2022年10月31日

2022年7-9月期の実質GDP~前期比0.4%(年率1.5%)を予測~

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

文字サイズ

●7-9月期は年率1.5%を予測~4四半期連続のプラス成長

2022年7-9月期の実質GDPは、前期比0.4%(前期比年率1.5%)と4四半期連続のプラス成長になったと推計される1

輸入の伸びが輸出の伸びを上回ったことから、外需寄与度は前期比▲0.3%(年率▲1.2%)と成長率の押し下げ要因となった。一方、高水準の企業収益を背景に設備投資が前期比1.9%の高い伸びとなったこと、物価高や新型コロナウイルスの感染拡大という逆風を受けながらも、特別な行動制限がなかったため、民間消費が前期比0.6%の増加となったことなどから、国内需要が外需の落ち込みをカバーした。

実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が0.7%(うち民需0.5%、公需0.2%)、外需が▲0.3%と予測する。
 
名目GDPは前期比▲0.2%(前期比年率▲0.6%)と4四半期ぶりの減少となり、実質の伸びを大きく下回るだろう。GDPデフレーターは前期比▲0.5%(4-6月期:同▲0.2%)、前年比▲0.9%(4-6月期:同▲0.3%)と予測する。輸入物価の上昇を国内に価格転嫁する動きが広がり、国内需要デフレーターは前期比0.8%の上昇(4-6月期:同0.9%)となったが、国際商品市況の上昇や円安の影響で輸入デフレーターが前期比6.8%の高い伸びとなり、輸出デフレーターの伸び(前期比2.6%)を上回ったことがGDPデフレーターを押し下げた。
交易利得の推移 輸出入デフレーターの差によって生じる所得の実質額を表す交易利得(損失)は、2021年1-3月期から減少が続いているが、2022年7-9月期は前期差▲4.1兆円と7四半期連続の減少となることが見込まれる。

この結果、実質GDPに交易利得を加えた実質GDIは、実質GDPの伸びを大きく下回り、前期比▲0.2%(前期比年率▲0.9%)のマイナス成長となることが予想される。

11/15に内閣府から2022年7-9月期のGDP速報が発表される際には、基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから、成長率が過去に遡って改定される。当研究所では、2022年4-6月期の実質GDP成長率は設備投資、外需上方修正などにより、前期比年率3.5%から同4.2%へ上方修正されると予測している。
 
2022年7-9月期の実質GDPは、コロナ前(2019年10-12月期)を上回った2022年4-6月期から水準をさらに高めたが、消費税率引き上げ前のピーク(2019年4-6月期)を▲2%程度下回ることが見込まれる2。経済の正常化までにはかなりの距離があるといえるだろう。

2022年10-12月期は、欧米を中心とした海外経済の減速を主因として輸出は低迷することが見込まれるが、高水準の企業収益を背景に設備投資が堅調を維持すること、民間消費が物価高の影響を受けながらも、感染状況の落ち着きや全国旅行支援策によってサービスを中心に伸びを高めることから、内需中心のプラス成長が続くと予想する。
 
1 10/31までに公表された経済指標をもとに予測している。今後公表される経済指標の結果によって予測値を修正する可能性がある。
2 実質GDPが過去最高水準となったのは2018年4-6月期

