2022年08月30日

Amazonの最恵国待遇条項訴訟-棄却決定に対するコロンビア特別区からの申立て

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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3――修正申立て

修正申立ては撤回申立ての付表(Exhibit)として提出されている。内容は以下の通りである。
1|Amazonはオンライン市場における独占力を有する8
Amazonの売上高は、オンライン市場における総売り上げのうち50-70%を占めると見積もられている。次順位のウォルマートとイーベイは一桁のシェアしかない。Amazonには百万の単位のTPSが存在するが、ウォルマートには11万のTPSしか存在しない。

66%の消費者は新商品の検索をAmazonで開始する。そして特定の商品の購入を決めている人のうち74%が直接Amazonにアクセスする。オンライン市場においてあまねく存在するAmazonの事業活動や決定は米国経済で特大な効果を有する。
 
8 修正申立てP7~P8
2|MFNはAmazonのオンライン市場を保護する9
Amazonは積極的にMFNを適用している。Amazonは広範囲の電子監視ネットワークと社員とを活用し、TPSが他のオンライン市場で販売する商品価格をモニターしている。Amazonが他のオンライン市場で同様の商品をより安い価格で販売したのを発見すると、AmazonはTPSに対して価格警告(pricing alert)を送付し、当該商品はBuy Box(=AmazonのHP上で優先的に表示される枠)の適用が受けられなくなる旨を警告する。Buy Boxに掲示されることの重要性を踏まえると、この制裁はTPSにとって壊滅的な影響を及ぼす。

Amazonは、TPSとは異なる業者がTPSより商品を購入し、TPSよりも安い価格で他のオンライン市場で販売している場合も制裁を行っている。

TPSにとってはMFN違反を回避するため、他のオンライン市場でより安い価格で販売されないよう多大な努力を必要とする。あるTPSによるとAmazonの最新型価格情報収集ソフトは常時インターネットを巡回監視し、大幅に低い価格ではなく、どんな相違でもAmazon価格より乖離している価格を探知している。ある例ではAmazonで44ドル、他のオンライン市場において39.99ドルで販売していたところ、数分のうちにAmazonは当該行為がFPP違反であり、Buy Boxからの除外を通知したという。
 
9 修正申立てP8~P11
3|Amazonの高い手数料が他のオンライン市場での価格にも影響を及ぼす10
過去5年以上にわたりAmazonは継続的に手数料を引き上げ、結果としてTPSからの売り上げを11%増加させた。Amazonの仲介による基礎となる手数料、すなわち仲介手数料(referral fee)は15%であり、衣料といった商品にはより高額の手数料が課されている。

これに加えて、保管・運送・代金受取をAmazonが行う代行サービス(Fulfillment by Amazon、以下FBA)を多くのTPSが利用しており、結果として多くのTPSが40%の販売手数料をAmazonに支払っている。TPSにとってはFBAを選択し、多額の手数料を支払うことが余儀なくされているのは、それがBuy Boxに掲載され、利益を生ずる主要な手段だからである。

Buy Box枠に掲示されることは非常に重要で、Amazonオンライン市場での販売の82%がBuy Box経由である。Buy Boxに掲載されない商品はそもそも利用者の目に触れず、Buy Box掲載から外すことは重大な競争上の不利益を被る。

比較してウォルマートでは、費用としては仲介手数料のみであり、登録費などは徴収しない。また代行サービス(Fulfillment service)は月額部分と一件当たりの料金があるが、Amazonよりも非常に安い。AmazonがTPSを失うことなく高額の手数料を徴収できるという事実は市場支配力の証拠である。そしてAmazonのMFNによって、Amazonの高額手数料を前提とした価格がAmazonのオンライン市場だけではなく、競合するオンライン市場でも消費者に転嫁される。

Amazonのオンライン市場でのTPSからの利益マージンは20%であり、Amazonの自社販売の4倍も高い。AmazonのMFNがなければ、TPSは自社または他のオンライン市場において消費者により低い価格で提供できるはずである。
 
10 修正申立てP11~P15
4|MMAはオンライン市場間の競争を減少させ、消費者価格を上昇させる11
AmazonはFPSとの間にも反トラスト法的な合意を結んでいる。MMAに基づいて、AmazonがFPSから購入した商品の再販売によって合意した利益を得られない場合は、その差額をFPSが支払うこととなっている。この結果、FPSはAmazonへ数百万ドルの「真正な(true up)」支払い義務を負っている。

典型的なMMAが発動されるきっかけは、Amazonが競合するオンライン市場で同一商品がより安い価格で販売されていることを発見して、Amazonでの価格を引き下げるといった場合である。したがって、MMAの実際の効果はMFNと同様であり、FPSが他のオンライン市場で安価に販売するか、もしくはFPSが他社に対して安値販売することを許容するかしたことへの制裁を意味する。
 
11 修正申立てP15~P16
5|AmazonのMFNとMMAは市場における競争を制限する12
(1)Amazonのオンライン市場は米国で他のオンライン市場と競争している。
オンライン市場には、多数の売り手がいるオンライン市場と、単独の売り手により運営されるオンライン市場とがある。AmazonのMFNとMMAはオンライン市場同士の競争を制限し、Amazonの独占的地位を守ってきた。

オンライン市場とリアル店舗は、消費者、経済学者、販売業者、ビジネス専門家、Amazon自身によって相違すると考えられている。また相違点として、オンライン市場はリアル店舗と比較して、顧客に関する非常に多くの異なった情報を得られる点や、オンライン市場の方がリアル店舗より多くの広告(一ドルあたりの広告費として三倍)を利用している点などが挙げられる。
 
