2022年12月09日

米国経済の見通し-23年初からのマイルドな景気後退を予想

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)7‐9月期の成長率は3期ぶりにプラス成長、外需が成長を大幅に押上げ
米国の22年7-9月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+2.9%(前期:▲0.6%)となり、3期ぶりにプラス成長となった(図表1、図表5)。

需要項目別では、外需の成長率寄与度が+2.9%ポイント(前期:+1.2%ポイント)と前期からプラス幅が拡大し成長率を大幅に押し上げた。当期のプラス成長は外需の影響が大きい。

一方、民間設備投資が前期比年率+5.1%(前期:+0.1%)と前期から伸びが加速したものの、個人消費が+1.7%(前期:+2.0%)と伸びが鈍化したほか、住宅投資が▲26.8%(前期:▲17.8%)とマイナス幅が拡大した。これらの結果、民間需要を示す民間国内最終需要は前期比年率+0.5%(前期:+0.5%)と22年1-3月期の+2.1%から4-6月期以降は2期連続で低成長が続いている。

一方、FRBはインフレ抑制のために22年3月から政策金利の引上げを開始し、6月から11月にかけてFOMCの4会合連続で0.75%引上げるなど、11月までの政策金利の引上げ幅は合計3.75%ポイントとフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を主要な金融政策手段とした90年代以降で最も早い利上げペースとなっている(図表2)。

また、バランスシート政策についても6月に量的引締めを開始し、9月以降は米国債と住宅ローン担保証券(MBS)を合わせて月950億ドルのペースで縮小させている。

これらの金融引締めの結果、株式、信用スプレッド、為替、金利など一連の市場指標を元にゴールドマン・サックスが推計した米国金融環境指数は22年初の97近辺から10月下旬には一時101弱と新型コロナ感染拡大の懸念から金融環境が大幅に引締まった20年3月以来の水準に急上昇した(図表3)。金融環境の引締まりは既に大幅な悪化を示している住宅市場をはじめ金利に敏感な経済分野から時間差で実体経済を減速させる効果がある。
(図表2)政策金利引き上げペース比較/(図表3)米国金融環境指数
(図表4)消費者物価主要指数 もっとも、11月上旬に発表された10月の消費者物価指数(CPI)は、総合指数が前年同月比+7.7%(前月:+8.2%)と前月、市場予想(+7.9%)を下回ったほか、物価の基調を示すコア指数も+6.3%(前月:+6.6%)とこちらも前月、市場予想(+6.5%)を下回った(図表4)。とくに、コア指数は8月から2ヵ月連続で上昇したため、基調としての物価上昇圧力の高まりが懸念されていたが、10月は3ヵ月ぶりに低下に転じた。さらに、CPI構成品目のうち価格変化率の大きいものと小さいものを除いて加重平均した刈り込み平均指数も10月が前年同月比+7.0%(前月:+7.3%)とこちらも21ヵ月ぶりに低下したことから、インフレは既にピークアウトし基調としての物価上昇圧力が低下した可能性が示唆された。

インフレ懸念が幾分後退したこともあって、10月のCPI発表以降に株価上昇、債券金利低下など金融環境は大幅に緩和しており、前述の金融環境指数は足元で100割れと22年9月上旬以来の水準まで低下している。

金融環境の緩和は実体経済にはプラスに作用するものの、インフレ抑制のための金融引締めの効果を減殺するため、今後FRB高官からタカ派的な発言が見込まれるほか、金融環境の緩和状況が持続する場合には政策金利の引上げ期間が長期化する可能性があり、今後の動向が注目される。
(経済見通し)成長率は22年が前年比+1.9%、23年は+0.3%、24年が+1.5%を予想
9月の予測時点と同様、今後のインフレや金融政策の動向が見通し難い中で、米国経済見通しは非常に不透明である。当研究所は見通し前提として、22年6月にみられたようなウクライナ侵攻に伴うエネルギーや食料品価格の高騰は回避され、インフレ率は24年末にかけて緩やかに低下、FRBは23年3月以降、政策金利を5%で据え置き、24年1-3月期に利下げに転じるとした。

