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EだけではないESG~気候変動は重要なテーマだけど~

金融研究部 常務取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 サステナビリティ投資推進室長 德島 勝幸
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1――ESGへの取り組みと本来の業務との兼ね合い
一方で、ESGに取り組むことが、ゆとりのある企業や団体の余技や追加的な行動と見られることも好ましくない。かつてのメセナやフィランソロフィーといった社会活動は、大企業や優良企業が有り余る経営資源をほんの少しだけ投入し、社会的名声を得るために行っているように捉えられるケースもあった。ESGへの取り組みは、それらと同様のものになり下がってはならない。経営方針や経営理念の根幹に基づいた経営活動の一環として、取り組まれるべきものである。
社会のため、地球環境のため、とだけ主張していると、事業会社によるESG経営も投資家によるESG投資も、取り組むこと自体が良いことであると過剰に意識され、本来の企業や組織の目的を見失ってしまいかねない。過剰なまでのESGへの取り組みは抑制されるべきであろう。本来として営利企業であることを忘れないように努めるならば、自然と過剰な取り組みは抑制され、むしろ過少気味な取り組みに留まってしまう可能性が高い。結局のところ、やり過ぎでないかと常に自問自答で確認する必要があるものの、本業を疎かにしなければ、過剰な取り組みになることはないものと思われる。
2――ESGの各要素は等価値ではない
真剣に一途に取り組んでいる人たちには敬意を表するが、時には一歩退いて、目に見え易いことに取り組むことで、より大きな課題を忘れていないか見直すことも必要であろう。適切に廃棄処理されていないレジ袋が散乱して海洋を汚染し海生生物が誤って食べる等の被害が生じている。そのために、一部の例外はあるものの、店舗での無料レジ袋配布を見合わせる。次の段階としては、店頭でのストローやフォーク等の無料提供を止める。もちろん原油に由来しながら自然界には存在しないプラスチックに依存した現代社会の在り方に、問題がないとは言えない。しかし、利便性を放棄することによって得られるものが、単なる取り組んだことに対する満足感だけでは寂しい。取り組んだことによる効果の検証が必要だろう。
太陽光パネルを空き地に設置して太陽光発電を行うことで、化石燃料の燃焼によって二酸化炭素を排出する火力発電への依存を減らすことも、その局面のみを捉えるのであれば、明らかに良いことである。しかし、太陽光パネルが耐久年数を越えた際に、どのように廃棄処理されるのだろうか。かつて原子力発電において放射性廃棄物の処理が問題視され、“トイレなきマンション”という批判を浴びたが、太陽光パネルも再び同じような道を辿ってはいまいか。
結局のところ、手段と目的をはき違え易いという人間の典型的な思考と行動のパターンに陥ってしまう懸念がある。常に、目的を意識して取り組むことが重要だと指摘しているのは、ESGやSDGs(Sustainable Development Goals)の一歩先を考えて取り組む必要があると考えられるからである。そのためには、ESGの三要素の中で、もっとも見え易く、かつ、取り組み易いEの要素への取り組みを少し抑制気味にして、SやGといった他の要素を真剣に考え、目に見えるように取り組むことをお勧めしたい。
もっとも、Sを極論すれば、決して労働環境やジェンダーなどの問題に限られず、社会の在り方全般を意識した幅広いものを含む概念であり、それこそサステナビリティというSDGsの思想に繋げて取り組まなければ、何のために、何に取り組んでいるかを見失ってしまいかねない。特に、中央や地方の政府は、そもそもの存在意義が社会の存続を非営利の観点から支えるものであり、敢えてSの課題に取り組んでいると表明しなくても良いのではないか。社会全体について考えるならば、EですらSの一部として考えることすら可能なのである。
また、Gについては、EやSとは同じ次元に存在するようにも見えるが、実際はSやGに取り組む際の前提条件みたいな存在であり、時に、EやSに関する法令遵守やガバナンスといった局面で表に出て来ることがあるものの、一般的には一段後ろに下がった取り組みとなるものだろう。したがって、グリーンボンドやソーシャルボンドと同じような形でのガバナンスボンドといった債券の発行による取り組みは考え難い。
3――SDGsとESGを統合的に考えよう
すべての企業や組織が、すべての目標に同じように取り組むことは求められていない。ESGはSDGsと関連する文脈で理解すべきであり、17と数多い目標を取り組み易くするための、一つのステップと考えるべきである。意識しないと、すぐにSDGsの全部の目標に対して取り組み、全項目について進捗を管理しようとする組織が出て来るのではないか。同時に、今後、ESGとして取り組まれる内容も、取り組みのウェイトも変化して行くことが期待される。SDGsとESGを統合的に考えて行くことが必要だろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年10月17日「基礎研レター」)

03-3512-1845
- 【職歴】
・1986年 日本生命保険相互会社入社
・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
・2025年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・日本ファイナンス学会
・証券経済学会
・日本金融学会
・日本経営財務研究学会
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【EだけではないESG~気候変動は重要なテーマだけど~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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