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2022年07月19日
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3――習近平政権が目指す「共同富裕」の方向性
1|習近平政権における「共同富裕」の位置づけ
それでは習近平政権は「共同富裕」をどう位置づけているのであろうか。すなわち、毛沢東のように経済発展を脇に置いてでも今すぐに実現すべき理念と考えているのか、それとも鄧小平やその後継者たちのように経済発展を成し遂げたあとに達成すべき長期目標と考えているのか、という問題である。習近平政権が「共同富裕」をどう考えているかに関してはまだまだ不明な点も多いが、ここもとの公式文書や発言からおぼろげに見えてきたこともある。現時点で筆者は、習近平政権の「共同富裕」の位置づけは、下記3点から毛沢東のそれよりも鄧小平のそれに近いと考えている。
第一に習近平国家主席が現在の中国を「社会主義初級段階」と認識している点である。2020年10月に開催された「第14次国民経済・社会発展5ヵ年計画(2021~2025年)および2035年長期目標の策定に関する党中央の提案(以下、提案稿と称す)」に関する説明会で習近平国家主席は、「わが国は依然として、また長期的に社会主義初級段階にあり、わが国は依然世界最大の発展途上国で、発展が依然わが党の執政興国の第一に重要な任務である」と述べるとともに、第一に重要な任務は発展であると明言した。社会主義初級段階というのは鄧小平時代の1987年に提示された概念で、社会主義初級段階においては「4つの近代化≒改革開放」が主な任務とされている。さらに同説明会では、「わが国経済には長期の落ち着いた発展を維持する希望と潜在力があり、(中略)、2035年までに経済総量または1人当たり所得の倍増目標を実現することは完全に可能である」とも述べている。2035年までに所得を倍増させるためには年平均5%弱で経済成長することが必要となる。2010年代の経済成長率が年平均6.8%だったことから低い目標のように感じるかも知れないが、一人当たりGDPが世界の中位に達した中国にとっては極めて高い目標である。世界各国の一人当たりGDPを20パーセンタイルずつ5分位に分けて分析すると、中位となる第3分位にあった国の経済成長率は、1980年代が年平均3.7%、1990年代が同3.0%、2000年代が同4.2%、2010年代が同2.1%に留まり、前述の同5%弱がいかに高い成長目標であるかが分かる[図表-5]。したがって、中国の現状を社会主義初級段階と認識し、第一に重要な任務を発展とし、世界平均を大きく上回る成長を目指していることから考えて、習近平政権が経済発展を脇に置いてでも「共同富裕」に邁進するとは考えづらい。
それでは習近平政権は「共同富裕」をどう位置づけているのであろうか。すなわち、毛沢東のように経済発展を脇に置いてでも今すぐに実現すべき理念と考えているのか、それとも鄧小平やその後継者たちのように経済発展を成し遂げたあとに達成すべき長期目標と考えているのか、という問題である。習近平政権が「共同富裕」をどう考えているかに関してはまだまだ不明な点も多いが、ここもとの公式文書や発言からおぼろげに見えてきたこともある。現時点で筆者は、習近平政権の「共同富裕」の位置づけは、下記3点から毛沢東のそれよりも鄧小平のそれに近いと考えている。
第一に習近平国家主席が現在の中国を「社会主義初級段階」と認識している点である。2020年10月に開催された「第14次国民経済・社会発展5ヵ年計画(2021~2025年)および2035年長期目標の策定に関する党中央の提案(以下、提案稿と称す)」に関する説明会で習近平国家主席は、「わが国は依然として、また長期的に社会主義初級段階にあり、わが国は依然世界最大の発展途上国で、発展が依然わが党の執政興国の第一に重要な任務である」と述べるとともに、第一に重要な任務は発展であると明言した。社会主義初級段階というのは鄧小平時代の1987年に提示された概念で、社会主義初級段階においては「4つの近代化≒改革開放」が主な任務とされている。