2022年11月22日

世界の消費者はどの位の割合で生命保険に加入しているのか-生保加入率の国際比較-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――はじめに

米国における生保・年金のマーケティングに関する代表的な調査・教育機関であるリムラが、世界12市場の成人消費者25歳から55歳を対象に、生命保険の加入状況等についてオンラインで調査した結果を公表しており1、その中では、生命保険に加入している人の割合(加入率)が取り上げられている。各国の保険の普及度を国際比較する場合は、GDPに対する保険料の比率で見ることが多く、ヒアリング等の調査に基づく加入率の国際比較は貴重であると考えられることから、ここでは、同調査報告書における加入率に関する状況を中心に紹介したい。
 
1 LIMRA「Global Consumer Pulse」2022年9月19日。当調査は、2022年の初頭に、世界12の市場の25~55歳の成人消費者を対象に、オンラインで行われたものである。12市場ならびに各市場における回答者数はつぎの通り。中国 2562、インド2577、マレーシア1563、タイ1581、香港1263、台湾1554、シンガポール1261、韓国1271、日本2567、フランス1562、イギリス1584、ブラジル1560。同報告書では、米国の状況についても数値が掲載されている部分があるが、当レポートでは別段の記載がない限り、「Insurance Barometer 2020,2022」に基づいたものである。

2――加入率の国際比較

2――加入率の国際比較

(図表1)は、上記12市場に米国を加えた13市場における加入率(2020年ならびに2022年調査結果)を示している。概して、アジアでは加入率が高く、回答者の約4分の3が生命保険に加入しているが、アジア以外は約半数との結果になっている。日本は2020年65%、2022年62%であり、12市場中7番目、ほぼ中間に位置している2
【図表1】生命保険加入率各国比較(2020年、2022年)
また、2020年から2022年にかけて加入率が増加したのは、5市場に留まっている。パンデミックにより、一般的には保険ニーズは高まっていると考えられることから、2022年の加入率は2020年を上回るかと思いきや、今回の調査結果は必ずしもそうではないものであった3

一方、「はじめに」にて前述の通り、各国の保険の普及度を国際比較する場合は、GDPに対する保険料の比率が使われることが多いと思われるが、スイス再保険が2022年7月13日に公表した2021年における各国の生命保険収入保険料のGDPに対する比率は、(図表2)の通りである。

特に中国・インドをはじめとするアジア新興国では、結果が大きく異なっており、生保に加入している人は多いが、生保収入保険料の対GDP比は低いという状況になっている。これは、「保険料が低い商品に多くの人が加入している」ということを示唆しているものと考えられる。
【図表2】『生命保険収入保険料/GDP』の各国比較(2021年、単位:%)
(図表3)は、個人保険、団体保険別の加入状況を示している。中国、インド、マレーシアは、個人保険より団体保険加入者の方が多いが、それら以外では、団体保険よりも個人保険加入者の方が多い状況となっている。
【図表3】個人保険・団体保険別生保各国比較
中でも、台湾、韓国、日本、フランスは、差が著しく、個人保険加入者が団体保険加入者の倍以上になっている。
 
2 生命保険文化センター2021(令和3)年度「生命保険に関する全国実態調査」によれば、令和3年(4月~5月、4000名)における世帯主の平均加入率は、全生保(簡保、JA共済、県民共済、生協等を含むでは)で84.9%、民保で73.2%となっている。リムラの調査結果とは一定開きがあるが、以下のような調査対象の違いもあって、結果が違ってきているものと考えられる。
・調査対象は世帯員2名以上の一般世帯であり、『世帯主』の加入率であること
・世帯主年齢分布は29歳以下から90歳以上まで幅広いこと。(世帯主平均年齢は57.3歳と年齢が高い。なお、リムラの調査報告書の対象年齢は25~55歳(脚注1にて前掲))
3 LIMRA同調査報告書のP5においても「調査の間にパンデミック発生したので、加入率は増加すると予想されたが、加入率が増加した市場は約3分の1にとどまった」との趣旨の記載があり、同調査報告書作成者も、この点については予想外だったものと思われる。筆者も、「パンデミックがアジア太平洋の消費者に与えた影響」『保険・年金フォーカス』(2021年11月5日)、「アジア消費者、新型コロナウイルスにより家計・健康を懸念」『保険・年金フォーカス』(2022年2月18日)、「パンデミックは生命保険需要を大きく喚起するのか」『保険・年金フォーカス』(2022年6月1日)、「パンデミック、ウクライナ危機以降、世界保険市場はどうなっていくのか(2032年までの見通し)」『保険・年金フォーカス』(2022年7月19日)、「パンデミックにより、世界の消費者はどう変わったのか」『保険・年金フォーカス』(2022年9月27日)等において、アジア、米国の消費者調査について紹介してきたが、いずれもパンデックを経て、保険ニーズは高まっていることを示すものであった。

3――主な生命保険保有理由

3――主な生命保険保有理由

市場ごとに見た生命保険に加入する主な理由は、「労働収入が失われることへの備え」となっている市場が一番多い(インド、タイ、香港、台湾、シンガポール、日本)。続いて、「退職後の収入の補填」となっている(中国、マレーシア、シンガポール、韓国、フランス)(図表4)。
【図表4】生保に加入する主な理由
上記の2つの理由が太宗を占めることは2020年調査から変わっていないようであるが、同調査報告書によれば、市場ごとに見ると、2020年調査と今回の調査では以下のような相違がある、とされている。

・前回調査では、ブラジル、フランスにおける主な加入理由は「富や遺産の譲渡」だったが、今回調査では、「葬儀費用その他等の費用支出への備え」(ブラジル)、「退職後の収入の填補」(フランス)となった。

・中国では、前回調査では、「貯蓄と投資面での税制が有利であるため」があげられていたが、今回は、「退職後の収入の補填」となった。

・インドでは、前回調査の「退職後の収入の填補」から、コロナ禍を経て「労働収入が失われることへの備え」となった。

・マレーシアでは、前回調査の「労働収入が失われることへの備え」から、今回は「退職後の収入の補填」となった。

4――おわりに

4――おわりに

以上、リムラによる世界12市場におけるオンライン調査結果報告「Global Consumer Pulse 2022」に掲載された加入率の比較を中心に紹介したきた。既述の通り、ヒアリング等を通じた調査による加入率の国際比較は貴重なため、ここで紹介したが、よく見かける生保収入保険料の対GDP比率とは様相も異なる部分もあり、引き続き、両者の動向については注視していきたい。また、リムラの上記調査報告書では、加入率の状況に加え、生保加入時のインターネット利用や、新型コロナウイルスについての調査結果も載っているため、改めてそれらについても紹介していきたい。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2022年11月22日「保険・年金フォーカス」)

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