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- 営業秘密の不正取得・利用-カッパ・クリエイト事件
コラム
2022年10月18日
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報道によるとコロワイド傘下のカッパ・クリエイトの前社長と同社幹部が不正競争防止法違反で逮捕され、法人としてのカッパ・クリエイトも書類送検されたとのことである。事実関係については不明なところもあるが、本件について報道及び同社記者会見に基づいて解説を行いたい。
報道および会見によると、前社長は2020年11月にカッパ・クリエイトへ転職をした。前社長は転職にあたって、前職である、はま寿司あるいはその親会社であるゼンショーホールディングスの取締役あるいは幹部であった際に、その権限を利用して、はま寿司の寿司原価、食材の種類、ネタの仕入れ値などのデータを同年9月末頃に不正に取得していた。転職後、カッパ・クリエイトにおいて、当該データを基に、はま寿司とかっぱ寿司の原価の比較表を作成していたとのことである1。
不正競争防止法違反について、まずは民事上の責任を問えるものとして、(1)不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「営業秘密の不正取得」) (不正競争防止法(以下法)2条1項4号)、および(2)「営業秘密不正取得行為」が介在したことを知って、あるいは重過失により知らないで、営業秘密を使用する行為がある(以下「営業秘密の不正使用」)(法2条1項5号、要件は下記図表1)。この(1)と(2)の行為は「不正競争」に該当し(法2条1項柱書)、不正競争によって被害を受けた者(この場合、はま寿司)から、差止請求や損害賠償ができる (法3条1項、4条)(図表1)。
報道および会見によると、前社長は2020年11月にカッパ・クリエイトへ転職をした。前社長は転職にあたって、前職である、はま寿司あるいはその親会社であるゼンショーホールディングスの取締役あるいは幹部であった際に、その権限を利用して、はま寿司の寿司原価、食材の種類、ネタの仕入れ値などのデータを同年9月末頃に不正に取得していた。転職後、カッパ・クリエイトにおいて、当該データを基に、はま寿司とかっぱ寿司の原価の比較表を作成していたとのことである1。
不正競争防止法違反について、まずは民事上の責任を問えるものとして、(1)不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「営業秘密の不正取得」) (不正競争防止法(以下法)2条1項4号)、および(2)「営業秘密不正取得行為」が介在したことを知って、あるいは重過失により知らないで、営業秘密を使用する行為がある(以下「営業秘密の不正使用」)(法2条1項5号、要件は下記図表1)。この(1)と(2)の行為は「不正競争」に該当し(法2条1項柱書)、不正競争によって被害を受けた者(この場合、はま寿司)から、差止請求や損害賠償ができる (法3条1項、4条)(図表1)。
前社長は(1)営業秘密不正取得行為および(2)不正取得営業秘密の使用の両方が問題となり、カッパ・クリエイトの幹部(および使用者であるカッパ・クリエイト)は(2)不正取得営業秘密の使用について問題となる。
(1)について、まず営業秘密とは何かが問題となるが、営業秘密とは、1)秘密として管理されている情報であること(秘密管理性)、2)事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)、3)公然と知られていない情報であること(非公知性)が必要である(法2条6項)。寿司の原価は一般には公開されるものではなく(上記3))、かつ価格設定にあたってカギとなる営業上有用な情報であると思われる(上記2))し、報道によるとデータへのアクセスは限定された人しか許されていなかった(上記1))ということであるから、これら3要件は満たされると考えられる。
次に不正取得であるが、取得の態様は法文上限定されておらず、どのような行為でもよい。会見によると前社長は、ゼンショーホールディングス勤務時点において海外事業展開検討のために、当該データをPCにダウンロードし、さらに退職にあたって、USBメモリにデータを移し替え、転職後カッパ・クリエイトでの比較表作成に至ったという。