さらに同説明会では、「わが国経済には長期の落ち着いた発展を維持する希望と潜在力があり、(中略)、2035年までに経済総量または1人当たり所得の倍増目標を実現することは完全に可能である」とも述べている。2035年までに所得を倍増させるためには年平均5%弱で経済成長することが必要となる。2010年代の経済成長率が年平均6.8%だったことから低い目標のように感じるかも知れないが、一人当たりGDPが世界の中位に達した中国にとっては極めて高い目標である。世界各国の一人当たりGDPを20パーセンタイルずつ5分位に分けて分析すると、中位となる第3分位にあった国の経済成長率は、1980年代が年平均3.7%、1990年代が同3.0%、2000年代が同4.2%、2010年代が同2.1%に留まり、前述の同5%弱がいかに高い成長目標であるかが分かる[図表-5]。したがって、中国の現状を社会主義初級段階と認識し、第一に重要な任務を発展とし、世界平均を大きく上回る成長を目指していることから考えて、習近平政権が経済発展を脇に置いてでも「共同富裕」に邁進するとは考えづらい。
第二に習近平政権が「画一的な平均主義」を明確に否定している点である。21年8月17日に開催された中央財経委員会第10回会議では、「共同富裕」に対する取り組みの歴史を振り返って、「改革開放後、わが党はプラス・マイナス両方面の歴史経験を深刻に総括し、貧困に至るのは社会主義ではないと認識し、伝統体制の束縛を打破し、一部の人・一部の地域が先に豊かになることを認め、社会の生産力の解放・発展を推進してきた。第18回党大会以降、党中央は、人民全体の共同富裕の段階的実現を更に重要と位置づけ、有力な措置を採用して民生を保障・改善し、脱貧困堅塁攻略戦に打ち勝ち、小康社会を全面実現し、共同富裕促進のために良好な条件を創造した。我々は、正に第2の百年奮闘目標に向けて邁進しており、わが国社会の主要矛盾の変化に適応し、人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要を更に好く満足させるには、人民全体の共同富裕の促進を、人民のために幸福を謀る注力点とし、党の長期執政の基礎を不断に打ち固めなければならない。共同富裕は人民全体の富裕であり、人民大衆の物質生活・精神生活がいずれも富裕になることであり、少数の人の富裕ではないし、画一的な平均主義でもなく、共同富裕を段階的に促進しなければならない。勤労・イノベーションで富裕に至ることを奨励し、発展の中での民生の保障・改善を堅持し、人民の教育程度を高め、発展能力を増強するために更に包摂的で公平な条件を創造し、上層への移動のルートを円滑にし、更に多くの人のために富裕に至るチャンスを創造し、人々が参加する発展環境を形成しなければならない。基本経済制度を堅持し、社会主義初級段階に立脚し 、2つのいささかも揺るがない8を堅持し、公有制を主体とし、多様な所有制経済の共同発展を堅持し 、一部分の人が先に富むことを認め、先に富んだ者が後の者の富裕化を牽引・援助し、勤勉な労働、合法な経営、大胆な起業で富んだ者が人々を牽引することを、重点的に奨励しなければならない」としている。したがって、現段階を「社会主義初級段階」と認識した上で、毛沢東時代に行われた「画一的な平均主義」を排除するとともに、「一部分の人が先に富むことを認める」とし先富論に基づく経済運営を継続する指針を示していることから、毛沢東の「共同富裕」よりも鄧小平のそれに近い位置づけにあると考えられる。
第三に習近平政権が「共同富裕」を長期目標としている点である。中央財経委員会第10回会議で「共同富裕を段階的に促進しなければならない」としているのに加えて、前述した2020年10月開催の説明会で習近平国家主席は、「共同富裕は社会主義の本質的要求であり、人民大衆の共通の期待である。われわれが経済・社会の発展を図るときは結局のところ人民全体の共同富裕を実現するものである。(中略)。現在、わが国は発展不均衡・不十分の問題が依然際立ち、都市農村間、地域間の発展と所得分配の格差が比較的大きく、人民全体の共同富裕促進は長期にわたる任務である。