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業務提携に伴う1割出資の意義-三井住友FGとSBIホールディングスの事例を参考に

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登
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本稿では、本件業務提携に限定せず、業務提携に伴って、議決権約1割の出資を行うということが、どのような意味合いを持つのか考えてみたい。なお、SMFGとSBIHDの事例に沿って、出資会社(株式を保有することとなる会社)も、出資先会社(株式を保有されることとなる会社)も上場会社(したがって公開会社:株式の全部または一部の譲渡制限のない会社)であることを前提とする2。
出資会社が出資先会社の株式を取得する方法として、出資先会社は募集株式の発行を行う(会社法199条)。株主全般ではなく、特定の第三者に株式を割り当てる方法を第三者割当増資という。業務提携の場合、業務提携契約において、出資会社と出資先会社の間には株式数や払込金額等についての合意した内容が定められるが、これらの発行事項についての決定権限は、会社法上、出資先会社の取締役会にある(会社法201条1項)。このうち、発行価格が株式を引き受ける者(出資会社)にとって特に有利となる場合には、募集事項の決定を取締役会ではなく、株主総会の決議で行うことが必要となる(同項、会社法199条3項)。この点、通常の業務提携に伴う出資であれば、特に有利な価格で発行する必然的な理由はなく、提携時点での株式時価等に照らして公正な価格が算定されるだろう3。
そこで、議決権約1割という数字をどう読むかであるが、会社法上、1割の議決権割合で行使可能となる株主の権利としては、会社の解散請求の訴え(会社法833条)がある4が、平常時にはあまり意味がない。財務諸表で持分法適用会社となる2割以上の議決権を保有するか、あるいは合併などの特別決議を阻止できる3分の1以上の議決権を保有するのであれば法的に重要な意味を持つが、そこまでの割合ではない。会社法や会計の観点からは、いわゆる関連会社とは言いにくい。
他方、たとえば保険業法及び独占禁止法を見ると、保険会社は1割を超えて一般事業会社の議決権を保有することができないとされている(保険業法107条、独占禁止法11条)5。つまり、会社法以外の分野においては、グループ会社・関連会社として意識されるラインが1割に引かれている法律が存在する。加えて、出資先会社の株主が分散している場合には、大株主としての約1割議決権は大きな意味がある6。そうすると、約1割の議決権割合の出資の目的は、直接的には資金調達であるが、それにとどまらず、出資会社と出資先会社とは会社法上の関連会社とまではならないが、パートナーとして新規業務に取り組むという意味を強く与えるものということになる7。
ところで、関連会社関係構築に至らない業務提携のために保有する株式は、純投資目的ではなく、政策保有株式である。コーポレートガバナンス・コード(CGC)原則1-4では「上場会社…は、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべき」としている。つまりCGCは合理性のない政策保有株を保有し続けることに否定的である。
そうすると出資会社は株式保有によるメリットを開示しなければならないが、これは出資先会社との共同事業によるシナジー効果や、出資先会社との間で専属的な契約を履行することによる該当事業における先行者メリット等を示すことになろう。
ただ、金融庁の「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」では、保有方針に加えて、定量的な保有効果を示すこと(定量的な記載が困難な場合はどの様に困難だったかを具体的に記載)が求められている。この定量的効果は株式自体の運用成果ではなく、株式保有による自社業績への好影響について記載する必要がある。数字で示すことはさほど簡単ではない。
このような観点からは、出資会社は出資先会社との提携でどう利益を生んでいくのか検討をまず十分に行い、そして、出資後も常時検証していくことが必要であると考えられる。業務提携合意発表はスタートラインでしかない。
1 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB232U80T20C22A6000000/
https://www.sbigroup.co.jp/news/2022/0623_13137.html
https://www.smbc-card.com/company/news/news0001693.pdf
2 公開会社ではない株主会社では第三者増資においての手続が異なる。
3 今回の業務提携では割当価格は1株あたり2950円とされた。公表当日である23日終値を13%上回る水準である。
4 主な少数株主権である株主総会での議題提案権(会社法303条)や議案通知請求権(会社法305条)は議決権1%以上または300個以上でよいため、10%までの保有を要しない。
5 なお、銀行は5%が上限である。
6 ちなみにSBIHDの株主の議決権保有率上位者は信託銀行の信託口であり、10%の保有は事実上筆頭株主になるものと思われる。
7 ただし、株主権の行使に対して利益を供与することは許されない(会社法120条1項)。
(2022年06月30日「研究員の眼」)

03-3512-1866
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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