2022年12月13日

ASEANの貿易統計(12月号)~10月の輸出は中国向けが再び減少して大きく鈍化

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

文字サイズ

22年10月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比3.1%増となり、前月の同12.1%増から伸びが大きく鈍化した(図表1)。輸出はコロナ禍で停滞した世界経済の再開や半導体需要の増加、商品市況の高騰により好調が続いたが、足元では資源価格の軟化や欧米を中心とした外部環境の悪化により増勢が急速に鈍化している。先行きは中国経済の正常化や域内経済の回復、半導体不足の解消が輸出の押し上げ要因となるが、世界的な高インフレと金融引き締めを背景とした世界経済の減速により緩やかな増加傾向にとどまるものとみられる。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、10月はコロナ規制が強化された中国向け(同3.7%減)が3ヵ月ぶりに減少して東アジア向け(中国を含む)が同4.0%増(前月:同8.8%増)と鈍化した(図表2)。また景気が減速している北米向けが同1.8%増(前月:同13.9%増)と失速した。EU向けは同8.9%増(前月:同16.1%増)、東南アジア向けは同7.0%増(前月:同21.6%増)と堅調を維持したものの、増勢は鈍化しており、景気減速の影響が現れつつあるようだ。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6カ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの22年10月の輸出額(通関ベース)は前年同月比5.2%増(前月:同9.9%増)の279億ドルとなり、伸びが鈍化した(図表3)。輸出の基調はコロナ禍からの世界経済の再開や電子機器の需要拡大により増加傾向が続いたが、足元ではスマートフォンの出荷が不調で増勢が鈍化している。一方、輸入額は前年同月比6.7%増(前月:同4.9%増)の279億ドルとなり、伸びが加速した。結果として、貿易収支は+25.7億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から11.4億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比5.4%減(前月:同12.3%減)とマイナスの伸びが続いたものの、電気製品・同部品が同12.1%増(前月:同7.7%増)の二桁増となった(図表4)。アパレル関連では、履物が同109.4%増(前月:同163.9%増)と大幅な伸びが続いたが、織物・衣類は同2.0%増(前月:同18.7%増)と伸びが大きく鈍化した。農林水産物を見ると、カシューナッツ(同24.0%減)やコーヒー(同4.9%減)が減少した一方、天然ゴム(同21.7%増)や野菜(同8.9%増)、コメ(同6.0%増)は増加傾向で推移するなど、品目によってばらつきがみられた。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同9.6%増(前月:同14.1%増)と堅調に推移したが、地場企業が同5.9%減となり、前月の同1.6%減に続いて減少した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの22年10月の輸出額(通関ベース)は前年同月比4.4%減(前月:同7.8%増)の217億ドルと減少した(図表5)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した経済活動の再開や世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いているが、10月は海外需要の鈍化を受けて20ヵ月ぶりのマイナスの伸びとなった。また輸入額も前年同月比2.1%減(前月:同15.6%増)の223億ドルと減少した。結果として、貿易収支が▲6.0億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から2.6億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の約7割を占める工業製品が同6.3%減(前月:同4.9%増)と減少した(図表6)。製造品の内訳を見ると、主要製品である電子機器(同7.1%減)、家電製品(同2.2%減)、自動車・部品(同0.2%減)が減少に転じたほか、石油化学製品(同20.6%減)や金属・鉄鋼(同16.7%減)、機械・装置(同5.0%減)などが低迷した。また鉱業・燃料は同26.6%減となり、前月の同3.6%減から更に落ち込んだ。石油製品(同27.2%減)を中心に3ヵ月連続で減少した。このほか、農産物・同加工品は同4.0%減となり、前月(同3.4%減)に続いて減少した。コメ(同1.1%増)や加工食品(同0.3%増)は小幅に増加したものの、ドリアン(同52.5%減)や天然ゴム(同29.6%減)が低迷するなど、総じて減少した品目が多かった。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの22年10月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比1.9%増の280億ドルとなり、前月の同19.2%増から大きく鈍化した(図表7)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した経済活動の再開や電気電子製品、石油ガス製品の需要拡大を追い風に増加傾向が続いているが、10月は世界的な需要の鈍化を受けて失速した。また輸入額も前年同月比14.5%増(前月:同21.7%増)の241億ドルと鈍化した。