しかし、わが国が小康社会を全面的に完成し、近代的社会主義国家を全面的に建設する新たな征途を開くのに伴い、われわれは必ず人民全体の共同富裕促進をより際立つ位置に据え、しっかりと地を踏みしめ、根気よく頑張り、この目標に向かって一段と積極的に努力しなければならない。このため提案稿は2035年までに社会主義の近代化を基本的に実現する長期目標の中で“人民全体の共同富裕でより明確な実質的進展を得る”ことを打ち出し、人民の生活の質を改善する部分で“共同富裕を着実に後押しする”ことを特に強調し、幾つかの重要な要求と重大な措置を打ち出している。このような記述は党の総会文書の中では初めてのことである」と述べている。したがって、習近平政権は「共同富裕」をすぐに実現すべき理念ではなく長期目標と考えていると見てよいだろう。
但し、前述した2020年10月開催の説明会で習近平国家主席は、「現在、わが国社会の主要矛盾はすでに人民のますます高まる生活のニーズと、不均衡・不十分な発展の間の矛盾に転換し、発展における矛盾と問題は発展の質の面に体現されている。これはすなわちわれわれが必ず発展の質の問題をより際立った位置に据え、発展の質と効率の向上に力を入れることを要求するものである」として発展の質を重視する方向性を示しており、歴代の最高指導者よりも経済成長率の高さに対する執着は小さいといえる。さらに21年1月に中央党校で行った講話9の中で習近平国家主席は、「人民大衆に共同富裕が単なるスローガンではなく、目に見え、触れることができ、実感できるものだという事実を切実に感じさせなければならない」と述べており、長期目標であるとは言え、共同富裕を着実に後押しするための施策を今すぐ具体的に打ちだし、2035年には明確な実質的進展を得ることで、一般庶民から見ても「共同富裕」が単なるスローガンではなかったと証明する必要性が生じてしまった。したがって、このまま貧富の格差が縮まらないようだと、習近平政権は「共同富裕」の実現に向けてスピードアップせざるを得なくなるかもしれない。この点には細心の注意を払わなくてはならないだろう。
以上のことから、習近平政権における「共同富裕」の位置づけは、毛沢東のそれとは一線を画しているものの、歴代の最高指導者よりも強く、前述の「共同富裕」重視度ランキングに習近平を加えると、毛沢東>習近平>胡錦涛>江沢民≧鄧小平という順番になると筆者は整理している。
なお、鄧小平を右端におくのは間違いかもしれない。時代背景が明らかに変化しているからだ。鄧小平が実権を掌握していた1990年前後の中国は、経済的な豊かさを示す一人当たりGDPが世界で下から5分の1(第5分位)という極めて貧しい国であり、経済規模を表す名目GDPは日本の8分の1に過ぎなかった。しかし、現在の一人当たりGDPは中の上(上から見て20~40%に位置する第2分位)まで豊かになり、名目GDPも日本の約3倍で世界第2位の経済大国となっている。さらに、鄧小平時代に比べて貧富の格差が大幅に拡大、環境汚染や腐敗・汚職も深刻化しているので、前述したように「実事求是」を重んじる鄧小平が現状をどう判断するか分からないからである。鄧小平が生きていればもしかすると、「先富論」の前半(一部の地域や一部の人々が先に富みを得てもよく)の時代は終わったので、後半(あとで他の地域や他の人々を助けて、徐々に共同富裕に到達することにしよう)」に軌道修正するべきだと主張していたかもしれない。したがって、習近平政権が「共同富裕」に舵を切ったことで、鄧小平の意向に反するとは断定できない面がある。むしろ、現実に基づいて物事の真理を追究する「実事求是」で「共同富裕」に舵を切ったとすれば、習近平国家主席は鄧小平の教えに最も忠実な後継者といえるのかもしれない。実際、習近平国家主席は前述した提案稿の説明の中で、「前進方向と奮闘目標をはっきりと指し示すだけでなく、事実に即して取り組むものであり、発展法則に合致したもので、必要性と可能性を共に考慮しており、これは取り組みの中で積極的かつ適切に把握し、人民全体の共同富裕促進の道を絶えず前に向かって突き進むのに有利である」と述べており、鄧小平が尊重した「実事求是」と「摸着石頭過河(踏み石を探って川を渡る)10」の考え方は習近平政権にも根付いているようだ11。したがって今後は、「共同富裕」に舵を切ったことで新たに生じる現実に基づいて物事の真理を追究し、経済発展と「共同富裕」の最適バランスへと導けるか、習近平政権の「実事求是」と「摸着石頭過河」の実践力が試されることになる。鄧小平の忠実な後継者になれるか否かはおいおい判明してくることだろう。
