2022年11月15日

QE速報:7-9月期の実質GDPは前期比▲0.3%(年率▲1.2%)-外需の落ち込みを主因にマイナス成長となったが、景気悪化を意味せず

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●7-9月期は前期比年率▲1.2%と4四半期ぶりのマイナス成長

本日(11/15)発表された2022年7-9月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比▲0.3%(前期比年率▲1.2%)と4四半期ぶりのマイナス成長となった(当研究所予測10月31日:前期比0.4%、年率1.5%)。

輸入が前期比5.2%の高い伸びとなり、輸出の伸び(同1.9%)を大きく上回ったことから、外需寄与度が前期比▲0.7%(年率▲2.6%)と成長率を大きく押し下げたことがマイナス成長の主因である。高水準の企業収益を背景に設備投資は前期比1.5%の高い伸びとなり、物価高や新型コロナウイルスの感染拡大という逆風を受けながらも、民間消費が前期比0.3%の増加となるなど国内需要は堅調だったが、外需の落ち込みをカバーするには至らなかった。
 
名目GDPは前期比▲0.5%(前期比年率▲2.0%)と4四半期ぶりの減少となり、実質の伸びを下回った。GDPデフレーターは前期比▲0.2%(4-6月期:同▲0.3%)、前年比▲0.5%(4-6月期:同▲0.4%)であった。輸入物価の上昇を国内に価格転嫁する動きが広がり、国内需要デフレーターは前期比0.9%の上昇(4-6月期:同1.0%)となったが、国際商品市況の上昇や円安の影響で輸入デフレーターが前期比5.9%の高い伸びとなり、輸出デフレーターの伸び(前期比3.0%)を上回ったことがGDPデフレーターを押し下げた。
 
2022年7-9月期の1次速報と同時に、基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから過去の成長率が遡及改定された。2022年4-6月期の実質GDP成長率は、設備投資、外需の上方修正などから前期比年率3.5%から同4.6%へと上方修正された。
需要項目別結果
輸出入デフレーターの差によって生じる所得の実質額を表す交易利得(損失)は、前期差▲3.6兆円の減少となった。この結果、実質GDPに交易利得を加えた実質GDIは、実質GDPの伸びを大きく下回り、前期比▲1.0%(前期比年率▲3.9%)のマイナス成長となった。
実質GDPと実質GDIの推移 日本は国際商品市況の高騰や円安に伴う交易条件の悪化によって、海外への所得流出が続いている。GDP統計の交易利得は2021年1-3月期から7四半期連続で減少しており、この間の交易利得の悪化幅は▲25.0兆円となった。また、2022年7-9月期の実質GDPはコロナ前(2019年10-12月期)の水準を0.5%上回っているが、実質GDIはコロナ前を▲2.9%下回っている。

交易条件悪化に伴う海外への所得流出は、企業と家計が負担することになる。企業が輸入物価上昇に伴うコスト増を価格転嫁できなければ企業収益が圧迫され、価格転嫁が十分に行われた場合には、企業の負担は軽減される一方、消費者物価の上昇を通じて家計の負担が増加するという関係がある。現時点では、企業収益は過去最高を更新し、物価高の逆風を受けながらも高水準の貯蓄を背景に消費も底堅さを維持している。しかし、先行きについては海外への所得流出に伴う国内の実質購買力の低下が国内需要を下押しするリスクがあることには注意が必要だ。
<需要項目別の動き>
民間消費は前期比0.3%と4四半期連続の増加となった。4-6月期の同1.2%からは伸びが鈍化したものの、物価高や新型コロナウイルスの感染拡大という逆風を受けながらも、特別な行動制限がなかったことから、消費は一定の底堅さを維持した。

実質家計消費の内訳を形態別にみると、自動車、家電などの耐久財が前期比▲3.5%の大幅減少となったが、被服・履物、家具などの半耐久財が同4.7%の高い伸びとなったほか、食料品などの非耐久財(同0.3%)、交通、外食、旅行、宿泊などのサービス(同0.3%)も増加した。

雇用者報酬は名目・前年比1.8%となり、4-6月期の同1.6%から伸びを高めたが、家計消費デフレーターの伸びが高まったことから、実質では前年比▲1.6%(4-6月期:同▲1.2%)と2四半期連続の減少となり、前期から減少幅が拡大した。
 
住宅投資は前期比▲0.4%と5四半期連続で減少した。住宅投資は、資材価格の高騰に伴う住宅価格の上昇を背景に低迷が続いている。
 
設備投資は前期比1.5%と2四半期連続で増加した。設備投資は、高水準の企業収益を背景に、人手不足対応やテレワーク関連投資、デジタル化に向けたソフトウェア投資を中心に持ち直している。
 
公的固定資本形成は、国土強靭化・災害復旧関連工事の進捗から、前期比1.2%と2四半期連続で増加した。
 
外需寄与度は前期比▲0.7%(前期比年率▲2.6%)と2四半期ぶりのマイナスとなった。中国のロックダウン解除を受けて、財貨・サービスの輸出が前期比1.9%の増加となったが、財貨・サービスの輸入が前期比5.2%と輸出の伸びを上回ったことから、外需は成長率を大きく押し下げた。サービスの輸入が前期比17.1%の大幅増加となったことが、輸入を大きく押し上げた。
202210-12月期はプラス成長、20131-3月期はマイナス成長を予想)
2022年7-9月期は4四半期ぶりのマイナス成長となったが、輸入の大幅増加がその主因であり、景気悪化を意味するものではない。消費、設備を中心に国内需要は底堅い動きが続いており、景気は回復基調を維持していると判断される。

現時点では、2022年10-12月期は、海外経済の低迷を受けて輸出が減少に転じる一方、全国旅行支援による押し上げ効果などから民間消費が高めの伸びとなること、高水準の企業収益を背景に設備投資が堅調を維持することなどから、はっきりとしたプラス成長になると予想している。しかし、2023年1-3月期は、欧米経済のマイナス成長が続く中で、輸出の減少幅が拡大すること、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて民間消費が停滞することから、再びマイナス成長になる可能性が高い。

新型コロナウイルス感染症を完全に終息させることは困難であり、新規陽性者数は今後も増減を繰り返すことが見込まれる。感染拡大時にも経済社会活動を制限することがないように、新型コロナウイルスの感染症法上の見直しや医療提供体制の整備が求められる。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2022年11月15日「Weekly エコノミスト・レター」)

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