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リストラクチャリングとしての会社分割-東芝の事例を参考に
保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登
会社分割とは、株式会社等の事業に関する権利義務の一部または全部を、他の会社(承継会社)または分割により設立する会社(設立会社)に承継させる手続きである(会社法(以下、法)2条29号、30号)。いわゆる組織再編(リストラクチャリング)の一種として、事業分割に際して活用される制度である。本稿では東芝の目指していた新設分割(事業分割にあたって設立会社を新設する手続き)に限って話を進めたい。
筆者が大学で会社法を学んでいた頃には会社分割制度はなく、事業分割は営業譲渡(現行法では事業譲渡というため、以下は事業譲渡)で行うべきものとされていたと記憶している。事業譲渡とは会社の有する事業に係る権利義務、ノウハウ、取引先などをまとめて他社に譲渡する行為であって、譲渡される事業が総資産額の5分の1を超えないときなど一定の場合を除き、株主総会の決議を必要とする(法467条、468条)。ただし、事業譲渡においては、会社の債務や契約関係を移転するには相手方の個別同意を得なければならない(図表1)。
そこで会社分割では、(1)契約関係の譲渡(特に分割会社の債権者および労働契約)については、一括の移転手続きを設け、また②株式会社を設立する場合であっても会社分割手続に則って行われる場合は、検査役の選任を要さないこととされている。東芝で検討されたような新設分割のスキームのイメージは図表2の通りである。
イ)分割会社の債権者は一か月以上で定められた期間内に異議申立ができる(法810条1項)。異議を申立てられたときは、債権者を害するおそれがないときを除き、分割会社は弁済や担保の提供等を行う必要がある(法810条5項)。異議を申し立てなかった債権者は分割に同意したものとして取り扱われる(同条4項)。
ウ)労働者に関しては、会社分割に関して労働契約承継法(以下、承継法)が定められている。承継法では、ⅰ)承継会社(上記でいう設立会社)に対して承継される事業に主として従事する者、およびⅱ)承継される事業に主として従事していない者であって、承継会社が労働契約を承継する場合においては、それぞれ労働者に通知を行う必要がある。i)の者であって承継会社に労働契約が承継される定めがない者(=分割会社に残るとされた者)が異議を申立てた場合は、承継会社に労働契約が承継される(承継法4条4項)。またii)の者が異議申立てを行った場合は、分割会社に労働契約が残るものとされる(承継法5条3項)。なお、承継法で保護対象にならないのは「移転事業に主として従事する者で労働契約が移転される者」と「移転されない事業に主として従事する者で労働契約が移転されない者」である。従事する事業に変更がないので保護の必要がないとされたものである。
このように株主、債権者、労働者の権利保護の仕組みをそれぞれ入れる代わりに一括して権利譲渡を可能とするスキームが会社分割の制度である。
上述の通り、会社分割は会社のリストラクチャリングのための制度のひとつである。巨大な複合企業に生ずるといわれるコングロマリット・ディスカウント、すなわち経営規模が大きすぎて、企業総体の価値が各事業を併せたものよりも小さくなることに対処する制度として有効とされる。ただ、企業が合併やグループ化して事業間でシナジー効果を生じさせるというプランと比較すると、一企業に統合されている事業をあえて分割独立させることで企業価値が増大するというプランは一般論として理解を得にくいように思う。東芝の今後も要注目である。
(2022年06月01日「研究員の眼」)
03-3512-1866
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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