2022年12月09日

米国経済の見通し-23年初からのマイルドな景気後退を予想

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(住宅投資)住宅ローン金利の上昇から23年にかけて住宅需要の低下は継続
実質GDPにおける住宅投資は、22年7-9月期が前期比年率▲26.8%と6期連続のマイナス成長となったほか、マイナス幅は20年4-6月期(▲27.4%)以来の水準となった。また、住宅着工件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比、年率)は22年10月が▲8.0%(前月:▲38.7%)とマイナス幅が縮小したものの、先行指標である住宅着工許可件数(同)は▲31.5%(前月:▲28.7%)と大幅なマイナスが持続しているほか、マイナス幅が拡大していることから、10-12月期の住宅投資も大幅なマイナス成長となる可能性が高い(図表13)。

住宅需要の低下はこれまでの住宅価格の上昇に加え、FRBによる政策金利の大幅な引き上げを受けて住宅ローン金利が上昇したことで住宅ローン返済額が大幅に増加したことが大きい。実際に住宅ローン金利が22年初の3.3%から10月下旬から11月上旬にかけて7.1%台をつけた後、足元でも6%台半ばと大幅に上昇した(図表14)。また、住宅ローン金利の上昇に伴い米国抵当銀行協会(MBA)の住宅購入と借り換えを合わせた住宅ローン申請件数は足元で204近辺と21年1月下旬の980近辺から大幅に低下し、97年6月以来の水準に減少するなど住宅ローンに対する需要は大幅に低下している。
(図表13)住宅着工件数と実質住宅投資の伸び率/(図表14)住宅ローン金利および住宅ローン申請件数
今後も住宅ローン金利の上昇継続が見込まれる中、住宅需要の低下は続こう。当研究所は実質GDPにおける住宅投資(前年比)が22年見込みの▲10.2%から23年は▲12.3%とマイナス幅が拡大した後、大幅なマイナスの反動に加え、金融緩和に転じることもあって24年は+3.1%とプラス成長に転じることを予想する。
(政府支出)ねじれ議会でバイデン政権が目指す政策の実現は困難
10月1日からの23年度予算の編成作業では、議会が本予算で合意できておらず、12月16日を期限とする暫定予算で凌ぐ状況が続いている。現在、年度末までの統合歳出法案について与野党で協議が行われているが、次期下院議長就任が有力視されている下院少数政党院内総務のマッカーシー議員が新議会となる来年1月までの暫定予算を要求するなど、共和党内で意見が分かれている。一方、報道では統合歳出法案の予算規模については概ね前年度から1割以上の増額となる1.6~1.7兆ドルで与野党が合意しているものの、非国防関連予算などで与野党の隔たりが大きく、16日の期限までに合意するのは困難との見方が強まっている。このため、統合歳出法案で合意するための時間稼ぎとして年内を期限とする新たな暫定予算を可決するとの見方も出ているようだ。

来年以降の財政政策については、バイデン政権からは具体的な提案がでていないものの、インフレ削減法の審議過程で当初のビルドバックベター法案から削除された家計や教育、介護支援に加え、企業や富裕層に対する課税強化の実現を目指すとみられる。また、下院共和党はインフレ高進をバイデン政権による大規模な歳出拡大としており、インフレ抑制のためにも社会保障などの歳出削減を目指す方針を明確にしている。

しかしながら、新議会がねじれ議会となることで与野党の対立からこれらの政策が実現する可能性は低いとみられる。さらに、来年以降景気後退が深刻化した場合に新型コロナの感染が拡大した時期にみられたような超党派による迅速な経済対策も、24年の大統領選挙を控えて共和党との合意が得難いとみられることから実現の可能性は低いだろう。

いずれにせよ歳出や歳入に対する現行法からの大幅な政策変更の可能性は低いだろう。
(図表15)連邦法定債務上限および債務残高 一方、新議会で下院議長就任が有力視される共和党のマッカーシー議員は自分たちが要求する政策実現のために、連邦債務上限の引上げを政治問題化することを明言している。米国では連邦債務残高の上限が法律で定められており、現在は31.4兆ドルとなっている(図表15)。債務残高は23年夏場には債務上限に抵触するとみられており、それまでに議会が債務上限の引上げで合意できない場合、米国債がデフォルトする可能性があるため、経済への影響が大きい。

与野党ともにデフォルトは望んでおらず、実際に米国債がデフォルトする可能性は低い。しかしながら、与野党の対立が激化し、債務上限の引上げリスクが高まると金融市場が不安定化を通して米経済にネガティブに影響しよう。

