コラム
2022年11月21日

無限について(その6)-無限級数について-

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はじめに

無限に関する前々回までの4回の研究員の眼で、無限に関するパラドックスを紹介してきた。また、前回の研究員の眼では、無限大(∞)に関する話題について、無限数列の和、差、積、商について、紹介した。そこでは、あくまでも「無限数列」を対象にしており、無限数列を前から順番に加えていって得られる「無限級数」については述べていなかった。

今回は、無限級数に関する話題について紹介したい。

無限級数あるいは級数

「無限級数」あるいは「級数(series)」というのは、無限数列{an}が与えられた時に、
無限級数あるいは級数
で表されるものである。ここで、
数列{an}の「第N部分和」
を、数列{an}の「第N部分和」というが、この部分和からなる数列{SN}の収束、発散が、無限級数の収束、発散を意味することになる。

なお、有限数列についても、有限個の項以外は0として、無限数列とみなすことで、上記の定義に従うことができる。一般的に「級数」と呼ばれるが、無限個の和であることを強調する場合には「無限級数」と呼ばれることになる。以下では、「無限級数」の用語を使用することにする。

無限級数の例

有名な無限級数としては、例えば以下のものが挙げられる。

(1) 等比級数
隣り合う二項の比(公比)が一定の数列:an+1=ran よって、an=a1ran1

(2) 冪級数
cを定数として、以下の形で表される無限級数
冪級数
(3) テイラー級数
fを関数、aを定数として、以下の形で表される無限級数
テイラー級数
a=0 の場合がマクローリン級数で、その具体的な例として 、指数関数や三角関数の場合、以下の通りとなる。
マクローリン級数
なお、上記の第1式でx=1とすることにより、以下の式が得られる。
上記の第1式でx=1とする
(4) フーリエ級数
関数に対して定義されるフーリエ級数を用いて、以下の形で表される三角級数
フーリエ級数
(5) 調和級数
等差数列{an+b}(a≠0)の逆数の数列

例えば、以下のような数列
調和級数
「調和」の名称は、振動する弦の倍音の波長がその弦の基本波長の 1/2, 1/3, 1/4, ... となっていることによる。調和級数の各項は前後の項の調和平均になっている。

任意の調和級数は発散する。

因みに、上記の調和級数とlog n(ln(n))との差の極限として、以下で定義されるものは、「オイラーの定数」あるいは「オイラー・マスケローニ定数」と呼ばれる数学定数で「γ(ガンマ)」で表される。
「オイラーの定数」あるいは「オイラー・マスケローニ定数」
γについては、超越数であると予想されているが、いまだ無理数であるかどうかも証明されていない。
(6) 交代調和級数
調和級数で、正と負が交互する以下のような形の級数
交代調和級数
[証明]
log(1+x) をテイラー展開した、以下の式でx=1とすることにより得られる。
証明
また、以下の級数は、1673年にライプニッツが名付けた公式ということで、「ライプニッツ級数」(あるいは「ライプニッツの公式」)と呼ばれる(15世紀のインドの数学者マーダヴァによって最初に発見されたことから、「マーダヴァ-ライプニッツ級数」と呼ばれることもある)。
ライプニッツ級数
[証明]
tanθ=x とおくと、三角関数の公式から、
証明
となるが、この式の両辺を x について不定積分すると、
x について不定積分
θ=π/4 の時に、x=tanθ=1 となるので、上式でx=1とすることにより、ライプニッツの公式が得られる。

(7) p-級数
正の実数pを用いて、以下の形で表される級数(p=1の時が調和級数)
p-級数
p-級数は、p>1のときは収束し、p≦1のときは発散する(p > 1 のとき、p-級数の和の値はリーマンゼータ関数の p における値 ζ (p) に等しい1)。
 
1 リーマンのゼータ関数については、また別途の機会に紹介することにしたい。

[証明]
nを任意の自然数とした時に、
証明
となることから、
証明
ここで、
証明
であることから、上記算式との大小関係から、p>1のときは収束し、p≦1のときは発散することがわかる。

pが1より大きい自然数の場合の具体的な収束値については、例えば以下のようになる。
pが1より大きい自然数の場合の具体的な収束値
「バーゼル問題」は、1644年にピエトロ・メンゴリによって提起された問題で、ヤコブ・ベルヌーイ等の有名な数学者がこの問題に取り組んだが、解決できなかった。

ベルヌーイに学んだレオンハルト・オイラーによって1735年に、平方数に限らず、自然数の偶数乗の逆数和について、一般化した形式で解決された。これによれば、上記の式からわかるように、自然数の偶数乗の逆数和は、πの同じ偶数乗で表現される値に収束することが示されている。

これについては、以下のようにsin x のマクローリン展開を利用して、証明される。

[証明]
sin x のマクローリン展開は、以下の通りとなる。
sin x のマクローリン展開
この両辺をxで割ると
両辺をxで割ると
となるが、ここで、左辺はx=aπ(aは整数)でのみ0になることから、右辺は以下のように因数分解される。
右辺の因数分解
(A)と(B)のx2の係数は、それぞれ以下の通りとなる。
(A)と(B)のx2の係数
両者は等しいので
両者は等しい
同様に、上式のx4、x6等の係数を比較することで、先に示した式が証明される。

このように三角関数との関係から証明されることを考えると、ここまでに紹介してきた無限級数のいくつかの収束値に円周率πが現れてくる理由が何となく理解できるのではないかと思われる。

(8) フィボナッチ数列の逆数和
「フィボナッチ数列の逆数和(reciprocal Fibonacci constant)」というのは、以下のようにフィボナッチ数列の逆数の総和として定義される数学定数のことをいい、「Ψ(プサイ)」という記号で表される。
フィボナッチ数列の逆数和
この値は、ほぼ以下の通りとなる。

Ψ=3.35988566624317755・・・

なお、Ψは無理数であることが知られているが、超越数であるか否かはわかっていない。
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中村 亮一

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