コラム
2022年08月24日

数学が社会でどう役立っているのかを教えていくことが重要だ

中村 亮一

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大学で数学を専攻しており、生命保険会社に入社して、保険数理の専門家としてのアクチュアリーの資格を取得して、その関係業務に従事してきたことから、一般の方々に比べれば数学との関りが強い生活を送ってきている。そうしたこともあって、弊社のコラムにおいては、一人でも多くの方々に、数学の魅力を感じて、数学への興味・関心を有してもらえればと思って、数学に関係する話題を取り上げてきている。

数学と言えば、つい最近「三角関数を高校で学ぶ必要があるのか」が話題になっていた。いわゆる優先順位の問題として、これからは「金融教育等の方がより大事」という意味の問題提起がなされていたようである。金融業界に身をおいてきた者として、金融教育の重要性も強調したいが、一方で、やはり現在の各種技術の根底を支える基礎的概念として、仮にそれが十分に理解されない形になっていたとしても、高校ではやはり全員に三角関数を教えて、三角関数がどのようなものなのかということを一定認識させる機会を与えるべきだと思っている。

三角関数は、大学の入学試験問題等で苦労した経験があるので、多くの方々がマイナスのイメージを有していて、必要が無ければもはや関わりたくないと思っておられるだろう。ただし、三角関数は極めて有用なもので、例えば、(1)土地や建物の測量、(2)電波・光波・音波・地震波等の波の調査・分析・研究、(3)それらの応用としての音声処理や画像処理、各種放送、写真撮影、音楽再生、携帯電話、(4)振動やその制御に関する調査・分析・研究、等に深く関係している。技術系の職務に就かれている方々にとって、三角関数は必須のツールで、例えば、フーリエ変換は極めて重要なテクニックとなっている。

三角関数に限らないが、将来何か個人的な興味を有することになったものが、実は学生時代に学んだ数学に関係しているということはよくある話である。物事を突き詰めようとすればするほど、専門的・技術的なことに対する理解も深めたいという気持ちになる方々もおられるものと思われる。例えば、音楽好きな方々が、その音の発生の仕組みやその伝送や録音の仕組み等において、三角関数が深く関係していることを知れば、三角関数に魅力を感じるようになるかもしれない。もちろん、音楽が聴けさせすれば、それで十分だと考えている人が殆どかもしれない。それでもその構造が一定程度理解されていれば、いざというときにも役立ち、興味・関心もより増すかもしれない。

三角関数以外にも、学生時代に学んだ数学のうち、例えば「指数関数」については、「指数関数的に増加する」という表現に見られるように、馴染み深いものとなっているのではないか。金融の世界でもしばしば現れてくるが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の予測に関連して、マスコミでもよく取り上げられ、注目を浴びていた。

一方で、その逆関数に相当する「対数(関数)」については、アレルギー反応を起こして、身構えてしまう方が多いのではないかと思われる。ところが、対数は、(1)星の明るさ(等級)、(2)音の大きさ(デシベル)、(3)音のラウドネス(聴覚的な強さ)(ホーン)、(4)地震が発するエネルギーの大きさ(マグニチュード)、(5)水素イオン指数(酸性・アルカリ性の度合い)(ペーハー)、(6)音階、等、幅広く使用され、社会の役に立っている。さらには、そもそも「人間の感覚は対数感覚」であると言われており、有名な「ヴェーバー‐フェヒナーの法則」というものもある。

「確率・統計」については、ブラック・ショールズの方程式、リスクの評価、物質や熱の拡散現象、迷惑メールの判定、天気予報の予測、宝くじ、ビッグデータ等の分析・評価等に使用されている。また、「微分・積分」は、運動方程式や熱伝導方程式等、物理現象を解析するのに欠かせないものである。「ベクトル」は、慣性の法則、落体の法則、等速円運動等を表現するのに有効な手段となっており、「行列」は、コンピューター等による計算の簡素化等に大きく寄与している。

これらの数学は、自然現象だけでなく、社会現象の分析・研究にも「数理モデル」等の形で幅広く使用されている。

こうした具体的な分野に限らず、そもそも数学的な思考力、解析力、論理展開力、物事を抽象化・客観化して本質を見抜く能力等は、企業の経営やビジネスの運営において、基礎的な素養をなすものとして、重要な位置付けを有している。

学生時代に数学の勉強に身が入らないのは、それが実生活等においてどの程度有用なものなのかがよくわからないということもあると思われる。その意味では、数学を教える際には、まずはそれが社会でどのように役立っているのかを具体的に説明し、理解させて、興味・関心を呼び起こさせた上で、学ばせていくことが一層望まれるだろう。
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(2022年08月24日「研究員の眼」)

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