当研究所は実質GDPにおける政府支出(前年比)予想について、大幅な歳出や歳入の拡大は見込めないものの、これまで実施した経済対策効果の剥落で大幅な歳出減少となった22年の反動もあって、23年は+1.2%、24年が+1.2%と小幅ながらプラス成長となろう。
(貿易)海外との成長率格差から23年以降、外需の成長率寄与度は小幅なプラスが継続
実質GDPにおける外需の成長率寄与度は22年7-9月期に+2.9%ポイントと成長率を大幅に押し上げたが、輸出入の内訳をみると輸出が前期比年率+15.3%(前期:+13.8%)と2桁の伸びとなった前期からさらに伸びが加速したほか、輸入が▲7.3%(前期:+2.2%)と前期からマイナスに転じており、当期は輸出入ともに成長率を押し上げる方向に働いた。とくに、輸出はウクライナ侵攻に伴う石油・石油製品が前期比年率+41.0%(前期:+36.0%)と前期に続き大幅な伸びを示した。しかしながら、このような大幅な輸出の増加は持続不可能だろう。

実際に、先日発表された22年10月の貿易収支(3ヵ月移動平均)は季節調整済で▲727億ドル(前月:▲702億ドル)の赤字となり、前月から赤字幅が▲25億ドル拡大した(図表16)。輸出入では輸入が+10.8億ドル増加したほか、輸出が▲14.1億ドル減少しており、輸出は勢いを失っている。このため、実質GDPにおける外需の成長率寄与度は10-12月期にマイナスに転じるだろう。

一方、IMFの見通しに基づく米国の輸出相手国上位10ヵ国の平均成長率は、23年と24年ともに輸出相手国の成長率が当研究所の米国成長率見通しを上回るとみられる(図表17)。このため、海外との成長格差から、純輸出の成長率寄与度は23年以降に再びプラスに転じる可能性を示唆している。

当研究所は外需の成長率寄与度について、22年見込の▲0.8%ポイントから23年、24年ともに+0.2%ポイントと小幅ながらプラス寄与を予想する。
(図表16)貿易収支(財・サービス)/(図表17)米国の輸出相手国の成長率と外需の成長率寄与度
なお、バイデン大統領の対中関税政策については一時インフレ抑制の観点から一部を削減することなどの見直しが議論されたが、現状で対中関税政策の見直しは行われていない。米国通商代表部(USTR)は18年7月(リスト1)と8月(リスト2)に発動した制裁関税について22年9月に国内産業界から継続の要望があったとして継続することを発表した一方、11月15日から23年1月17日までの期間にパブリックコメントを受けるとしている。バイデン政権が来年以降にどのような方針を示すのか注目される。

3.物価・金融政策・長期金利の動向

3.物価・金融政策・長期金利の動向

(物価)消費者物価(前年同月比)の総合指数は既にピークアウト、24年末に向けて緩やかに低下
消費者物価(前年同月比)の総合指数は22年6月に+9.1%と40年半ぶりの水準に上昇したものの、その後は低下基調が持続している(前掲図表4)。22年10月の中身をみると、原油価格の下落などからエネルギー価格指数は22年6月の+41.6%から+17.6%に大幅な低下が続いているほか、食料品価格も+10.9%と水準は依然として高いものの、2ヵ月連続で低下した(図表18)。このため、総合指数は既にピークアウトした可能性が高い。

また、コア財価格指数は+5.1%と22年2月の+12.3%をピークに低下基調が持続している。とくに、半導体不足に伴う自動車生産の落ち込みで、これまでコア財価格を押し上げていた中古車や新車価格が、半導体不足の解消に伴う自動車生産の回復から低下に転じていることが大きい。実際に、10月は中古車価格が+2.0%と22年2月の+41.2%から大幅に低下したほか、新車価格も+8.4%と22年4月の+13.2%から低下基調が持続している。この傾向は暫く続きコア財価格を押し下げよう。

最後に、コアサービス価格は+6.7%と依然として上昇基調が持続している。コアサービス価格の6割と大きなウェイトを占める住居費が+6.9%と上昇に歯止めが掛かっていないほか、コアサービス価格と連動性の高い賃金上昇率が前述のように労働需給の逼迫を背景に高止まりしていることが大きい。もっとも、CPIの住居費のうち、家賃価格に12ヵ月先行する傾向があるオンライン不動産データベースを運用するZillowの家賃指数(ZORI)は前年同月比の伸びが今年2月に+17.1%とピークをつけて10月には+9.6%まで低下していることから、来年春先にも住居費は低下基調に転じる可能性が高い。このため、コア価格指数も来年春先以降は低下基調が明確になろう。

