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「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2022年9月時点)

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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「働き方改革」の一環として、従業員間のコラボレーションやフレキシブルな働き方の促進を目的として、フリーアドレスを採用する企業はこれまでも一定数存在していた。イトーキの調査8によれば、フリーアドレスの採用率は、コロナ禍前の2019年の50%から2021年の67%へと大幅に増加している。コロナ禍で「在宅勤務」が急速に普及しオフィスに出社するワーカー数が流動的となるなか、フリーアドレスを導入する動きが広がっている。
CBRE「オフィス利用に関するテナント意識調査2022」によれば、ワークプレイスの形態に関して、「現時点(2022年2月時点)」では「全部固定席」との回答が最多(53%)だが、「今後の予定」では22%に低下し、「フリーアドレスと固定席環境が混在するハイブリット型」との回答が22%から26%に増加した(図表-15)。
フリーアドレスは、今後想定されるフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態であり、従来通りの全て固定席ではスペースの有効活用が難しいとの事情もあろう。今後、フリーアドレスと固定席が混在するオフィス利用が進むことで、出社人数に対し余裕をもって座席を用意する企業は減少する9と考えられる。
8 イトーキ「ITOKI WORKPLACE DATA BOOK 2022」
9 ザイマックス不動産総合研究所「コロナ禍で変わるオフィス面積の捉え方」によれば、「席余裕率」(中央値)は、「2021 年 4 月時点の実績値」が 1.85席/出社人数であるのに対して、「コロナ禍収束後の意向」では 1.2 席/出社人数に縮小。
CBREの調査でも、1人あたり平均0.94席から、コロナ禍収束後は0.76席に縮小。
CBRE「オフィス利用に関するテナント意識調査」(2022年2月時点)によると、「移転先ビル選定の重視項目」は、「交通利便性(通勤)」(83%)との回答が最も多く、次いで、「コスト(賃料、光熱費、管理等)」(73%)であった(図表-16)。
企業のオフィス投資では、「オフィス勤務」と「在宅勤務」を組み合わせた新しい働き方への対応に重点が置かれている。また、コロナ禍前(2019年12月時点)と比較して、「快適性(空調・照度など)(60%・2019年54%)」や「ビルのセキュリティ(57%・同48%)」、「ビルの耐震性(52%・同51%)」、「ビルのBCP対応(49%・同30%)」は回答割合が増加している。「働き方改革」を契機に高まった、従業員満足度の向上等を目的とするオフィス環境整備は引き続き重要視されており、コロナ禍を経てもこうした姿勢は継続しているといえよう。
厚生労働省HPで公表されている日本産業衛生学会「オフィス業務における新型コロナウィルス感染症予防・対策マニュアル」では、執務フロアにおける座席配置に関して、ソーシャルディスタンスへの配慮を求めている10。
今後も、従業員にとって快適なオフィス環境を整備する取組みは継続すると考えられる。特に、「Well-being」への配慮や、前述の通り従業員間のコミュニケーション促進は重視されるだろう。したがって、利用効率性のみが追求され、オフィス床面積(1席あたりオフィス面積)が大幅に縮小する懸念は小さい11と考えられる。
10 「一部屋の作業可能人数は、ソーシャルディスタンス(各従業員の周囲2m)を確保できるように設定する。」
「固定席の場合は対面にならないように席を配置する。」
11 イトーキ「ITOKI WORKPLACE DATA BOOK 2022」によれば、1席あたりのオフィス面積は、2019年の7.7m2から2021年の9.1m2へ拡大。
3. 東京都心部Aクラスビル市場の見通し
東京都の就業者数が回復に向かい、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強いことから、東京都心部の「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さい。また、「Well-being」など従業員にとって快適なオフィス環境を整備する取組みが継続するなか、利用効率性のみが追求され「1席あたりオフィス面積」が大幅に縮小する懸念は小さい。
一方、「オフィス勤務」と「在宅勤務」を組み合わせた働き方が定着しつつあり、オフィス戦略の見直しが進んでいる。また、「フリーアドレス」の導入が広がるなか、オフィス利用人数に対して、余裕のある座席数を確保する企業は減少していくと考えられる。以上を鑑みると、今後のオフィス需要(オフィス利用面積)は力強さを欠く見込みである。
そのため、今後5年間の空室率は上昇基調が継続すると予想する。特に、2023年と2025年は大量供給の影響を受けて空室率が上昇し、2026年には約7%となる見通しである(図表-19)。
また、東京都心部Aクラスビルの成約賃料(2021 年=100)は、2022 年に「93」、2023年に「91」、2026 年に「88」となり、2013年の水準まで下落する見通しである(図表-20)。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年09月14日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
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