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2022年08月15日
1――インフレの鈍化期待から急反発
2――鍵を握る米長期金利の動向
米債券市場では、7月上旬から長期金利(10年国債利回り)が短期金利(2年国債利回り)より低い、いわゆる逆イールドとなっている。実際に直近では、長期金利が2.8%台であるのに対して短期金利は3.2%台となおり、長期金利が短期金利より0.4%も低い。金融引締めのペース鈍化と早期の金融緩和への転換を見込んでいる状況といえる。
しかし、本当に金融市場が見込んでいるような金融政策となるかは現時点では分からない。現在の金融市場では自分たちに都合よく、楽観的に考えすぎている可能性がある。ゆえに、9月のFOMCもしくはそれまでに金融政策当局関係者の発言等によって、長期金利が3%もしくは3.2%程度まで急上昇するかもしれない。それに伴ってS&P500種株価指数が3,800ポイント程度、予想PERが16倍程度にまで再び下落する展開も考えられる。
しかし、本当に金融市場が見込んでいるような金融政策となるかは現時点では分からない。現在の金融市場では自分たちに都合よく、楽観的に考えすぎている可能性がある。ゆえに、9月のFOMCもしくはそれまでに金融政策当局関係者の発言等によって、長期金利が3%もしくは3.2%程度まで急上昇するかもしれない。それに伴ってS&P500種株価指数が3,800ポイント程度、予想PERが16倍程度にまで再び下落する展開も考えられる。
3――中長期的には景気・企業業績とインフレの動向次第
短期的にはこのように金融政策の動向、金融市場と金融政策当局との認識の違い・ズレが米国株式の最大のリスク要因になると思われるが、中長期的にはやはり景気・企業業績とインフレの動向次第となろう1。
米国で景気後退が懸念されていながらも米国株式が上昇した背景には、悪くなかった米企業の決算発表や良好だった雇用統計などがある。しかし、米景気が着実に減速してきていることはS&P500種株価指数の12カ月先予想EPS(【図表2、3】赤線)の足元の推移をみても明らかである。
今期2022年(青線)と来期2023年(緑線)に分けて予想EPSの推移をみると、今期はそれなりに底堅く推移しているが、来期は6月中旬から低下基調にある【図表4】。それに伴って来期増益率(面グラフ)も鈍化し、元々、10%弱だったのが足元では8%を下回ってきている。
米国で景気後退が懸念されていながらも米国株式が上昇した背景には、悪くなかった米企業の決算発表や良好だった雇用統計などがある。しかし、米景気が着実に減速してきていることはS&P500種株価指数の12カ月先予想EPS(【図表2、3】赤線)の足元の推移をみても明らかである。
今期2022年(青線)と来期2023年(緑線)に分けて予想EPSの推移をみると、今期はそれなりに底堅く推移しているが、来期は6月中旬から低下基調にある【図表4】。それに伴って来期増益率(面グラフ)も鈍化し、元々、10%弱だったのが足元では8%を下回ってきている。
2023年の米国企業の業績予想が今後さらに下方修正されることになると、予想EPSの低下に加えて株式リスク・プレミアムの上昇に伴い予想PERも低下し、S&P500種株価指数は年初来安値を更新して3,500ポイントを下回るかもしれない。今後、景気後退に陥った場合には、足元の水準から2割程度の下落は覚悟しておいた方が良いと思われる。
また、インフレについても鈍化の兆候がみられるようになっただけで、これから金融市場や金融政策当局が考えているように本当に収束していくかは分かりかねる。もし、インフレ鈍化が緩慢な場合には金融引締めが維持もしくは加速等される可能性があり、米長期金利が上昇もしくは高止まりするかもしれない。景気後退に陥りながらもインフレが収束せず、スタグフレーションになった場合には株価下落がより大きくなるため、注意が必要である。
1 「米国株式、4つのシナリオ」参照。
また、インフレについても鈍化の兆候がみられるようになっただけで、これから金融市場や金融政策当局が考えているように本当に収束していくかは分かりかねる。もし、インフレ鈍化が緩慢な場合には金融引締めが維持もしくは加速等される可能性があり、米長期金利が上昇もしくは高止まりするかもしれない。景気後退に陥りながらもインフレが収束せず、スタグフレーションになった場合には株価下落がより大きくなるため、注意が必要である。
1 「米国株式、4つのシナリオ」参照。
4――最後に
米国株式は、インフレが金融市場で現在考えられているように早期収束し、かつ景気・企業業績が今後も底堅く推移すれば、現在の水準を維持して年末を迎える可能性がある。ただ、足元の経済指標や決算発表から、そのようになると判断するのは楽観的で早計に思える。
2018年は、10月に米長期金利の急上昇をきっかけに米国株式が急落し、その後に長期金利は低下したものの業績拡大鈍化が嫌気され20%下落した【図表5】。当時も逆イールドになったのは翌2019年の8月であったが、2018年7月から長短金利差が縮小し、2019年に向けて景気の減速、後退が警戒されていた。
2022年も2018年と同様の展開にならないか心配である。
2018年は、10月に米長期金利の急上昇をきっかけに米国株式が急落し、その後に長期金利は低下したものの業績拡大鈍化が嫌気され20%下落した【図表5】。当時も逆イールドになったのは翌2019年の8月であったが、2018年7月から長短金利差が縮小し、2019年に向けて景気の減速、後退が警戒されていた。
2022年も2018年と同様の展開にならないか心配である。
(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。
03-3512-1785
経歴
- 【職歴】
2008年 大和総研入社
2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
2022年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)
(2022年08月15日「基礎研レター」)
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