2022年09月09日

ECB政策理事会-0.75%ポイントの大幅利上げを実施

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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(金融・通貨環境)
  • 市場金利は、インフレ見通しに関連したさらなる金融政策正常化期待のために上昇した
    • 銀行への信用費用はここ数か月でさらに増しており、家計への貸出金利は現在、ここ5年間では最も高水準となっている
    • 量に関しては、企業への銀行貸出は、高い生産コストを賄うことと、在庫の積み増しのために今のところ強い状況が続いている
    • 家計への住宅ローン貸出は、信用基準の厳格化と借入金利上昇、消費者信頼感の弱さにより緩やかになっている
 
(結論)
  • (声明文冒頭に記載の利上げと金融政策スタンスへの再言及)
 
 
(質疑応答(趣旨))
  • 理事会の雰囲気について、0.75%ポイントの利上げ決定の賛成や反対の議論、例えば0.50%や1.00%といった議論について教えて欲しい
    • 理事会は、3つの主要金利の0.75%ポイントの引き上げについて全会一致(unanimously)で決定した
    • 異なる見解はあったが、議論を行い、決定は全会一致となった
 
  • 現在の総裁の立場から、あなたの見解は、本日の決定で中立金利やターミナルレートにどれだけ近づいたのか
    • 現在我々のいる場所、ゼロは中立金利でないことを理解している
    • その方向には向かっている
    • 前倒しで利上げを実施し、今後数回の会合でも、規模やペースは会合毎にデータに基づいた形で、さらなる利上げを実施する予定である
 
  • 量的引き締めについて、流動性の吸収はインフレ抑制に寄与するが、議論したか
    • 現在、我々は、最も効果的で、比例性(propotionate)があり、適切である金融政策手段に焦点を当てている
    • それは、現時点では政策金利であると我々は信じている
    • もちろん、他の手段についても検討しているが、現時点では時期尚早である
    • 今後、理事会においてメンバー間で議論する予定の事項である
 
  • 経済見通しについて、23年の成長率が0.9%と見ているが、他の予測者と比較してかなり楽観的だと思う。なぜ多くのエコノミストが予想する景気後退(recession)を予想していないのか
    • 22年3.1%、23年0.9%、24年1.9%はベースラインである
    • 悲観シナリオもあり、一部はすでに顕在化している1
    • 悲観シナリオの見通しは、22年2.8%、23年▲0.9%、24年1.9%である2
    • 悲観シナリオでは、ロシアのガス供給が断絶し、ユーロ圏全体で配給制となり、ガス不足に対して代替調達措置が取られないとしている3点で、現在状況とは異なる
 
 
1 公表されたスタッフ見通しでは、石油価格や為替レートといった技術的仮定の基準日(cut-off date)は8月22日であり、その後、主要ガスパイプラインであるノルドストリームからのガス供給が停止したことについて注意を促している。
2 悲観シナリオのインフレ見通しは、22年8.4%、23年6.9%、24年2.7%となっている。
3 このほか、海上石油輸送の断絶、商品価格の上振れ、不確実性の高まり、貿易の低迷と、資金調達環境の混乱が想定されている
  • インフレに対抗するために、ECBは制限的な金融政策を取らざるを得ないのか
    • 我々が始めたこの過程は正常化と考えられる
    • 当面は正常化を行う
    • 中期的に2%目標の達成に自信が持てる正常化水準に達したら、データや、どのような金融政策が経済に貢献できるのかに基づき、状況の検証を行う
 
  • 政府預金への付利について、政府預金の上限は担保不足と過剰流動性をもたらし、市場の短期金利にかなりの乖離(divergence)をもたらした。何を決定し、その結果どのように金融政策の伝達が改善されるのか
    • これから、政府預金の付利に関する詳細な決定を記載した、技術的なプレスリリースを入手することができる
 
  • 為替レートは特にエネルギー価格に関する輸入費用を引き下げる方法に見えるが、相場に目標を持っているか
    • もちろん、ユーロの為替相場にはどんな目標も持っていない
    • しかし、ユーロのバスケット通貨に対する減価や、ドルに対する減価についてはかなり注視している
 
  • TPIについて、前回の会合で公表されたが、官報には何の記載もない。現在、TPIは利用できるのか、利用できないならなぜ実施に時間がかかるのか。この手段による金融的リスクは誰が負担するのか
    • TPIについては7月の会合時に言及したほど、今回言及することはない
    • さらなる詳細について期待すべきではない
    • もし、基準に合致し、適格条件が満たされれば、我々がTPIを利用する準備があることには疑問の余地はない
 