これらの前提の下、既に民間需要の低下が顕著となる中、当研究所はFRBの金融引き締めに伴う金融環境の引締まりから23年初から住宅投資の落ち込みが続くほか、設備投資も減少に転じることに加え、個人消費が大幅に減速することから、23年初から景気後退に陥いると予想する。実質GDP成長率(前期比年率)は23年1-3月期から4-6月期にかけてマイナス成長となるほか、通年(前年比)で23年は+0.3%と22年見込みの+1.9%から大幅に低下しよう(図表5)。当面はインフレ率がFRBの物価目標を大幅に上回ることが見込まれる中、FRBはインフレ抑制を景気より優先する姿勢を明確にしているため、金融引締めによる米国の景気後退は不可避だろう。もっとも、足元の堅調な労働需要や、家計のバランスシート、潤沢な家計の過剰貯蓄などもあって深刻な景気後退は回避され、マイルドな景気後退に留まるとみられる1

一方、政策金利の引上げが停止される23年後半は景気が持ち直すほか、24年1-3月期にFRBが金融緩和に転じることもあり、24年は景気回復を予想するものの、成長率は前年比+1.5%と潜在成長率(1%台後半)を下回る水準に留まろう。

物価は、前年同月比でみたエネルギー価格の伸び鈍化や供給制約の緩やかな解消などから、24年末にかけてインフレ率の緩やかな低下を予想する。当研究所は消費者物価の総合指数が22年は前年比+8.1%となった後、23年が+4.1%、24年が+2.4%へ低下すると予想する。もっとも、ウクライナ侵攻に伴うエネルギーや食料品価格に加え、新型コロナの影響を受けた供給制約の動向など、インフレを取り巻く環境は依然として不透明であり、インフレ見通しには上振れリスクがある。

金融政策は、FRBが22年12月に0.5%の利上げを実施し、政策金利を22年末に4.50%まで引き上げると予想する。23年入り後もインフレ率が依然として物価目標水準を大幅に上回るものの、インフレ率の低下基調の持続に加え、景気後退から2月と3月のFOMC会合で利上げ幅を0.25%に縮小した後、23年内は政策金利を5.0%で据え置こう。

FRBが利下げに転じる時期はインフレ率がFRBの物価目標の達成が視野に入る水準に低下する24年1-3月期となろう。FRBはインフレ率の低下基調が持続する中24年は合計1.5%ポイントの引下げを実施し、24年末の政策金利は3.5%まで低下しよう。バランスシートは9月以降、米国債とMBS債の合計で毎月950億ドルの減少ペースを23年内は維持しよう。

長期金利はインフレ率の高止まりと来年にかけて利上げが継続されることから、足元の3.5%近辺から22年末に3.6%まで上昇し、22年10-12月期平均では3.8%となろう。また、インフレ率の低下に加え、政策金利の据え置きもあって23年10-12月期には同3.6%まで低下しよう。24年もインフレ率の低下が続くほか、金融緩和に転じることから24年10-12月期に同2.9%までの低下を予想する。
(図表5)米国経済の見通し
上記見通しに対するリスクは、インフレ高進による政策金利の上振れと米国内政治が挙げられる。

ウクライナ侵攻の長期化により、エネルギー、食料品価格などが再び急騰することでインフレ高進が長期化し、政策金利の引上げ幅拡大や23年以降に引上げペースが再加速される場合には、需要が抑制されることで景気は下振れしよう。

一方、米国政治では11月に実施された中間選挙の結果を受けて、来年1月の新議会では上院では与党民主党が過半数、下院では野党共和党が過半数となり、上下院で多数政党の異なるねじれ議会となることが決まっている。

米国では法案を成立させるために上下両院で可決する必要ある。ねじれ議会では、与野党の対立からバイデン政権や下院共和党が実現を目指す政策の実現は困難となった。また、深刻な景気後退に陥る場合にも与野党の対立に伴う政治機能不全から迅速な経済対策が策定される可能性も低いだろう。

さらに、後述するように来年夏場に抵触が懸念される連邦債務上限の引上げについて、与野党対立から政治問題化し、デフォルトリスクが懸念される場合には金融市場が不安定化し、景気後退が見込まれる米国経済に対してさらなる追い打ちとなろう。
 
1 詳しくはWeeklyエコノミストレター(2022年7月22日)「注目される米景気後退リスク ー高まる景気後退リスク、深刻な景気後退は回避可能か」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=71848?site=nli を参照下さい。

2.実体経済の動向

2.実体経済の動向

(労働市場、個人消費)労働市場の減速ペースは緩慢
非農業部門雇用者数は22年11月が前月比+26.3万人となった(図表6)。この結果、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+27.2万人と22年前半の平均である+44.4万人から明確に鈍化した。もっとも、新型コロナ流行前(19年3月~20年2月)の平均である+19.8万人を大幅に上回っており、雇用増加ペースの鈍化は極めて緩やかに留まっている。