どの会社の営業秘密規定であっても、当該社以外の業務のためのデータ持ち出しは禁止されているだろうから、PCへのダウンロードあるいはUSBメモリへのデータ移し替えのどこかのタイミングで、外部への提供を前提として営業秘密を不正取得したということは認定できよう(上記(1)営業秘密不正取得行為)。特に、コロワイド(カッパ・クリエイト)から前社長に対して2020年8月26日に採用のオファーレターが出されたとの同社の説明がある一方で、データの取得は同年9月末という報道がある2ことから、外部持ち出しの意図をもって不正取得をしたものと考えられる。ここまでは前社長個人の不正競争行為である。
次に(2)についてであるが、まず上記のように前社長らは寿司の原価等の営業秘密を不正に取得した。そして、営業秘密を不正取得した本人である前社長が関与して、はま寿司とかっぱ寿司の原価比較表を作成している。このような行為は上記(2)営業秘密の不正使用に該当すると考えられよう。
以上が民事の問題であるが、本件は刑事事件になっている。同社HPによると競合他社3からの告訴に基づいて2021年6月末に同社に強制捜査が入った。刑事罰が科せられるのは、営業秘密の不正取得に関してはi)不正の利益を得る目的で、ii)管理侵害行為により営業秘密を取得した者(法21条1項1号)である。また、営業秘密の不正使用に関しては、a) 不正の利益を得る目的で、b)管理侵害行為により取得した営業秘密を使用した者である(法21条1項2号)。簡略化していえば、刑事事件としては、おおむね民事上の不正競争に加え、被疑者の「不正の利益を得る目的」が必要となるのが法の建付けである。
(1)について、まず営業秘密とは何かが問題となるが、営業秘密とは、1)秘密として管理されている情報であること(秘密管理性)、2)事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)、3)公然と知られていない情報であること(非公知性)が必要である(法2条6項)。寿司の原価は一般には公開されるものではなく(上記3))、かつ価格設定にあたってカギとなる営業上有用な情報であると思われる(上記2))し、報道によるとデータへのアクセスは限定された人しか許されていなかった(上記1))ということであるから、これら3要件は満たされると考えられる。
次に不正取得であるが、取得の態様は法文上限定されておらず、どのような行為でもよい。会見によると前社長は、ゼンショーホールディングス勤務時点において海外事業展開検討のために、当該データをPCにダウンロードし、さらに退職にあたって、USBメモリにデータを移し替え、転職後カッパ・クリエイトでの比較表作成に至ったという。
どの会社の営業秘密規定であっても、当該社以外の業務のためのデータ持ち出しは禁止されているだろうから、PCへのダウンロードあるいはUSBメモリへのデータ移し替えのどこかのタイミングで、外部への提供を前提として営業秘密を不正取得したということは認定できよう(上記(1)営業秘密不正取得行為)。特に、コロワイド(カッパ・クリエイト)から前社長に対して2020年8月26日に採用のオファーレターが出されたとの同社の説明がある一方で、データの取得は同年9月末という報道がある2ことから、外部持ち出しの意図をもって不正取得をしたものと考えられる。ここまでは前社長個人の不正競争行為である。
次に(2)についてであるが、まず上記のように前社長らは寿司の原価等の営業秘密を不正に取得した。そして、営業秘密を不正取得した本人である前社長が関与して、はま寿司とかっぱ寿司の原価比較表を作成している。このような行為は上記(2)営業秘密の不正使用に該当すると考えられよう。
以上が民事の問題であるが、本件は刑事事件になっている。同社HPによると競合他社3からの告訴に基づいて2021年6月末に同社に強制捜査が入った。刑事罰が科せられるのは、営業秘密の不正取得に関してはi)不正の利益を得る目的で、ii)管理侵害行為により営業秘密を取得した者(法21条1項1号)である。また、営業秘密の不正使用に関しては、a) 不正の利益を得る目的で、b)管理侵害行為により取得した営業秘密を使用した者である(法21条1項2号)。簡略化していえば、刑事事件としては、おおむね民事上の不正競争に加え、被疑者の「不正の利益を得る目的」が必要となるのが法の建付けである。
