2022年11月30日

日韓の平均賃金、最低賃金、大卒初任給の比較-購買力平価によるドル換算の平均賃金、最低賃金、大卒初任給は韓国が日本を上回る-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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日本の低い賃金が話題に

最近、日本の低い賃金が話題になっている。日本の賃金水準はバブル経済が崩壊した1990年代から低迷が続いており、欧米の先進国との差が広がっている。さらに、最近は隣の韓国との賃金差も縮まり、日本と韓国の賃金水準が逆転したとの報道もしばしば耳にするようになってきた。

では、実際日韓の賃金水準はどうだろうか。本稿では、日韓の賃金水準を、(1)購買力平価によるドル換算の平均賃金、(2)日韓の各年の名目平均賃金をその年の平均為替レートでドル換算した平均賃金、(3)最低賃金、(4)大卒初任給に区分して比較してみた。

購買力平価によるドル換算の平均賃金

購買力平価によるドル換算の平均賃金

まず、OECDの発表による(1)購買力平価によるドル換算の平均賃金から見てみよう。購買力平価とは、ある国である価格で買える商品が他国ならいくらで買えるかを示す交換レート、つまりモノやサービスを基準にした為替レートである。例えば、日本では100円の商品がアメリカでは1ドルで買える場合、購買力平価は、1ドル=100円になる。購買力平価によるドル換算の日韓の平均賃金は2015年に逆転され、2021年の平均賃金は韓国が42,747ドルと日本の39,711ドルを約3,000ドル上回っている。

しかしながら、購買力平価は、補助金や消費税率等各国独自の事情まで考慮されていないこと、貿易障壁のない完全な自由競争市場を基準にしていること、同じ品質・同じ条件の商品が少ないこと等の問題点もあるので、国際比較の際にはこのような点を考慮して判断する必要がある。
図表1 日韓における年間平均賃金の推移(実質、購買力平価によるドル換算)

日韓の各年の名目平均賃金

日韓の各年の名目平均賃金をその年の平均為替レートでドル換算した平均賃金

次は(2)日韓の各年の名目平均賃金をその年の平均為替レートでドル換算(IMFのデータ「International Financial Statistics」を利用)した平均賃金を見てみよう。それによると、日本の賃金は2001年の42,912ドルから2021年には40,491ドルに減少した。一方、韓国の賃金は同期間に16,648ドルから37,174ドルに2.23倍増加した。その結果、日本の平均賃金は韓国の2.6倍から1.1倍に縮まっている。(1)購買力平価によるドル換算の平均賃金のように日韓の平均賃金が逆転はされてはいないものの、格差が大きく縮小したことが分かる。
図表2 日韓における年間平均賃金の推移(名目、日韓の各年の名目平均賃金をその年の平均為替レートでドル換算)

最低賃金

最低賃金

では、(3)最低賃金はどうだろうか。日韓の為替レートを適用して計算した韓国の2023年の最低賃金は約969円(9620ウォン、全国一律)で、日本の全国平均961円を上回っていることが確認された(為替レートは1989年から2021年までは年平均を、そして2022年と2023年は日本で2022年の最低賃金が決まった8月2日の水準を適用した)。その結果、韓国と比べた日本の最低賃金は1999年の4.78倍から2023年には0.99倍まで縮まった1
図表3 日本円に換算した日韓における最低賃金の水準
さらに、韓国では日本とは異なり最低賃金に加えて週休手当が支給されており、週休手当を含めると日本と韓国の最低賃金の格差はさらに広がる。週休手当とは、1週間の規定された勤務日数をすべて満たした労働者に支給される有給休暇手当のことである。韓国では一日3時間、週15時間以上働いた労働者には週休日に働かなくても、一日分の日当を支給することになっている。例えば、一日8時間、週5日勤務すると、計40時間分の賃金に週休手当8時間分が加わり、計48時間の賃金が支給される。為替の影響もあり単純比較することは難しいが、初めて韓国が日本の最低賃金を上回ることになった2
 
