2022年10月21日

家族からみた在宅勤務-子育て世帯の3~4割では家族団らんが増えるも、1~2割で子どもが遊べるスペースが減少

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

コロナ禍が始まって2年半が経過した。企業によっては在宅勤務が定着し、働く人の中には、在宅勤務などが、生活パターンとして定着した人もいるだろう。通勤にかかっていた時間と費用を圧縮し、心身を休ませたり、趣味など別の活動に充てられるようになった人は、在宅勤務の便利さを享受し、コロナ禍の恩恵に預かっていると言える。しかし、その人の家族から見たらどうであろうか。それまでは日中、留守だった配偶者や親、あるいは子どもが家にいて仕事をしていることで、家族団らんの時間が増えたというケースもあれば、逆に、家の中のスペースを占拠され、従来通りに自身の用事を済ませられないなど、不都合が生じている場合もあるかもしれない。そこで本稿は、家族側からみた在宅勤務のメリット、デメリットを検証したい。用いたデータは、ニッセイ基礎研究所が継続実施しているインターネット調査「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」である。

2――在宅勤務の利用状況

2――在宅勤務の利用状況

1|在宅勤務の増加と定着
まず、働く人からみて、在宅勤務がどれぐらい利用されているかを確認したい。ニッセイ基礎研究所が、2020年6月から定期的に実施している調査の結果をまとめたものが図表1である。新型コロナウイルス感染拡大前(2020年1月頃)に比べた、在宅勤務の実施状況をみると、増加層(「増加」と「やや増加」の合計)は、デルタ株による感染拡大が続いていた2021年9月をピークとして、概ね2割弱で推移している1

テレワークの実施率は、企業規模や業種によって差があり、大企業や情報通信業で実施率が高いことが各種の調査で分かっている2。また最近では、NTTグループが、在宅勤務等のリモートワークを基本とする制度を導入するなど、企業によっては実施を徹底する事例もある。在宅勤務は一定程度、国内における働き方の一つとして定着したと言えるだろう。
図表1 コロナ禍前(2020年1月頃)と比べた在宅勤務の利用状況
 
1 2021 年3月調査までは「在宅勤務などのテレワーク」、同年7月調査以降は「在宅勤務」として尋ねた。
2 例えば厚生労働省委託事業「令和2年度テレワークの労務管理に関する総合的実態研究事業」による三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング(2021年)「テレワークの労務管理等に関する実態調査」 速報版。
2|テレワークを行う場所
(1)サテライトオフィスの利用状況
次に、テレワークを行う場所についてみていきたい。ニッセイ基礎研究所のコロナ調査によると、サテライトオフィスの利用状況は、設問を設けた2021年7月以降、コロナ禍前に比べた増加層(「増加」と「やや増加」の合計)は3~4%前後のままほとんど拡大していない。
図表2 コロナ禍前(2020年1月頃)と比べたサテライトオフィスの利用状況
(2)ワーケーション施設の利用状況
次に、ワーケーション施設の利用についても、設問を設けた2021年7月以降、コロナ禍前に比べた増加層(「増加」と「やや増加」の合計)は2~3%前後のままほとんど拡大していない。

従って、企業がテレワークを実施する際にも、これらの外部施設を活用する事例はわずかにとどまっており、大部分は自宅で作業をしていると考えられる。
図表3 コロナ禍前(2020年1月頃)と比べたワーケーション施設の利用状況
3|在宅勤務に対する評価
これまでに、官公庁や主要な経済団体等から出されたテレワークや在宅勤務に関する調査報告書等をみると、課題として挙げられている主なものは、仕事の生産性や、企業による労務管理、従業員同士のコミュニケーション不足や人材育成、セキュリティ確保、テレワークできる人とできない人との不公平感などである。しかし全体としては、テレワークや在宅勤務経験者の大半が継施実施を希望していることなどから、テレワークや在宅勤務を評価するものが多い3。ただし、いずれの調査報告書等も、働く人や企業の立場から評価しており、現時点では、働く人の家族の視点から評価したり、課題を検討したりしているものは少ない。
 
3 厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」による「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」(2020年12月)

3――在宅勤務など働き方の変化

3――在宅勤務など働き方の変化によって家族が受けた影響

1|影響を受けた割合とその内容
ここからは、働く人の家族に視点を移して、在宅勤務の影響を見ていきたい。まず、コロナ禍に入って、家族の働き方に変化があった人がどれぐらいいるかについて、ニッセイ基礎研究所の「第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」を用いた基礎研レポート4を引用しながら説明したい。

それによると、回答者2,584人のうち「働き方に変化があった同居家族がいる」は全体の56.3%、「働き方に変化があった同居家族はいない」は14.9%、「働いている同居家族はいない」は10.5%、「同居家族はいない」が18.2%だった。実に約6割が、家族の働き方の変化を経験していた(図表4)5
図表4 同居家族の働き方の変化
また、コロナ禍になって家族の働き方が変化した人に対して、それによって自身がどのような影響を受けたかを尋ねると(複数回答)、約6割の人が、自宅で過ごす時間やスペースの使い方、家族関係、家計、家事負担について、影響を受けていると回答した(図表5)。「特に影響はない」は約4割だった。