(2)Amazonの市場支配力はオンライン市場の価格支配力で示される。
Amazonのオンライン市場における市場支配力は、MFNを通じて他のオンライン市場の価格を支配し、Amazonのオンライン市場よりも安い価格で販売されることを防ぐ能力によって示される。これらの合意は効果的に価格下限をオンライン市場横断的に設定することになり、Amazon価格がオンライン市場横断的に広められる。
 
(3)Amazonの市場支配力は独占的に持続的なマーケットシェアによって示される。
Amazonの市場売り上げシェアは2016年に38.1%であって昨今の推計では50%を超えている。下院の反トラスト小委員会の試算では、Amazonが65%~70%の米国オンライン市場を支配している。Amazonのオンライン市場の独占力は一時的なものではなく、下院の反トラスト小委員会が結論付けたように、米国オンライン市場における重大で継続的な市場支配力を有する。
 
(4)Amazonの市場支配力は参入障壁によって守られている。
Amazonの市場支配力は多くの自身が作り出した参入障壁で守られている。たとえば、Amazonはオンライン市場構築にあたって、莫大な資金投資と当初、巨額の連年の損失の発生を許容した。Amazonと同範囲・同規模で意味のある参入は、Amazonの参入障壁を前提とするとありそうにないか、不可能である。

最も重要な参入障壁はネットワーク効果である。売り手と買い手の双方にとってオンライン市場の価値は、ネットワークの反対側により多くの売り手と買い手がいることにより一層増加する。新規参入者にとってAmazonクラスの多数の売り手と買い手がおり、巨大で確立した障壁がある場合の参入は極度に困難である。

Amazonは米国で1億2600万人のプライム会員という顧客ベースを、損失を出しながら作り出し、Amazonオンライン市場のネットワーク効果を構築した。96%のプライム会員は他のオンライン市場よりもAmazonで購入しやすいと推定されている。

他の参入障壁としてはAmazonがオンライン市場で収集した売り手と買い手の莫大なデータである。Amazonはこれらのデータを用い、個別顧客に対してターゲット商品を絞り、より多くの支出をするように誘う。

また別の参入障壁としては、運送とロジスティクスサービスによってオンライン市場での独占を強化しているということがある。
 
(5)Amazonの反競争法的な合意によって市場支配的地位が構築・維持される。
AmazonのMFNとMMAはオンライン市場での独占的な地位を強化する。仮にAmazonの価格統制がなければ、TPSは別のオンライン市場や自社サイトを利用する動機付けがされていただろう。

AmazonのTPSやFPSとの反競争法的な合意は既存あるいは潜在的なオンライン市場競争者が効果的にマーケットシェアを獲得、あるいは参入することをできなくし、そのためにAmazonの独占および手数料や価格を支配する能力を強化している。
 
12 修正申立てP16~P20
6|AmazonのMFNはオンライン市場の価格競争を抑圧する13
一例として、Amazonが自社ブランド電池を自社オンライン市場で販売したとする。TPSも同様にAmazonのオンライン市場で販売したとすると、Amazonブランド電池とTPS電池は代替品として認識される。そしてTPSの電池が競合するオンライン市場でより安い値段で販売されると、消費者はその電池をより購入するだろう。

しかし、AmazonのMFNによって、TPSの電池のオンライン市場横断での販売価格を維持・固定することで消費者が代替品として購入するという競争からAmazon製品を隔離することができている。
 
13 修正申立てP26~P27
7|Amazonの反トラスト法的行為は消費者TPS,FPS,と競争に被害を与えている14
MFNによって、AmazonがTPSに高い手数料を課すことを可能にし、オンライン市場での価格を上昇させた。さらに消費者の選択肢を減少させ、オンライン市場間、および数多くの小売業者の競争及び革新を阻害している。同様にAmazonのMMAもFPSに被害を与えている。
 
14 修正申立てP27~P29
8|Amazonの反競争的行為は州の反トラスト法に違反する15
(1)MFN条項は取引制限の合意を禁止したDC code§28-4502に違反する。
Amazonの締結した契約におけるMFNによって、特別区の住民にとって競争的なオンライン市場が否定され、MFNがなかったとした場合よりも高い価格を支払うこととなり、直接的あるいは間接的に特別区の住民に被害を与えた。
 
(2)MMAは取引制限の合意を禁止したDC code§28-4502に違反する。
Amazonの締結した契約におけるMMAによって、特別区の住民にとって競争的なオンライン市場が否定され、Amazonの反トラスト法的行為がなかったとした場合よりも高い価格を支払うこととなり、直接的あるいは間接的に特別区の住民に被害を与えた。
 
(3)独占状態の違法な維持は>DC code§28-4503に違反する。
AmazonのTPSとFPSとの合意を通じて、他のオンライン市場でも人工的に高額な価格付けをすることにより、Amazonは自社のオンライン市場との競争者が市場シェアを獲得することを排除した。このことによりAmazonはオンライン市場における独占者の地位を維持した。
 
(4)独占を企図することはDC code§28-4503に違反する。
AmazonはMFNとMMAの導入、施行、強制を含む反トラスト法的な行為を行ってきた。このような制限によってAmazonはオンライン市場における独占の意図を示し、価格を支配し、競争者を排除し、オンライン市場における競争と革新を抑圧した。
 
15 修正申立てP29~P33
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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