  • TLTROについて、TLTROの安価な資金を調達した銀行は、ECBの預金で利益を得ることができる。これは賭博のようにも見えるし、あなたの同僚も心配していると認識している。TLTROの条件変更や、今後に関する議論はされたか。TLTROについてどう考えているか
    • 現在、金利がプラスの領域にシフトするなかで、枠組みや付利の仕組みについて様々な側面から見直しが必要であることは明らかである
    • これは我々が取り上げる問題で、いくらか解決されるものと見られる
    • 今回の会合では議論される場面がなかったが、いずれ我々は全体的な見直しを実施するだろう
 
  • 悲観シナリオについて、いくつかの下振れシナリオは顕在化するなかで、「この景気後退はデフレ圧力であり、利上げを止める必要がある」と言うのに、どれほどの深い景気後退が必要だと考えているか
    • 現在、政策金利はゼロで前倒しがあっても拡張的な金融政策で経済を刺激している
    • 現在のインフレ率が9.1%で、予測期間の終わりで2.3%と目標の北に位置しているため、単純に緩和的な金融政策で刺激を続けることは正当化されない
    • 我々は会合毎にデータに基づいて決定を行う
    • 仮に供給ショックに直面した場合、例えばガス価格の急騰が続いた場合は、成長率や景気後退だけでなく、インフレ率への影響を考慮して決定を行う
 
  • ターミナルレートについて、特定しているか。ターミナルレートに近づけば、政策金利の利上げ幅は小幅なものになるのか
    • 現在の金利は2%目標への回帰を支援するという点では、かなり離れており、そうした金利にすみやかに近づくように利上げは適時かつ適当な規模で実施しなければならない
    • こうした金利に近づくについて利上げ幅が小さくなると言っている訳ではなく、データに基づいて会議毎に決める
    • 予断や先取りをしたくはない
    • 正確なターミナルレートは分からないし、これは議論が巻き起こる問題であり、だれもが各自の見解を持っているだろう
 
  • 金融引き締め(QT)について、ECBはAPPの償還再投資を近い将来終える可能性があるか。イングランド銀行とFRBはすでにQTを開始している
    • 7月にフォワードガイダンスに依存せず、データに基づく会議毎のアプローチを行うことを決めたが、APPとPEPPは例外でフォワードガイダンスが残っている
    • 我々は現在、政策金利を優先し、それに焦点を当てている
    • すべての手段、償還再投資も手段の一部として検討しているものの、現在はその時期ではなく、時期尚早と考えている
 
 
  • 見通しについて、ECBはインフレについて過小評価してきたが、それは金融政策にどれだけ影響(how relevant)してきたか
    • 我々の見通しは誤っていたが、他の予測者も同じように誤っていた
    • 誤りの原因を特定し、スタッフが常に改善し、考慮すべきものを付け加え、我々自身で出来る限り正確になるように判断を加えてきたが、コロナ禍やウクライナ戦争、エネルギーによる揺さぶりは予測できず、見通しを修正する必要があったことは事実である
 
  • 資金調達環境について、家計や企業の資金調達環境は好ましくないものとなっているが、この信用と債券市場の引き締めは行き過ぎなのか
    • 分かっているのは、2%の中期目標を達成したいということであり、そこに向けて必要な段階を踏むということである
    • いくつかの会合、今回を含めて2回以上でおそらく(probably)5回未満になると思うが、それを行っていく
    • 債券市場が引き締め過ぎかどうかについて、彼らは悪くない予想を立てていると思う
    • 完全に正確かは不明だが、現時点の環境では悪い市場想定とは言えないと思う
 