前社長の営業秘密の不正取得についての要件のうち、ii)管理侵害行為要件についてだが、管理侵害行為とは「営業秘密保有者の管理を害する行為」なので、仮に詐欺行為などの犯罪行為に該当しないとしても、社外への提供を目的とした営業秘密保有者(はま寿司)のデータのダウンロードは営業秘密保有者の利益を害することから、これを満たすものと思われる。他方、i)不正の利益を得る目的要件についてであるが、この要件を満たすかどうかは会見を見る限り曖昧である。会見では比較表の作成は「価格の相場観をつかむ目的」と述べており、これが「不正の利益を得る目的で」を満たすかどうか、事実認定が民事事件より厳格になされる刑事事件としては若干の疑問が残る。この点は捜査の進展により明らかにされることとなると考えられる。
そして前社長およびカッパ・クリエイト幹部の営業秘密の不正使用にかかる要件のうち、b)管理侵害営業秘密の使用という要件は、上記のように管理侵害行為によって取得された、はま寿司の社内データを基に対照表を作っていることから満たすと思われる。他方、上記のところと同様、相場観をつかむだけの使用が、要件a)の不正の利益を得る目的要件を満たすと言えるかが問題となろう。
なお、前社長らが不正使用にかかる罪(法21条1項2号)に問われるときは、両罰規定により、カッパ・クリエイトは法人として罰金(10億円以下)が科せられることとなる(法22条1項1号)4。
同業種の間で転職するのは転職者のスキルを生かすことにつながるものの、営業秘密漏えいの問題が生ずるので丁寧に行わなければならない5。そのため転職先会社では営業秘密を持ち込まないとする誓約書をとることなどが推奨される。会見によると、このような取り扱いは強制捜査後に実施していたようだが、前職で得たデータをUSBメモリで持ち込むなどはこのような取り扱いがなくても当然行ってはならないことは容易に理解できよう。
会見によると、前社長個人は違法の認識はなかったとのことだが、競合他社へ転職する際の初歩的な問題であり、経営者としての意識が不十分だとの批判は免れないと考えられる。
1 読売オンライン2022年10月2日の記事など
2 日経新聞2022年10月3日朝刊
3 はま寿司と思われるが、社名は伏せられている。
4 コロワイドが前社長の転職前にデータを持ち出すよう要請していれば法21条1項1号も問題となるだろうが、そのような行為は会見で否定されている。
5 https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf 経済産業省「秘密の保護ハンドブック」P110以下参照。
そして前社長およびカッパ・クリエイト幹部の営業秘密の不正使用にかかる要件のうち、b)管理侵害営業秘密の使用という要件は、上記のように管理侵害行為によって取得された、はま寿司の社内データを基に対照表を作っていることから満たすと思われる。他方、上記のところと同様、相場観をつかむだけの使用が、要件a)の不正の利益を得る目的要件を満たすと言えるかが問題となろう。
なお、前社長らが不正使用にかかる罪(法21条1項2号)に問われるときは、両罰規定により、カッパ・クリエイトは法人として罰金(10億円以下)が科せられることとなる(法22条1項1号)4。
同業種の間で転職するのは転職者のスキルを生かすことにつながるものの、営業秘密漏えいの問題が生ずるので丁寧に行わなければならない5。そのため転職先会社では営業秘密を持ち込まないとする誓約書をとることなどが推奨される。会見によると、このような取り扱いは強制捜査後に実施していたようだが、前職で得たデータをUSBメモリで持ち込むなどはこのような取り扱いがなくても当然行ってはならないことは容易に理解できよう。
会見によると、前社長個人は違法の認識はなかったとのことだが、競合他社へ転職する際の初歩的な問題であり、経営者としての意識が不十分だとの批判は免れないと考えられる。
1 読売オンライン2022年10月2日の記事など
2 日経新聞2022年10月3日朝刊
3 はま寿司と思われるが、社名は伏せられている。
4 コロワイドが前社長の転職前にデータを持ち出すよう要請していれば法21条1項1号も問題となるだろうが、そのような行為は会見で否定されている。
5 https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf 経済産業省「秘密の保護ハンドブック」P110以下参照。
(2022年10月18日「研究員の眼」)

03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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