結果として、貿易収支が+38.5億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から31.5億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同3.6%増(前月:同27.1%増)となり、主力の電気・電子製品(同5.5%増)を中心に大きく鈍化した(図表8)。また化学製品(同10.4%減)と動植物性油脂(同18.9%減)が落ち込んだほか、ゴム手袋(同62.1%減)がコロナ禍で需要が急増した反動で低迷した。一方、鉱物性燃料は同70.3%増(前月:同79.2%増)と好調だった。石油製品(同65.5%増)と天然ガス(同101.9%増)、原油(同80.3%増)の大幅な増加が続いた。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの22年10月の輸出額(通関ベース)は前年同月比11.9%増の247億ドルと大幅な増加が続いているが、伸び率は前月の同20.2%増から鈍化した(図表9)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した経済活動の再開や国際商品市況の上昇により好調が続いているが、足元では海外経済の減速により輸出の勢いが鈍化しつつある。また輸入額も前年同月比17.4%増(前月:同22.0%増)の191億ドルと、伸びが鈍化した。結果として、貿易収支が+55.9億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から6.2億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、全体の9割を占める非石油ガス輸出が同11.4%増(前月:同19.2%増)、石油ガス輸出が同29.2%増(前月:同40.2%増)となり、それぞれ伸びが鈍化した(図表10)。自動車・同部品(同49.8%増)と電気機械(同33.9%増)、化学製品(同9.8%増)は伸びが加速した一方、機械類(同14.9%増)と鉱産物(同29.9%増)は伸びが鈍化した。また一次産品価格の下落傾向により動植物性油脂(同3.5%増)や鉄・鉄鋼(同0.7%増)など増加ペースが大きく鈍化した品目もある。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの22年10月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比10.4%減(前月:同1.7%減)の108億ドルとなり、3年ぶりの二桁減を記録した(図表11)。輸出は昨年から世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により増加傾向が続いたが、今年に入り増勢が弱まり、足元では中国向けとEU向けが振るわず減少に転じている。なお、総輸出額は同1.0%増(前月:同14.5%増)の400億ドル、総輸入額が同5.5%増(前月:同15.7%増)の374億ドルとなり、それぞれ大きく鈍化した。結果として、貿易収支が+26.4億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から21.0億ドル縮小した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別にみると、まず全体の約2割を占める電子製品は同13.9%減(前月:同14.8%減)と低迷した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、PC(同6.2%増)が増加に転じたものの、主力のIC(同15.6%減)やディスクメディア(同48.5%減)が落ち込んだ。また全体の約3割を占める化学品は同23.8%減(前月:同5.0%減)となり、一段と減少した。化学品の内訳を見ると、医薬品(同38.0%減)と石油化学製品(同22.5%減)がそれぞれ低調だった。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの22年10月の輸出額(通関ベース)は前年同月比20.0%増(前月:同7.1%増)の77億ドルとなり、伸びが加速した(図表13)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した世界経済の再開に伴う回復の動きに一服感がみられていたが、足元はエレクトロニクスセクターの急増に支えられて増勢が強まっている。一方、輸入額は前年同月比7.5%増の110億ドルとなり、前月の同14.4%増から鈍化した。結果として、貿易収支が▲33.1億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から15.4億ドル縮小した。

輸出シェア上位10品目をみると、まず輸出全体の6割弱を占める電気製品が同39.6%増(前月:同19.3%増)と2ヵ月連続で増加した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、電子データ処理機(同29.9%減)の大幅な減少が続いたものの、主力の半導体デバイス(同62.7%増)が一段と増加した。その他9品目についてはイグニッションワイヤーセット(同26.1%増)や機械・輸送用機器(同1.9%増)が増加したものの、製錬銅(同34.5%減)や化学品(同33.6%減)、その他製造品(同13.5%減)、その他鉱業品(同11.5%減)、金属部品(同9.0%減)、電子機器・部品(同2.9%減)、ココナッツオイル(同1.1%減)が減少するなど、総じて減少した品目が多かった。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年12月13日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【ASEANの貿易統計(12月号)~10月の輸出は中国向けが再び減少して大きく鈍化】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ASEANの貿易統計(12月号)~10月の輸出は中国向けが再び減少して大きく鈍化のレポート Topへ