8 この表現は国有企業のみならず民間企業への支援がいささかも揺らいでいないことを意味する
9 21年1月11日に中央党校の「省部レベル主要指導幹部党19期5中全会精貫徹専門課題検討班」開業式で行った重要講話<
10 摸着石頭過河とは、必ず突破しなければならないことだが、確証がないものについては、しばらくは実践を重んじ、創造を重んじ、大胆に模索し、勇気をもって切り開くよう励まし、経験を得て見定めてから、再び押し開くように前進すること
11 2013年11月開催の中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議で決定された「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」でも、改革を全面的に深化させるためには、これまでの改革開放の実践が重要な経験を提供しており、「実事求是」や「摸着石頭過河」などを挙げて、中国の特色ある社会主義制度の完成・発展を推進するとしている
第三に習近平政権が「共同富裕」を長期目標としている点である。中央財経委員会第10回会議で「共同富裕を段階的に促進しなければならない」としているのに加えて、前述した2020年10月開催の説明会で習近平国家主席は、「共同富裕は社会主義の本質的要求であり、人民大衆の共通の期待である。われわれが経済・社会の発展を図るときは結局のところ人民全体の共同富裕を実現するものである。(中略)。現在、わが国は発展不均衡・不十分の問題が依然際立ち、都市農村間、地域間の発展と所得分配の格差が比較的大きく、人民全体の共同富裕促進は長期にわたる任務である。しかし、わが国が小康社会を全面的に完成し、近代的社会主義国家を全面的に建設する新たな征途を開くのに伴い、われわれは必ず人民全体の共同富裕促進をより際立つ位置に据え、しっかりと地を踏みしめ、根気よく頑張り、この目標に向かって一段と積極的に努力しなければならない。このため提案稿は2035年までに社会主義の近代化を基本的に実現する長期目標の中で“人民全体の共同富裕でより明確な実質的進展を得る”ことを打ち出し、人民の生活の質を改善する部分で“共同富裕を着実に後押しする”ことを特に強調し、幾つかの重要な要求と重大な措置を打ち出している。このような記述は党の総会文書の中では初めてのことである」と述べている。したがって、習近平政権は「共同富裕」をすぐに実現すべき理念ではなく長期目標と考えていると見てよいだろう。
但し、前述した2020年10月開催の説明会で習近平国家主席は、「現在、わが国社会の主要矛盾はすでに人民のますます高まる生活のニーズと、不均衡・不十分な発展の間の矛盾に転換し、発展における矛盾と問題は発展の質の面に体現されている。これはすなわちわれわれが必ず発展の質の問題をより際立った位置に据え、発展の質と効率の向上に力を入れることを要求するものである」として発展の質を重視する方向性を示しており、歴代の最高指導者よりも経済成長率の高さに対する執着は小さいといえる。さらに21年1月に中央党校で行った講話9の中で習近平国家主席は、「人民大衆に共同富裕が単なるスローガンではなく、目に見え、触れることができ、実感できるものだという事実を切実に感じさせなければならない」と述べており、長期目標であるとは言え、共同富裕を着実に後押しするための施策を今すぐ具体的に打ちだし、2035年には明確な実質的進展を得ることで、一般庶民から見ても「共同富裕」が単なるスローガンではなかったと証明する必要性が生じてしまった。したがって、このまま貧富の格差が縮まらないようだと、習近平政権は「共同富裕」の実現に向けてスピードアップせざるを得なくなるかもしれない。この点には細心の注意を払わなくてはならないだろう。
以上のことから、習近平政権における「共同富裕」の位置づけは、毛沢東のそれとは一線を画しているものの、歴代の最高指導者よりも強く、前述の「共同富裕」重視度ランキングに習近平を加えると、毛沢東>習近平>胡錦涛>江沢民≧鄧小平という順番になると筆者は整理している。
