め策は年前半に終了すると予想する。
(経済見通し:観光関連産業の回復により安定した成長が続く)
東南アジア5カ国の経済は、昨年の感染拡大に伴う経済停滞によるベース効果が剥落して10-12月期の成長率が低下、その後も財貨輸出の鈍化により景気回復の勢いが弱まるものの、内需を中心に安定した成長が続くと予想する。

外需はサービス輸出の好調が続く一方、財貨輸出の鈍化と輸入の拡大により経済成長の牽引力が弱まるだろう。財貨輸出はロックダウンによる景気の持ち直しが見込まれる中国向けの輸出が回復、資源関連の需要が持続するものの、金融引き締めによる欧米経済の減速や半導体需要の減退などから伸びが鈍化するだろう。一方、サービス輸出は北東アジアからの外国人観光客が増加するためインバウンド需要の回復が続くだろう。
(図表4)実質GDP成長率の見通し 内需は堅調な伸びを維持すると予想する。引き続きこれまでの入国規制や飲食店・娯楽施設などの営業制限の緩和により観光関連産業の回復が見込まれるため、サービス業を中心に雇用情勢が改善して賃金の上昇傾向が続くだろう。足元の物価と金利の上昇や政府の消費者支援策の規模縮小が消費への下押し圧力となるものの、民間消費は堅調な伸びが続くと予想する。また投資は当面消費需要の回復による企業収益の増加やコロナ禍で遅れていたインフラ整備の進展が見込まれるが、財貨輸出の鈍化や金融引き締めによる企業の資金調達コストの増加などにより増勢が鈍化すると予想する。なお、中国からの生産移転による投資の流入は引き続き投資の下支えとなるだろう。

以上の結果、2022年はコロナ禍からの経済の正常化により成長率が大きく上昇するが、2023年は財貨輸出の鈍化や高インフレ、金利の上昇などから成長率が低下する国が多くなると予想する(図表4)。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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