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気候変動が降水に与える影響-降水では、「富者はますます富み、貧者はますます貧しくなる」

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
しかし、時折集中豪雨に見舞われたとしても、年間を通じた降水量が変化するとは言い切れない。それでは、気候変動が降水に与える影響は、どのようなものと捉えたらよいだろうか。
本稿では、近年の降水の状況について、データ等を見ながらまとめてみることとしたい。
2――日本の降水の推移
3――世界の降水の変化

降水量の変化を地域ごとに見ると、増えている場所と減っている場所がある。気温の場合は、程度の違いこそあれ、基本的にどの場所でも上昇している。これと比べると、降水量は減少している場所もあることが特徴的といえる。(右図参照)
降水量の変化をよく見ると、赤道付近や、温暖湿潤気候の中緯度帯で増加している。一方、砂漠が広がる乾燥気候の低緯度帯では降水量が減少している。つまり、もともと雨の多い地域では降水量が増す一方、少ない地域では減っており、それぞれの極端さが高まる形となっている1。
降水は、大気中の水蒸気の量が影響するとされる。水蒸気を含む空気が上空で冷やされ、その水蒸気密度を飽和水蒸気密度とする温度に達すると、凝結して雲が発生する。雲の粒は、何らかの凝結核にくっつくと成長して落下を始める。落下速度の大きい大水滴が、小さい小水滴を併合することで成長が進み、降水に至る。
この水蒸気は、貿易風などによって高圧帯から低圧帯へ輸送される。地球温暖化が進むと、こうした水蒸気輸送が増すため、降水の極端さが高まるものと考えられている2。
1 降水量の多さを「富」と見ると、キリスト教新訳聖書の一節にある「富者はますます富み、貧者はますます貧しくなる」(マタイ伝第13章第12節)という傾向に類似している。気候変動等の研究者の間では、「富者がますます富む (Rich-Get-Richer)メカニズム」と呼ばれている模様。
2 「絵でわかる地球温暖化」渡部雅浩著(講談社, 2018年)を参考に記載。
4――世界の干ばつの増加
一方で、日本の場合、降水量が極端に少ないことによる干ばつの問題に対する注目度は、それほど高くないものとみられる。しかし、世界的に見ると、干ばつは、極端な降水と同様、社会経済に大きな影響力を持つ事象と認識されている3。
生命の維持や生活の存続に欠かせない水資源の枯渇はもとより、農業用水の不足から生じる食糧供給の減少、水力発電の稼働低下によるエネルギー供給の減少、河川の水位低下に伴う船舶による物流の減少など、さまざまな影響が生じかねない。海外でこうした干ばつに伴う問題が起きれば、食糧やエネルギーの輸入コストの上昇などの形で、日本の社会経済にも波及することが懸念される。
3 IPCCの第6次評価報告書の政策決定者向け(原文)を見ると、WG1の報告書では、降水を意味する“precipitation”が65ヵ所、干ばつを意味する“drought”が42ヵ所で用いられている。WG2の報告書では、“precipitation”が8ヵ所、“drought”が17ヵ所で用いられている。干ばつが降水とともに注目されている様子がうかがえる。
5――おわりに (私見)
降水量には、気温よりも地域ごとの偏りが大きいという特徴がある。降水量が増加している水害が頻発している地域がある一方、降水量が減って干ばつが深刻化している地域もある。気候変動は、地球温暖化を通じて、その差を拡大することが懸念されている。
こうしたリスク環境において、洪水保険や干ばつ保険などの保険提供が、どのように展開していくか、気候変動と併せて見ていく必要があろう。引き続き、欧米や日本の動向を、注視していくこととしたい。
(参考資料)
“Climate Change 2021 : The Physical Science Basis – Summary for Policymakers”(IPCC AR6 WG1)
https://www.ipcc.ch/report/sixth-assessment-report-working-group-i/
「IPCC AR6 WG1報告書 政策決定者向け要約(SPM)暫定訳(2022年5月12日版)」(気象庁)
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/index.html
“Climate Change 2013 : The Physical Science Basis – Summary for Policymakers”(IPCC AR5 WG1)
https://www.ipcc.ch/report/ar5/wg1/
“Climate Change 2022 : Impacts, Adaptation and Vulnerability – Summary for Policymakers”(IPCC AR6 WG2)
https://www.ipcc.ch/report/sixth-assessment-report-working-group-ii/
「気候変動監視レポート2021」(気象庁, 令和4年3月)
https://www.jma.go.jp/jma/press/2203/29a/ccmr2021.html
「一般気象学〔第2版補訂版〕」小倉義光著(東京大学出版会, 2016年)
「絵でわかる地球温暖化」渡部雅浩著(講談社, 2018年)
「雨が降る仕組み」(仙台管区気象台)
https://www.jma-net.go.jp/sendai/knowledge/kyouiku/yoho/ame.pdf
「雨のメカニズム」(“リカのマメ知識”ホームページ, 教育出版, 2002年)
https://www.kyoiku-shuppan.co.jp/docs/pages/rika/rika_s/column/bean/rain.html
「異常気象、世界の干ばつ被害1.8兆円 発電・食糧に打撃」(日本経済新聞, 2022年9月5日)
「富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しくなる」(《おぐらおさむ(巨椋修)の不登校・ひきこもり・ニートを考える》(巨椋修通信ホームページ), 2012年11月16日記事)
https://fhn.hatenablog.com/entry/20121116/1353000374
(2022年11月15日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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