一方、インフレ高進の要因の1つとなっている供給制約については、世界サプライチェーン圧力指数が21年12月に過去の平均からの標準偏差が4.3となった後、11月が1.2と急速に低下してきており、供給制約の回復を示しているものの、9月の0.9からは小幅ながら2ヵ月連続で上昇に転じており、足元で回復の足踏みがみられる(図表19)。今後も供給制約は回復が続くとみられるものの、新型コロナの感染拡大に伴う中国のゼロコロナ政策の影響で再びグローバルサプライチェーンに混乱がみられるのか供給制約の回復動向みる上で注目される。

当研究所は原油価格が足元の70ドル台前半から23年末に89ドル、24年末に90ドルに緩やかに上昇すると予想しているものの、22年の平均価格の98ドルから前年同月比でみたエネルギー価格の伸びは2桁のマイナスが見込まれるほか、24年も小幅なプラスに留まると予想している。

このため、消費者物価は前年同月比でみたエネルギー価格の低下に加え、供給制約の緩やか回復などから、消費者物価の総合指数(前年比)は22年見込の+8.1%から23年は+4.1%、24年は+2.4%に低下すると予想する。

もっとも、ウクライナ侵攻に伴うエネルギーや食料品価格、新型コロナの感染動向などインフレを取り巻く環境は不透明であり、今後のインフレ見通しは非常に不透明である。
(図表18)CPI内訳(前年同月比)/(図表19)世界サプライチェーン圧力指数
(金融政策)政策金利は22年末が4.50%、23年末が5.0%、24年末が3.5%を予想
FRBはインフレが一時40年半ぶりの水準に加速する一方、失業率が過去50年で最も低い水準に近いことを受けて、金融政策運営においてインフレを抑制するために前述のように90年代以降で最も早いペースで政策金利の引上げを実施したほか、今後も金融引締めを継続する姿勢を明確にしている。
(図表20)政策金利およびFOMC参加者見通し また、11月のFOMC会合後に行われたFRBのパウエル議長の記者会見や公開された議事要旨では、政策金利の引上げペースを減速させる一方、FF金利の最終的な到達水準は9月会合後に示された見通しより高くなる可能性が示された。このため、12月会合では政策金利の引上げ幅が前回の0.75%から0.5%に縮小されることが見込まれる一方、12月会合後に発表されるFOMC参加者の政策金利見通し(中央値)は9月時点の予想である23年末の4.6%から上方修正されよう(図表20)。

当研究所は12月会合で政策金利が0.5%引上げられた後、インフレ率は物価目標を大幅に上回るものの、インフレ率の低下基調が持続しするほか、米国経済が景気後退に陥ることから、23年は2月と3月の会合で利上げ幅をそれぞれ0.25%にさらに縮小し、その後は23年を通じて政策金利を据え置くと予想する。

一方、24年入り後は消費者物価のコアインフレ率が2%台半ば近辺とFRBの物価目標(PCE価格指数で2%、CPI換算では2.3%程度)の達成が視野に入ることから、FRBは24年1-3月期に利下げに転じ、インフレ率が物価目標水準に低下する中、景気浮揚のために24年は合計1.5%ポイント引き下げ、24年末の政策金利を3.5%に低下させよう。

一方、バランスシート政策については、FRBは償還金を再投資しない形で米国債とMBS債の合計で9月以降は月950億ドルのペースで縮小させている。パウエル議長はこれまで金融政策の調整手段は一義的には政策金利としているため、バランスシートの縮小金額を機動的に調整する可能性は低いだろう。このため、当面FRBは月950億ドルの削減ペースを維持するとみられる。
(長期金利)22年10-12月期平均が3.8%、23年が同3.6%、24年が同2.9%への低下を予想。
長期金利(10年金利)は10月に発表されたインフレ関連指標が上振れしたほか、FRB高官からのタカ派発言などもあって、10月下旬に一時4.2%台まで上昇した(図表21)。しかし、その後は11月に発表された前述の10月CPIなどインフレ関連指標が下振れしたほか、米国の景気減速懸念の高まりなどもあって足元は3.5%近辺まで急激に低下した。
(図表21)米国金利見通し 当研究所は、来年にかけて金融引締めが継続することもあり、長期金利は22年末に3.6%、10-12月期平均で3.8%まで上昇すると予想する。また、23年は景気後退に陥るほか、政策金利が4月以降は据え置かれることから10-12月平均で3.6%に低下、24年もインフレ率の低下基調が持続するほか、1-3月期に利下げに転じることもあって、10-12月期平均で2.9%まで低下しよう。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年12月09日「Weekly エコノミスト・レター」)

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