失業率は22年11月に3.7%と50年ぶりの低水準を維持しており、引続き労働需給が逼迫している状況を示している。

一方、求人数は22年10月が1,033万人と2000年の統計開始以来最高となった22年3月の1,186万人からは減少したものの、依然として新型コロナ流行前の700万人を大幅に上回っている(図表7)。また、求人数と失業数の比較では失業者1人に対して求人が1.7件とこちらも新型コロナ流行前の1.2件を大幅に上回っており、労働需要は非常に強い。
(図表6)米国の雇用動向(非農業部門雇用増と失業率)/(図表7)求人数および求人数/失業者数
(図表8)賃金上昇率および労働参加率 次に、労働供給を示す労働参加率は22年11月が62.1%と、新型コロナ流行前(63.4%)を1%ポイント以上下回っているほか、9月の62.4%から2ヵ月連続で低下するなど、労働供給の回復は遅れている(図表8)。

堅調な労働需要に対して労働供給の回復が遅れている結果、労働需給の逼迫を反映して、時間当たり賃金(前年同月比)は22年11月が+5.1%と22年3月の+5.6%は下回っているものの、8ヵ月ぶりに上昇に転じるなど、賃金上昇圧力は燻っている。

FRBはインフレ抑制のために金融引締めによって労働需要を低下させることで労働需給が緩和することを目指しており、今後は労働需要の低下が見込まれる。しかしながら、足元の非常に堅調な労働需要から、賃金上昇率の速やかな低下は見込み難い。
一方、金融環境は引締まっているものの、労働市場が堅調を維持していることもあって、足元で個人消費の大幅な減速はみられていない。高頻度データのクレジット・デビットカード支払い額は11月20日の週まで大幅な低下がみられない(図表9)。

また、全米小売業協会(NRF)による今年の年末商戦の売上高予想は前年比+6.0%~+8.0%と前年実績の+13.5%から大幅に低下するものの、新型コロナ流行以前の10年平均(+3.7%)を上回る伸びが見込まれている(図表10)。このため、10-12月期の個人消費は依然として底堅いとの見方が強まっている。

もっとも、当研究所は金融環境の引締まりに加え、労働市場の減速を受けて実質GDPにおける個人消費(前年比)は22年見込みの+2.8%から23年と24年ともに+1.1%へ大幅な減速を予想している。
(図表9)クレジット・デビットカード支払い額(個人消費支出)/(図表10)年末商戦売上高および前年比増加率
(設備投資)需要低下や金融環境の引締まりから23年入り後にマイナス成長へ
実質GDPにおける22年7-9月期の設備投資は建設投資のマイナス幅が縮小したほか、設備機器投資が大幅なプラスに転じたことから、前期比年率+5.1%(前期:+0.1%)と前期から伸びが加速した。また、設備投資の先行指標であるコア資本財受注(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は22年10月が+5.7%と22年8月の+9.1%から2ヵ月連続で低下したものの、プラス成長を維持しており、民間設備投資は10-12月期もプラス成長を維持しているとみられる(図表11)。

一方、製造業の企業景況感を示すISM製造業指数は22年11月が49.0と好不況の境となる50を割り込んだ(図表12)。50を割り込むのは、新型コロナの感染拡大に伴って経済が大幅に落ち込んだ20年5月以来であり、製造業者の景気後退懸念が強まっている。また、製造業指数の内訳のうち、とくに新規受注が47.2と過去6ヵ月で5回も50割れを示すなど悪化が顕著なっており、製造業需要が低下していることを示した。

なお、供給制約に関連する入荷遅延指数は11月が47.2と22年4月の67.2から7カ月連続で低下したほか、2ヵ月連続で50割れとなっており、供給制約の回復が続いていることを示した。また、インフレに関連する支払価格指数も43と、22年3月の87.1から8ヵ月連続で低下したほか、2ヵ月連続で50割れとなっており、供給制約の解消、物価上昇圧力の緩和継続を示した。

設備投資はエネルギー関連などの一部投資では拡大が見込まれるものの、需要低下に加え、金融環境の引締まりに伴う調達コストの増加などから、23年入り後は減少に転じるとみられる。当研究所は実質GDPにおける民間設備投資(前年比)が22年見込みの+3.6%から23年に▲0.1%と小幅なマイナスに転じ、24年も+0.2%と小幅なプラスに留まると予想する。
(図表11)米国製造業の耐久財受注・出荷と設備投資/(図表12)ISM製造業指数
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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