1 韓国の最低賃金の引き上げ率は日本より高い水準を維持してきた。例えば、1990年から2023年までの最低賃金の対前年比引き上げ率の平均は、日本が2.0%であるのに対して韓国は8.6%であり、日本より4倍以上も高い。韓国の最低賃金の対前年比引き上げ率が日本を下回ったのは、文政権が最低賃金の大幅引き上げ政策の失敗を認めて決まった2020年のみである。
2 日韓の最低賃金については、金明中(2022)「日韓が最低賃金を引き上げ-引き上げ率は日本が3.3%、韓国が5%-」研究員の眼、2022年08月10日が詳しい。

大卒初任給

大卒初任給

最後に(4)大卒初任給を見てみよう。韓国経営者総協会は2021年10月に日韓における大卒初任給を比較分析した調査結果3を発表した。調査の対象は大卒以上の29歳以下の常用職労働者であり、初任給には所定内賃金と賞与金が含まれる。また、調査は大卒初任給を 1)購買力平価によるドル換算の初任給と、2)日韓の各年の名目平均賃金をその年の平均為替レートでドル換算した初任給に区分している。

まず、1)購買力平価によるドル換算の初任給を見ると、韓国の大企業(従業員数500人以上)の大卒初任給は2019年時点で47,808ドルとなり、日本の大企業(従業員数1000人以上)の29,941ドルを大きく上回っていることが明らかになった。また、従業員数10人以上の企業の大卒初任給も韓国が36,743ドルと日本の28,973ドルを上回った。
図表4 日韓の企業規模別大卒初任給(年間賃金総額、2019年、購買力平価によるドル換算)
2)日韓の各年の名目平均賃金をその年の平均為替レートでドル換算した初任給についても、韓国が日本を上回っていることが確認された。韓国の大企業(従業員数500人以上)の大卒初任給は2019年時点で35,623ドルとなり、日本の大企業(従業員数1000人以上)の28,460ドルより25.2%高い。しかしながら、従業員数10人以上の企業の大卒初任給は韓国が27,379ドルで日本の27,540ドルより0.6%低く、日本と比べて企業規模間における初任給の差が大きかった。つまり、従業員数10~99人企業と比較した大企業の大卒初任給は、韓国が1.52倍で日本の1.13倍よりも高いことが確認された。
図表5 日韓の企業規模別大卒初任給(年間賃金総額、2019年、各年の名目平均賃金をその年の平均為替レートでドル換算)
韓国における企業規模間による初任給の格差は生涯賃金の格差にもつながり、所得格差や労働市場の二極化4、そして若者の高い失業率の原因にもなっている。一方、日本では将来の労働力不足が懸念されている中で、賃金上昇率の低さが優秀な人材、特にグローバル人材の確保の妨げになる恐れが高い。このような問題を解決するために日韓政府は今後どのような対策を実施するだろうか。今後の動きに注目したい。
 
3 韓国経営者総協会(2021)「わが国の大卒初任給の分析および韓・日大卒初任給の比較と示唆点」
4 労働市場は、一次労働市場と二次労働市場に区分することができる。一次労働市場は、相対的に高い賃金、良い労働環境、高い雇用の安定性、労働組合による保護、制度化された労使関係、長期的な雇用契約、内部労働市場による労働力の補充などで特徴づけられることに比べて、第二次労働市場は、相対的に低い賃金、劣悪な労働環境、不安定な雇用、制度化されていない労使関係、外部労働市場による労働力の補充などで特徴づけられる。つまり、韓国では、大企業、正規労働者、労働組合のある企業などの一次労働市場と、中小企業、非正規労働者、労働組合のない企業などの二次労働市場の格差が拡大したことも若者が労働市場への参加を躊躇する要因になっている。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2022年11月30日「基礎研レポート」)

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