コラム
2022年06月01日

リストラクチャリングとしての会社分割-東芝の事例を参考に

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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前回の「研究員の眼」で、東芝が指名委員会等設置会社であることについて述べたが、東芝が現状抱えている課題としては「会社分割」の方向性を今後どう決めるかである。会社分割はほとんどの人にとってなんとなくイメージはできても、実際には聞きなれない用語であろう。

会社分割とは、株式会社等の事業に関する権利義務の一部または全部を、他の会社(承継会社)または分割により設立する会社(設立会社)に承継させる手続きである(会社法(以下、法)2条29号、30号)。いわゆる組織再編(リストラクチャリング)の一種として、事業分割に際して活用される制度である。本稿では東芝の目指していた新設分割(事業分割にあたって設立会社を新設する手続き)に限って話を進めたい。

筆者が大学で会社法を学んでいた頃には会社分割制度はなく、事業分割は営業譲渡(現行法では事業譲渡というため、以下は事業譲渡)で行うべきものとされていたと記憶している。事業譲渡とは会社の有する事業に係る権利義務、ノウハウ、取引先などをまとめて他社に譲渡する行為であって、譲渡される事業が総資産額の5分の1を超えないときなど一定の場合を除き、株主総会の決議を必要とする(法467条、468条)。ただし、事業譲渡においては、会社の債務や契約関係を移転するには相手方の個別同意を得なければならない(図表1)。
【図表1】事業譲渡
事業譲渡では(1)契約関係の譲渡の同意取得に手間と時間がかかり、さらに同意を得られない場合も想定される。また、(2)いわゆるスピンアウト、つまり株式会社を設立したうえで事業分割するというスキームでは、設立会社の資本に、金銭ではなく権利等を現物出資することとなるため(変態設立事項という)、総会検査役の選任が必要となる(法28条、33条)など手続が厳格で使い勝手が悪いということがあった。

そこで会社分割では、(1)契約関係の譲渡(特に分割会社の債権者および労働契約)については、一括の移転手続きを設け、また②株式会社を設立する場合であっても会社分割手続に則って行われる場合は、検査役の選任を要さないこととされている。東芝で検討されたような新設分割のスキームのイメージは図表2の通りである。
【図表2】新設分割のイメージ
以下では、ア)株主、イ)債権者、ウ)労働者のそれぞれの視点から会社分割を見てみたい。下記図表3に示したのは会社分割(新設分割)の手続の流れの概略である。
【図表3】新設分割の手続の流れ(概略)
ア)分割会社の株主はまず株主総会の決議に参加することができる(法804条1項、特別決議(法309条3項3号))。分割計画の内容等の書類は開催通知にあわせて送られてくるが、本店において分割計画の内容、分割条件の相当性などにかかる書面等を閲覧等することができる(法803条3項)。分割に反対である株主が、株主総会に先立って反対し、かつ株主総会でも反対したときには保有する株主を正当な価格で買い取ることを分割会社に請求することができる(法806条1項)。会社分割によって企業価値が毀損されると考える株主が直接的に資本回収をできるようにする制度である。ここで「正当な価格」をいかに算定するかが特に問題となるが、本稿の範囲を超えるので省略する。

イ)分割会社の債権者は一か月以上で定められた期間内に異議申立ができる(法810条1項)。異議を申立てられたときは、債権者を害するおそれがないときを除き、分割会社は弁済や担保の提供等を行う必要がある(法810条5項)。異議を申し立てなかった債権者は分割に同意したものとして取り扱われる(同条4項)。

ウ)労働者に関しては、会社分割に関して労働契約承継法(以下、承継法)が定められている。承継法では、ⅰ)承継会社(上記でいう設立会社)に対して承継される事業に主として従事する者、およびⅱ)承継される事業に主として従事していない者であって、承継会社が労働契約を承継する場合においては、それぞれ労働者に通知を行う必要がある。i)の者であって承継会社に労働契約が承継される定めがない者(=分割会社に残るとされた者)が異議を申立てた場合は、承継会社に労働契約が承継される(承継法4条4項)。またii)の者が異議申立てを行った場合は、分割会社に労働契約が残るものとされる(承継法5条3項)。なお、承継法で保護対象にならないのは「移転事業に主として従事する者で労働契約が移転される者」と「移転されない事業に主として従事する者で労働契約が移転されない者」である。従事する事業に変更がないので保護の必要がないとされたものである。

このように株主、債権者、労働者の権利保護の仕組みをそれぞれ入れる代わりに一括して権利譲渡を可能とするスキームが会社分割の制度である。

上述の通り、会社分割は会社のリストラクチャリングのための制度のひとつである。巨大な複合企業に生ずるといわれるコングロマリット・ディスカウント、すなわち経営規模が大きすぎて、企業総体の価値が各事業を併せたものよりも小さくなることに対処する制度として有効とされる。ただ、企業が合併やグループ化して事業間でシナジー効果を生じさせるというプランと比較すると、一企業に統合されている事業をあえて分割独立させることで企業価値が増大するというプランは一般論として理解を得にくいように思う。東芝の今後も要注目である。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

(2022年06月01日「研究員の眼」)

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