2022年10月06日

2022・2023年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.307]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1― 実質GDPはコロナ前の水準を上回る

2022年4-6月期の実質GDPは、前期比0.9%(年率3.5%)と3四半期連続のプラス成長となった。まん延防止等重点措置の終了を受けて、外食、宿泊などの対面型サービスを中心に民間消費が前期比1.2%の高い伸びとなったことが、プラス成長の主因である。高水準の企業収益を背景に設備投資が前期比2.0%の増加となったことも成長率を押し上げた。

2022年4-6月期の実質GDPは2019年10-12月を0.6%上回り、ようやくコロナ前の水準を回復した。しかし、日本は消費税率引き上げの影響で2019年10-12月期に前期比年率▲11.3%の大幅マイナス成長となっており、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に経済活動の水準が大きく落ち込んでいた。直近のピークである2019年4-6月期と比較すると、2022年4-6月期の実質GDPは▲2.4%、民間消費は▲1.8%低い[図表1]。経済の正常化までにはかなりの距離があるといえるだろう。
[図表1]直近のピークと比べた経済活動の水準

2―海外経済の減速が鮮明に

世界経済は、ここにきて減速傾向が鮮明となっている。

コロナ禍からの回復ペースが速かった米国の実質GDPは、2022年1-3月期に続き、4-6月期もマイナス成長となった。2四半期連続のマイナス成長は、一般的にテクニカル・リセッションとされる。正式な景気循環は、全米経済研究所(NBER)が判断するが、その際に重要視する雇用、個人消費などの経済指標は概ね堅調を維持している。テクニカル・リセッションが必ずしも景気後退を意味するわけではない。ただし、FRBは景気後退を招くとしても、インフレ抑制のために金融引き締めを継続する姿勢を示しており、ソフトランディングのハードルは上がっている。

1970年以降の日米の景気循環を振り返ると、円高不況の1980年代半ば、消費税率引き上げ時の1997年のように、日本だけが景気後退に陥った例はある。その一方で、米国が景気後退局面入りした時には必ず日本も景気後退に陥っている[図表2]。米国が景気後退を回避できるかどうかが、日本経済の先行きを大きく左右することになりそうだ。
[図表2]日米の景気循環
米国以上に景気後退の可能性が高いのはユーロ圏だ。ユーロ圏経済は、インフレ抑制のための金融引き締めに加え、ロシアのガス供給削減による悪影響が大きいことから、景気後退に陥ることが予想される。さらに、ロックダウンの影響で2022年春に急速に悪化した中国経済は、先行きについても「ゼロコロナ政策」による下振れリスクの高い状況が続く公算が大きい。

日本の輸出ウェイトで加重平均した海外経済の成長率は、新型コロナウイルスの影響で2020年に▲2%程度のマイナスとなった後、2021年はその反動で6%程度の高い伸びとなったが、2022年は3%程度へと大きく減速することが見込まれる。2023年は、中国が持ち直すものの、米国、ユーロ圏はさらなる減速が予想される。日本から見た海外経済の成長率は3%台半ばにとどまり、引き続き1980年以降の平均成長率の4%程度を下回るだろう。

輸出は2020年度に前年比▲10.0%と大きく落ち込んだ後、2021年度は同12.5%の高い伸びとなった。2022年度は円安による押し上げはあるものの、海外経済減速の影響が大きく、前年比1.9%と伸びが大きく鈍化し、2023年度も同1.7%と低い伸びが続くことが予想される。

3―実質GDP成長率の見通し

原油高、円安に伴う輸入物価の大幅上昇を主因として、消費者物価の上昇ペースが加速している。物価高による2022年度の家計負担は、一世帯当たり10万円程度(勤労者世帯)と試算される。

一方、コロナ禍の度重なる行動制限によって家計には過剰貯蓄が積み上がっている。2019年と比べた2020、2021年の貯蓄増加額のうち、貯蓄率の上昇によって生じた部分を過剰貯蓄とみなした場合、勤労者世帯の過剰貯蓄は2020年が39万円、2021年が30万円、合計69万円となる。物価高の負担を過剰貯蓄が大きく上回っており、貯蓄率の引き下げや積み上がった貯蓄の取り崩しによって、物価高の悪影響を緩和することが可能である。

実際、まん延防止等重点措置終了後の個人消費は、消費者物価上昇率が2%台へと大きく高まる中でも、コロナ禍で急速に落ち込んだ外食、旅行などの対面型サービスを中心に明確に回復している。2022年4-6月期の実質家計消費支出は前期比1.2%、前年比3.2%の高い伸びとなった。家計消費デフレーターの上昇(前期比1.1%、前年比2.3%)が消費の下押し要因(物価要因)となったが、行動制限の解除に伴う貯蓄率の低下が消費を大きく押し上げた[図表3]。
[図表3]実質家計消費支出の変動要因(2022年4-6月期)
先行きについては、海外経済の低迷が続く可能性が高いため、輸出による押し上げは当面期待できないが、緊急事態宣言などの行動制限がなければ、高水準の家計貯蓄や企業収益を背景とした民間消費、設備投資の増加を主因として、プラス成長が続くことが予想される。ただし、金融引き締めに伴う米国経済の急減速、ゼロコロナ政策継続による中国経済の下振れ、ウクライナ情勢の深刻化、冬場の電力不足による経済活動の制限、新型コロナウイルス感染拡大時の政策対応の不確実性、など下振れリスクは大きい。

実質GDP成長率は、2022年度が1.8%、2023年度が1.6%と予想する。

2022年4-6月期の実質GDPは、コロナ前(2019年10-12月期)の水準を0.6%上回ったが、直近のピークである2019年4-6月期の水準を回復するのは2024年1-3月期になると予想する。

4―消費者物価の見通し

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2022年4月以降、前年比で2%台前半となっている。これまでコアCPIを大きく押し上げてきたのは、原油高に伴うエネルギー価格の大幅上昇だったが、ここにきて上昇ペース加速の主因は食料品(除く生鮮食品)へと移っている。

食料品(除く生鮮食品)の上昇率は直近2ヵ月で1.0ポイントの急拡大となり、7月には前年比3.7%となった。川上段階の物価は、輸入物価が前年比で30%程度、食料品の国内企業物価が前年比で5%台の高い伸びとなっている。川上段階の物価上昇を消費者向けの販売価格に転嫁する動きがさらに広がることにより、食料品(生鮮食品を除く)の伸びは4%台まで高まる可能性が高い。

コアCPIは、食料品の上昇ペースが一段と加速すること、円安に伴う輸入物価の上昇を受けて、日用品や衣料品など幅広い品目で価格転嫁の動きが広がることから、上昇率の拡大傾向が続き、携帯電話通信料の値下げの影響一巡、火災・地震保険料の引き上げが見込まれる2022年10月には3%台となることが予想される。

ただし、物価上昇のほとんどは、原材料価格の大幅上昇を販売価格に転嫁することによって生じたものであり、消費者物価指数の約5割を占め、賃金との連動性が高いサービス価格は低迷が続いている。春闘賃上げ率は2022、2023年と改善が続くものの、ベースアップでみればゼロ%台の低い伸びにとどまることが見込まれる。サービス価格の上昇を通じて物価の基調が大きく高まることは期待できない。原材料価格高騰による上昇圧力が一巡することが見込まれる2023年度後半には、コアCPI上昇率はゼロ%台後半まで鈍化する可能性が高い。

コアCPI上昇率は、2022年度が前年比2.5%、2023年度が同1.1%と予想する[図表4]。
[図表4]
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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2022年10月06日「基礎研マンスリー」)

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