なお、鄧小平を右端におくのは間違いかもしれない。時代背景が明らかに変化しているからだ。鄧小平が実権を掌握していた1990年前後の中国は、経済的な豊かさを示す一人当たりGDPが世界で下から5分の1(第5分位)という極めて貧しい国であり、経済規模を表す名目GDPは日本の8分の1に過ぎなかった。しかし、現在の一人当たりGDPは中の上(上から見て20~40%に位置する第2分位)まで豊かになり、名目GDPも日本の約3倍で世界第2位の経済大国となっている。さらに、鄧小平時代に比べて貧富の格差が大幅に拡大、環境汚染や腐敗・汚職も深刻化しているので、前述したように「実事求是」を重んじる鄧小平が現状をどう判断するか分からないからである。鄧小平が生きていればもしかすると、「先富論」の前半(一部の地域や一部の人々が先に富みを得てもよく)の時代は終わったので、後半(あとで他の地域や他の人々を助けて、徐々に共同富裕に到達することにしよう)」に軌道修正するべきだと主張していたかもしれない。したがって、習近平政権が「共同富裕」に舵を切ったことで、鄧小平の意向に反するとは断定できない面がある。むしろ、現実に基づいて物事の真理を追究する「実事求是」で「共同富裕」に舵を切ったとすれば、習近平国家主席は鄧小平の教えに最も忠実な後継者といえるのかもしれない。実際、習近平国家主席は前述した提案稿の説明の中で、「前進方向と奮闘目標をはっきりと指し示すだけでなく、事実に即して取り組むものであり、発展法則に合致したもので、必要性と可能性を共に考慮しており、これは取り組みの中で積極的かつ適切に把握し、人民全体の共同富裕促進の道を絶えず前に向かって突き進むのに有利である」と述べており、鄧小平が尊重した「実事求是」と「摸着石頭過河(踏み石を探って川を渡る)10」の考え方は習近平政権にも根付いているようだ11。したがって今後は、「共同富裕」に舵を切ったことで新たに生じる現実に基づいて物事の真理を追究し、経済発展と「共同富裕」の最適バランスへと導けるか、習近平政権の「実事求是」と「摸着石頭過河」の実践力が試されることになる。鄧小平の忠実な後継者になれるか否かはおいおい判明してくることだろう。
8 この表現は国有企業のみならず民間企業への支援がいささかも揺らいでいないことを意味する
9 21年1月11日に中央党校の「省部レベル主要指導幹部党19期5中全会精貫徹専門課題検討班」開業式で行った重要講話<
10 摸着石頭過河とは、必ず突破しなければならないことだが、確証がないものについては、しばらくは実践を重んじ、創造を重んじ、大胆に模索し、勇気をもって切り開くよう励まし、経験を得て見定めてから、再び押し開くように前進すること
11 2013年11月開催の中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議で決定された「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」でも、改革を全面的に深化させるためには、これまでの改革開放の実践が重要な経験を提供しており、「実事求是」や「摸着石頭過河」などを挙げて、中国の特色ある社会主義制度の完成・発展を推進するとしている
2|「共同富裕」の実現に向けた習近平政権の具体策
前述した中央財経委員会第10回会議では、分配構造の在り方に関し「人民を中心とする発展思想を堅持し質の高い発展の中で共同富裕を促進し、効率と公平の関係を正しく処理し、第一次分配、再分配、第三次分配の協調・組み合わせの基礎的制度手配を整え、租税、社会保障、移転支出などの調節に力を入れ、的確性を高め、中所得層の比重を拡大し、低所得層の収入を増やし、高所得を合理的に調節し、違法な収入を取り締まり、中間が大きく両端が小さいオリーブ型の分配構造を形成し、社会の公平・正義を促進し、人の全面的に成長を促進し、全人民が共同富裕の目標に向かって着実にまい進するようにしなければならない」と記述してその方向性を示している。したがって、企業に労働分配率の引上げを促すなどの第一次分配、個人所得税の累進性を高めたり、試行段階にある不動産税(固定資産税に相当)の施行地域を拡大したり12、将来的には相続税(含む贈与税)の導入を検討したりするなどの再分配、さらには先に豊かになった企業家等の富豪に公益や慈善事業を奨励するなどの第三次分配と、幅広い領域に渡る分配構造改革に取り組むことになるだろう。また、「租税、社会保障、移転支出などの調整」に力を入れるとしていることから、中央政府と地方政府の税源配分の在り方や、間接税の比率が極めて高い租税構造の改革が進む可能性もあるだろう[図表-6]。
