2022年09月02日

SMBC日興事件、何が問題?-ブロックオファーと安定操作取引

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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■要旨

SMBC日興証券のブロックオファーにおける相場操縦事件が報道され、調査報告書が開示された。証券分野における金融商品取引法違反事件であることから、具体的に何が問題なのかを理解するのが容易ではない。
 
大株主が株を大量に売却するにあたっては、売却による市場価格の急激な下落を避けたいことから、金融商品取引所(証券取引所)での立会時間内に市場で株式を売却せずに済むような方法がとられている。
 
具体的には立会時間終了後に大株主から証券会社の自己勘定で終値より一定割合でディスカウント(仮に5%)された価格で株式を買い取り、さらに自己勘定から顧客に対して、株式を一定割合でディスカウント(仮に2%)した価格で売却するブロックオファーという方法がとられる。この取引は証券取引所のシステムを使った市場売却であり、開示の必要がない。
 
ブロックオファーが行われることを知った顧客等は執行日の立会時間内に空売りをし(たとえば一株当たり株価500円)、ブロックオファーで株式を買い付ける(たとえば一株当たり株価400円)ことで確実に利益を出すことができる。このため、ブロックオファー執行日当日の株価は下落しがちであった。
 
調査報告書によると、SMBC日興は株価の大幅な下落を避けるため、立会時間終了直前に買いを入れていたとし、これが不適正な取引であったと結論付けている。その理由としては相場操縦に該当するかどうかは別として、自然な株価形成を妨げるものとの疑いを抱かせる行為であったからとしている。

■目次

1――はじめに
2――大株主の株式売却の方法
  1|証券取引所での立会時間内の売却
  2|立会外分売
  3|ブロックオファー
3――本件の問題点
  1|空売りが生ずる懸念
  2|相場操縦(安定操作)禁止違反と本件との関係
4――おわりに
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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レポート紹介

【SMBC日興事件、何が問題?-ブロックオファーと安定操作取引】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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