具体的にみていきたい。まず生活時間やスペースに関しては「家が手狭になった」「自由にくつろげる時間やスペースが減った」と感じている人が、いずれも1割前後だった。仕事をしている家族が家の一部を占拠しているためであろう。また、「生活のリズムが乱れた」も1割弱あった。これは、これまで不在だった家族と生活を調整するために、炊事や食事、入浴、用事に出かける時間などをずらしているためだと考えられる。「子どもが自由に遊べる時間やスペースが減った」は約5%だったが、これは子どもの年齢によっても該当する割合が異なると考えられるため、3|で、回答者のライフステージ別に、再度分析したい。

家族関係については、「家族団らんの時間が増えた」が4人に1人に上る一方で、「家族で言い争うなど家庭内がぎくしゃくすることが増えた」人も1割いた。もともと家族関係が良好であれば、一緒にいる時間が増えることで、家族団らんの楽しい時間が増えるが、もともと夫婦や親子関係に不和がある場合は、家族が一緒にいる時間が増えることで、逆に、互いが平穏を保つために必要な時間的・空間的距離が失われ、ストレスや閉塞感が増えると考えられる。

家計については、「食費や光熱費、通信費等が高くなった」と回答し、負担が増加した人が4人に1人に上った。逆に「交通費や衣服の費用、職場における交際費が減った」は2割弱だった。

家事負担については、「増えた」が26.5%に対し、「減った」は1.9%と、圧倒的に負担が重くなったケースが多かった。働いている配偶者などが家にいると、それまで不要だった昼食の準備をしたり、お茶を出したり、頼まれた用事をしたりと、身の回りの世話が増えるためだと考えられる。家事負担が「減った」人は、家に仕事をしている家族が、仕事を早く切り上げたり、隙間時間を活用したりして家事を行うパターンだと考えられるが、全体からいうと、割合は非常に小さい。
図表5 同居家族の働き方の変化に伴う影響(複数回答)
 
4 村松容子「在宅勤務や時差通勤の増加は同居家族にどのような影響を与えたか~1/3で家計に影響。1/4で『団らん時間が増加』も、1割で『家庭内がぎくしゃく』」(基礎研レポート、2022年6月15日)
5 同調査で、在宅勤務が増えた人は2割弱だったのに対し、家族の働き方に変化があった人は6割弱に上ったことは、他にも時差出勤の利用や、労働時間が短くなったり、出張が減ったりして在宅時間が長くなるなど、様々な変化があったと考えられる。
2|性別にみた影響の差
上記のレポートによると、性別によっても影響に差が見られた。男性では、家族の働き方の変化によって、自身が何らかの影響を受けた人は5割だったのに対し、女性では7割に上った。この要因としては、就労者のうち正規雇用の割合が男性で7割だったのに対し、女性が4割弱だったことや、在宅勤務の増加層が男性では2割だったの対し、女性では1割だったこと、時差出勤の増加層が男性では1割だったのに対し、女性では0.5%であったことなどがあるとみられる。
3|ライフステージ別にみた影響の差
家族の働き方の変化によってどのような影響を受けるかは、子どもの年齢によっても異なると考えられるため、ここからは、回答者のライフステージ別に、筆者が行った分析結果を紹介する。ライフステージを10段階に分けて結果の違いを見ると、まず、全体に比べて影響が大きかったのは、子どもがいる世帯である。「第一子誕生」から「第一子大学入学」までの層では、影響を受けた人は約7割に上った(図表6)。

具体的な内容についてみると、まず時間やスペースの関係では、「子どもが自由に遊べる時間やスペースが減った」は「第一子誕生」から「第一子中学校入学」までの層において、全体よりも高かった。子どもが保育園に通っていない乳幼児だと、大抵は1日の大半を家の中で過ごし、幼稚園や小学生の場合でも、家に帰ってくる時間が早い。そのため、家にいる間、仕事をしている親に遠慮して、大きな声を出すような遊びができないなどの不都合が生じていると考えられる。

「家が手狭になった」は「第一子中学入学」から「第一子大学入学」までで、全体より高かった。子どもが大きくなると、大人も子どももそれぞれ別の活動をしている時間が増えるため、家にいる人数が増えると、落ち着いて自分の用事ができないなど、手狭に感じることが増えるのかもしれない。

「自由にくつろげる時間やスペースが減った」も同様に、「第一子小学校入学」から「第一子中学入学」までの層で、全体より高かった。

家族関係についても、子育て世代への影響が大きかった。「第一子誕生」から「第一子高校入学」までの層において、「家族団らんの時間が増えた」が、概ね全体より10ポイント以上高かった。このうち「第一子誕生」に関しては最大の4割に上った。小さな子どもがいる家庭では、これまで日中家を空けていた親が、仕事の休憩時間や、終業後すぐに、子どもの世話をしたり、一緒に遊んだりするなどと、子どもと接する時間が大きく増えたことが分かる。小さな子どもがいる働き手とその家族にとっては、在宅勤務などの新しい働き方は、ワーク・ライフ・バランスを向上させる手段として機能していることが分かる。ただし、これらの層においては、家事負担が増えた人も全体より高い側面もある。

また、すべてのライフステージのうち「未婚(独身)」の層を見ると、「特に影響がない」が50.1%と全体よりも高かった。「未婚(独身)」は、親や子どもの働き方に変化があった人達と考えられるが、このグループで、影響が相対的に小さかったことから、逆に、影響を受けやすいのは、配偶者やパートナーの働き方に変化があった人だと思われる。
図表6 ライフステージ別に見た、家族の働き方の変化による影響(単位:%)
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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