前述した中央財経委員会第10回会議では、分配構造の在り方に関し「人民を中心とする発展思想を堅持し質の高い発展の中で共同富裕を促進し、効率と公平の関係を正しく処理し、第一次分配、再分配、第三次分配の協調・組み合わせの基礎的制度手配を整え、租税、社会保障、移転支出などの調節に力を入れ、的確性を高め、中所得層の比重を拡大し、低所得層の収入を増やし、高所得を合理的に調節し、違法な収入を取り締まり、中間が大きく両端が小さいオリーブ型の分配構造を形成し、社会の公平・正義を促進し、人の全面的に成長を促進し、全人民が共同富裕の目標に向かって着実にまい進するようにしなければならない」と記述してその方向性を示している。したがって、企業に労働分配率の引上げを促すなどの第一次分配、個人所得税の累進性を高めたり、試行段階にある不動産税(固定資産税に相当)の施行地域を拡大したり12、将来的には相続税(含む贈与税)の導入を検討したりするなどの再分配、さらには先に豊かになった企業家等の富豪に公益や慈善事業を奨励するなどの第三次分配と、幅広い領域に渡る分配構造改革に取り組むことになるだろう。また、「租税、社会保障、移転支出などの調整」に力を入れるとしていることから、中央政府と地方政府の税源配分の在り方や、間接税の比率が極めて高い租税構造の改革が進む可能性もあるだろう[図表-6]。
また、華東地区中部に位置する浙江省では、全国に先駆けて「共同富裕」の実証実験が始まることとなった。中国共産党中央と国務院は2021年5月20日、「浙江の質の高い発展・共同富裕モデル区建設支援に関する意見」を決定し、6月10日に公表した[図表-7]。浙江省はアリババ集団が本社を置くだけに、通販サイト「淘宝(タオバオ)」で経済活動を活性化させた“淘宝村”の3分の1が浙江省に位置する[図表-8]。都市部・農村部の協調発展をテストするには最適な地と言えるだろう。
「共同富裕」に向けた所得格差の是正に向けた分配構造の見直しは、歴代の最高指導者が重視しつつも経済発展への打撃を恐れて尻込みしてきた難題だけに一筋縄では行きそうにない。しかし、盤石な政権基盤を築き上げた習近平政権が舵を切ったからには、浙江省の共同富裕モデル区を舞台に、経済発展への影響を見極めつつも果敢に挑戦し、「実事求是」と「摸着石頭過河」の精神で微調整を繰り返しながらも前進することになるだろう。そして、現時点ではまだおぼろげに見え始めただけに過ぎない習近平政権が目指す「共同富裕」の姿がこれからしだいに明らかになってくるだろう。
「共同富裕」に向けた所得格差の是正に向けた分配構造の見直しは、歴代の最高指導者が重視しつつも経済発展への打撃を恐れて尻込みしてきた難題だけに一筋縄では行きそうにない。しかし、盤石な政権基盤を築き上げた習近平政権が舵を切ったからには、浙江省の共同富裕モデル区を舞台に、経済発展への影響を見極めつつも果敢に挑戦し、「実事求是」と「摸着石頭過河」の精神で微調整を繰り返しながらも前進することになるだろう。そして、現時点ではまだおぼろげに見え始めただけに過ぎない習近平政権が目指す「共同富裕」の姿がこれからしだいに明らかになってくるだろう。
12 第13期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会第31回会議は10月23日、国務院に権限を授けて一部の地域で不動産税改革の実験を行うことを決定した
(2022年07月19日「ニッセイ基礎研所報」)
三尾 幸吉郎
三尾 幸吉郎のレポート
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