●主な需要項目の動向

●主な需要項目の動向

・民間消費~物価高や感染拡大の逆風下でも増加~ 
民間消費は前期比0.6%と4四半期連続の増加を予測する。7-9月期は物価高や新型コロナウイルスの感染拡大という逆風を受けながらも、特別な行動制限がなかったことから、消費は一定の底堅さを維持した。
消費関連指標の推移 2022年7-9月期の消費関連指標を確認すると、自動車販売台数は、供給制約の緩和に伴う増産を受けて、前期比0.5%(4-6月期:同▲1.4%)と小幅ながら増加に転じた。また、感染拡大の影響で外食産業売上高は前期比▲0.5%(4-6月期:同6.5%)と小幅な減少となったが、百貨店売上高(前期比1.7%)、延べ宿泊者数(同6.4%)は増加した(いずれもニッセイ基礎研究所による季節調整値、外食産業売上高、百貨店売上高は消費者物価指数で実質化)。
・住宅投資~資材価格の高騰が下押し要因に~
住宅投資は前期比▲2.0%と5四半期連続の減少を予測する。
新設住宅着工戸数の推移 新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2019年10月の消費税率引き上げ後に90万戸を割り込んだ後、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化した2020年度入り後に80万戸程度へと水準を大きく切り下げた。2021年度以降は80万戸台半ばで一進一退の推移が続いているが、資材価格の高騰が住宅投資の下押し要因となっている。
 
・民間設備投資~高水準の企業収益を背景に高い伸び~ 
民間設備投資は前期比1.9%と2四半期連続の増加を予測する。
設備投資の一致指標である投資財出荷指数(除く輸送機械)は2022年4-6月期の前期比2.0%の後、7-9月期は同8.5%となった。また、機械投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は2022年4-6月期に前期比8.1%と2四半期ぶりに増加した後、7、8月の平均は4-6月期を0.9%上回っている。

日銀短観2022年9月調査では、2022年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が、前年度比17.4%の高い伸びとなった。

設備投資は、高水準の企業収益を背景に、人手不足対応やテレワーク関連投資、デジタル化に向けたソフトウェア投資を中心に持ち直しの動きが続いている。
設備投資関連指標の推移/設備投資計画(全規模・全産業)
・公的固定資本形成~2四半期連続の増加~ 
公的固定資本形成は前期比1.8%と2四半期連続の増加を予測する。
公共工事請負金額、出来高の推移 公共工事の先行指標である公共工事請負金額は2020年10-12月期から8四半期連続で減少したが、2022年7-9月期は前年比▲1.8%となり、2022年4-6月期の同▲4.4%から減少幅が縮小した。また、公共工事の進捗を反映する公共工事出来高(建設総合統計)は、2022年4-6月期に前年比▲5.9%と4四半期連続で減少したが、2022年7、8月の平均は同▲1.9%と減少幅が縮小している。

公的固定資本形成は、災害復旧・復興関連工事の縮小などから減少が続いていたが、2022年度入り後は持ち直している。
・外需~2四半期ぶりのマイナス~ 
外需寄与度は前期比▲0.3%(前期比年率▲1.2%)と2四半期ぶりのマイナスを予測する。財貨・サービスの輸出は前期比2.2%の増加となったが、財貨・サービスの輸入が前期比3.7%と輸出の伸びを上回ったことから、外需は成長率の押し下げ要因となった。輸出入を財、サービス別にみると、財は輸出入が同程度の伸びとなったが、サービスは輸入の伸びが輸出の伸びを大きく上回った。

2022年7-9月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比▲3.9%(4-6月期:同6.9%)、EU向けが前期比2.9%(4-6月期:同1.2%)、アジア向けが前期比▲0.6%(4-6月期:同▲0.4%)、うち中国向けが前期比5.3%(4-6月期:同▲10.2%)、全体では前期比0.6%(4-6月期:同▲0.7%)となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 EU向けは堅調を維持しているが、ロックダウンの影響が和らいだ中国向けは持ち直しているものの、ゼロコロナ政策継続の影響もあってそのペースは緩やかにとどまっており、景気が減速している米国向けは弱めの動きとなっている。輸出数量全体としては一進一退の動きが続いている。

先行きの輸出は、金融引き締めの影響で景気減速がより鮮明となることが見込まれる欧米向けを中心に低迷が続く可能性が高い。

 
日本・月次GDP 予測結果
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2022年10月31日「Weekly エコノミスト・レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【2022年7-9月期の実質GDP~前期比0.4%(年率1.5%)を予測~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

2022年7-9月期の実質GDP~前期比0.4%(年率1.5%)を予測~のレポート Topへ