  • オランダはユーロ圏で最も高いインフレ率を経験している。ユーロ圏は長年低インフレを押し上げようとしてきた。なぜ、高インフレを低下させることについてこれほどまでに自信を持てるのか
  • インフレ率を上げるより下げる方が簡単なのか
    • オランダは高インフレの国ではあるが、最高ではなく、バルト諸国ではさらに高い
    • 例えば、マルタとフランス、オランダとラトビアには異質性があり、我々はすべての市民に配慮する必要がある
    • この12か月で状況は大きく変化しており、インフレ率を下げようとしたことは何年もない
    • 我々は、プラス圏に前倒しで利上げし、2%の中期目標に向けて必要な段階を踏んでいく
    • 我々には決意がある
    • インフレは、特に特権階級ではない人々にとっては、恐ろしい現象である
    • 我々は仕事を果たすが、我々が決定してから波及経路を通じて実体経済に反映される反映されるまでにはタイムラグがある
    • また、現在は、供給主導の現象となっている
    • エネルギー価格の引き下げやガス価格の引き下げを大手企業に説得すること、電力市場改革はできないが、金融政策でエネルギー価格を抑制することはできないので、欧州委員会のそういった検討は歓迎したい
    • 金融政策は期待を抑制することに貢献する
    • 人々には、我々が真剣でインフレ抑制に貢献するという強いシグナルを与えるが、仮に供給主導で、エネルギー価格の高騰が続くとしたら、それは他の人の仕事である
    • しかし我々は我々の仕事をする
 
  • 政策金利について、ECBは2%インフレに戻すのに必要であるならば、ターミナルレート以上に金利を引き上げて、それからターミナルレートに引き下げる用意はあるのか、その水準はどこか
    • 中期的に2%のインフレ回帰するための金利までには、さらに多くの段階があると認識している
    • 仮にそれが、あなたが言及した金利よりも高ければそうするだろう
    • 現在の見通しでは目標に達しておらず、さらなる行動が必要である
    • 二次波及効果(second-round effects)は見たくなく、すべての経済主体がどのような決定を下すにせよ、ECBが2%の目標回帰に向けて真剣であることは理解してもらいたい
 
  • 予測は難しいと言ったが、金融政策は、今や科学というより芸術の領域にあるのだろうか。あなたは以前、それについて述べたが、本日の決定は芸術色のあるものなのか
    • 有名な中央銀行家の引用であり、科学的であるだけでなく、芸術の要素もあると言っていた
    • 私は、我々が純粋に数学的であることはできない、と理解している
    • どんなに洗練されたモデルあっても、どのような仮定の選択に関する判断を行うにせよ、結果だけを見て動くことはできない
    • 我々は議論を通じて持ち込まれた集団的な判断要素を含める必要がある、という意味である
 
  • ユーロが下落するなかで、次期会合での0.75%ポイントの利上げの可能性について。あなたはそれが基準ではないと言ったが、今後も0.75%ポイントは議論されるのか
    • 我々は目標のために動くが、決まった経路にはいない
    • 決定は会議毎にデータ、状況に依存して行われる
 
  • 米国とユーロ圏で起きていることの対比について。あなたは以前、ユーロ圏は米国とは違う場所にいることを強調したが、ユーロ圏のインフレ率は現在、米国並みになっている。これはインフレが似ている状況にあり、必要な薬も類似することを意味するのか
    • 米国のインフレは需要が大きくけん引しており、ユーロ圏のインフレは供給が大きくけん引している
    • 米国の求人失業比率は2対1だが、ユーロ圏の比率は0.3対1であり、1人の欠員に対して3人の失業者がいるため、状況は異なる
    • また、金融政策の正常化、引き締めとなる出発点がFRBとユーロ圏とでは異なり、我々はマイナス圏から出発している
 
  • 12月には今年中の利上げをありそうにないと言っていた。6月には7月に0.25%ポイント利上げすると言い、実際は0.50%引き上げた。今回も前倒ししている。あなたが言及したように、ウクライナでの戦争、ガス禁輸は予測できなかったかもしれないが、ECBの信頼性について懸念していないか。
    • この現時点で言えることは、我々が持っている数字、見ている動向、インフレ要因、見通しに基づいて動きを決めているということである
    • 我々の信頼性は、我々がコミットしている2%目標にインフレ率が戻るかどうかで判断されるものだと考えている
 
  • 為替レートについて。為替レートの水準を目標にしていないと言っているが、ユーロ圏で為替レートが現在の経済状況に及ぼしている影響について説明して欲しい
    • ユーロ圏が実効レートで、また対ドルで減価した影響が、どの程度インフレに寄与しているかの分解は現時点ではできていないが、後ほど文書として入手できるようになるだろう
    • 実際、特に多くのエネルギー製品がドル建てであり、直接的な影響が生じている
(参考)ECBの金融政策ツール
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年09月09日「経済・金融フラッシュ」)

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【ECB政策理事会-0.75%ポイントの大幅利上げを実施】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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