コラム
2021年09月15日

大雨による被害の甚大化-風水災等の支払保険金ワースト10のうち、7つは2014年以降に発生

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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今年も夏季に、西日本を中心に、各地で大雨や洪水の被害が出た。近年、毎年、線状降水帯に伴う大雨やゲリラ豪雨の影響で、各地で河川の氾濫や土砂災害が発生している。災害により、尊い人命が失われるばかりか、多数の負傷者が出たり、多くの人が避難をしいられたりする。住宅や生活インフラにも、多額の損害が出る。台風の発生、上陸は例年8~9月がピークだ。近年の、風水害の増加についてみていこう。

◇台風の上陸数は増加傾向

風水害が多発する背景には、台風の発生数と上陸数の増加がある。

気象庁のデータによると、1991~2020年の30年平均で、発生数は年25.1個、上陸数は年3.0個となっている。15~19年の実際の発生数は年26~29個、上陸数は年4~6個で、いずれも、この30年平均を上回った。

ただし2020年は、台風の発生数が23個とやや少なく、上陸数は2008年以来のゼロだった。2020年は7月までインド洋の海面水温が高く、そこで生まれた上昇気流がフィリピン近海の対流活動を不活発にして台風が生まれにくかった。また、8月以降は日本列島の太平洋高気圧が張り出して進路を妨げた。これらの結果、例年よりも台風が少なかったといわれている。

2021年は、これまでに発生数が14個(9月13日現在)、上陸数が2個(9月9日現在)となっている。今年の発生数は平年並みという予想があるが、台風シーズンには、警戒を怠らないようにしたい。

◇海面温度の上昇が台風被害の甚大化をもたらす

一般に、台風の上陸には、発生場所や偏西風の位置など、複数の要因が影響しているといわれる。そうした要因の1つに、日本近海の海面温度の上昇が挙げられる。

気象庁によると、日本近海における2020年までの約100年間にわたる平均海面水温(年平均)の上昇幅は+1.16℃。この上昇幅は、世界全体の平均海面水温の上昇幅の+0.56℃よりも大きいという。

海面温度が高いことで、台風の勢力は上陸まで衰えず、海面からの水蒸気で大量の降雨がもたらされるとみられる。その結果、台風が河川の氾濫や大規模土砂災害などを誘発し、被害が甚大化する傾向がある。

◇風水災等による損害保険金の支払いも巨額に

次に、風水災等による大規模損害の発生の様子を、損害保険金の支払額をもとにみてみる。「過去の主な風水災等による保険金の支払い」(一般社団法人 日本損害保険協会)によると、支払保険金が最も多かったのは、2018年(平成30年)の台風21号によるもので、1兆678億円だった。この台風は、同年9月、大阪、京都、兵庫の関西2府1県を中心に襲った。大都市を直撃した台風が、甚大な損害をもたらしたもので、その支払保険金は桁違いだった。

支払保険金の2番目は、2019年(令和元年)の台風19号で、東日本を中心に、5,826億円が支払われた。3番目は、1991年(平成3年)の台風19号で、全国で、合計5,680億円の保険金が支払われた。

近年、風水災等による損害は巨額になる傾向がある。過去の支払保険金ワースト10の風水災等をみると、そのうち7つが2014年以降に発生している。
過去の主な風水災等による保険金の支払い

◇2019年の水害被害額は、約2兆1,800億円

さらに、水害を地域別にみてみよう。「水害統計調査(国土交通省)」によると、最新データの2019年は、1年間の水害被害額が約2兆1,800億円となり、1961年の統計開始以来最大を記録した。この調査は、家屋や農作物などの一般資産、道路や下水道などの公共土木施設、鉄道や水道事業といった公益事業の施設の被害額を、それぞれ算出したものだ。

特に、2019年10月の台風19号による被害が大きく、台風が襲来した地域を中心に甚大な被害が発生して、水害被害額は約1兆8,800億円に達した。

宮城、福島、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、長野、佐賀の9県は、いずれも同年に県の最大水害被害額を更新した(佐賀県は8月の大雨による)。

風水災は、広範囲に被害をもたらすケースが増えている。災害が発生する可能性は、全国どこにでもある。被害は甚大化する傾向があり、毎年、「過去に経験したことのない大雨」といった激しい気象状況による被害が生じかねない状況だ。

こうした風水災に備えるためには、日頃から自治体のハザードマップなどを確認し、避難先までの道順について考えておく必要がある。2021年5月には、改正災害対策基本法が施行されて、自治体が発令する情報は「避難勧告」が廃止となり、「避難指示」に一本化された。避難指示が発令されたときは、ちゅうちょなく行動することが大切、といえるだろう。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2021年09月15日「研究員の眼」)

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