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- 物価高と消費者の暮らし向き-子育て世帯で徹底的に支出減、安価な製品への乗り換えも
2022年07月15日
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男女を比べると、全体的に男性を女性が上回るものが多く、特に女性では「ファッションなどの生活必需性の低い製品の買い控え」(男性16.9%、女性36.7%で男性より+19.8%pt)や「できるだけ不要なものは買わない」(男性57.4%、女性76.8%で同+19.4%pt)、「ポイントやクーポンの利用」(男性41.2%、女性56.2%で同+15.0%pt)、「食料や日用品などの生活必需品は価格の安い製品へ乗り換える」(男性31.0%、女性45.2%で同+14.2%pt)で男性を1割以上上回る。
年代別には、60歳以上で「できるだけ不要なものは買わない」や「ファッションなどの生活必需性の低い製品の買い控え」、「旅行やレジャーなどの娯楽費用を減らす」、「修理するなどして、できるだけ長く使えるものは使い続ける」が、70~74歳で「外食を減らす」や「有価証券や保険の売却・解約」が、60歳代で「貯蓄の切り崩し」が、20歳代で「特に何もしていない」が多い。なお、20~30歳代の若い年代では全体的に他年代を下回るものが多い傾向がある。
ライフステージ別に見ても、年代別に見た傾向とおおむね同様だが、加えて、第一子独立や末子独立では「ポイントやクーポンの活用」や「セールやアウトレットなど割安で購入できる手段の利用」、第一子独立では「食料や日用品などの生活必需品は価格の安い製品へ乗り換える」も多く、これらは第一子小学校入学を中心とした子育て世帯でも多い傾向がある。また、先に見た通り、シニアで多い外食やファッション、旅行・レジャーなどの必需性の低い消費の抑制については、外食は第一子誕生や第一子小学校入学で、ファッションは第一子誕生で、旅行・レジャーは第一子小学校入学といった子育て世帯で多い傾向がある。このほか、第一子高校入学以下の子育て世帯で「家計全体の見直し」が、第一子小学校入学や第一子大学入学で「新品と比べて割安で購入できる中古品の購入」が、第一子小学校入学で「自家用車など維持費のかかるものを手放す」や「製品やサービスを割安で利用できるシェアサービスの利用」、「子どもの教育費の削減」が多い。
つまり、必需性の低い消費を控え、支出を抑える工夫をする傾向は共通だが、これまでの人生で多くのモノを所有し、貯蓄が比較的多いシニア世帯では不要品の購入控えやモノを長く使うなど新しいモノの購入を控えること、貯蓄を切り崩すことなどが特徴的である。なお、前節の暮らし向きにゆとりがなくなった理由では、シニア世帯は現役世代と比べて生活費の負担増を多くあげていたが、ゆとりがなくなったことで取った行動では生活必需品の安価な製品への乗り換えは比較的少ない。これは、コロナ禍前より暮らし向きが悪化したとはいえ、現役世代のように収入が減少したり、教育費などの出費がかさむ状況にはなく、現役世代と比べれば経済的に余裕があるということなのだろう。
一方、小学生以下など比較的年齢の低い子どものいる子育て世帯では家計の見直しのほか、安価な製品への乗り換えや中古品・シェアサービスの活用、自家用車を手放す、教育費の削減など、多方面に渡って出費を徹底的に減らす行動を取る傾向が強いことが特徴的である。
なお、職業別の結果は性年代やライフステージの影響が色濃く出ていたため、省略する。
年代別には、60歳以上で「できるだけ不要なものは買わない」や「ファッションなどの生活必需性の低い製品の買い控え」、「旅行やレジャーなどの娯楽費用を減らす」、「修理するなどして、できるだけ長く使えるものは使い続ける」が、70~74歳で「外食を減らす」や「有価証券や保険の売却・解約」が、60歳代で「貯蓄の切り崩し」が、20歳代で「特に何もしていない」が多い。なお、20~30歳代の若い年代では全体的に他年代を下回るものが多い傾向がある。
ライフステージ別に見ても、年代別に見た傾向とおおむね同様だが、加えて、第一子独立や末子独立では「ポイントやクーポンの活用」や「セールやアウトレットなど割安で購入できる手段の利用」、第一子独立では「食料や日用品などの生活必需品は価格の安い製品へ乗り換える」も多く、これらは第一子小学校入学を中心とした子育て世帯でも多い傾向がある。また、先に見た通り、シニアで多い外食やファッション、旅行・レジャーなどの必需性の低い消費の抑制については、外食は第一子誕生や第一子小学校入学で、ファッションは第一子誕生で、旅行・レジャーは第一子小学校入学といった子育て世帯で多い傾向がある。このほか、第一子高校入学以下の子育て世帯で「家計全体の見直し」が、第一子小学校入学や第一子大学入学で「新品と比べて割安で購入できる中古品の購入」が、第一子小学校入学で「自家用車など維持費のかかるものを手放す」や「製品やサービスを割安で利用できるシェアサービスの利用」、「子どもの教育費の削減」が多い。
つまり、必需性の低い消費を控え、支出を抑える工夫をする傾向は共通だが、これまでの人生で多くのモノを所有し、貯蓄が比較的多いシニア世帯では不要品の購入控えやモノを長く使うなど新しいモノの購入を控えること、貯蓄を切り崩すことなどが特徴的である。なお、前節の暮らし向きにゆとりがなくなった理由では、シニア世帯は現役世代と比べて生活費の負担増を多くあげていたが、ゆとりがなくなったことで取った行動では生活必需品の安価な製品への乗り換えは比較的少ない。これは、コロナ禍前より暮らし向きが悪化したとはいえ、現役世代のように収入が減少したり、教育費などの出費がかさむ状況にはなく、現役世代と比べれば経済的に余裕があるということなのだろう。
一方、小学生以下など比較的年齢の低い子どものいる子育て世帯では家計の見直しのほか、安価な製品への乗り換えや中古品・シェアサービスの活用、自家用車を手放す、教育費の削減など、多方面に渡って出費を徹底的に減らす行動を取る傾向が強いことが特徴的である。
なお、職業別の結果は性年代やライフステージの影響が色濃く出ていたため、省略する。
3|個人年収や世帯年収別の状況~現役世代の多い年収帯は家計の見直しや支出減
個人年収や世帯年収別に見ても、いずれも「できるだけ不要なものは買わない」や「ポイントやクーポンの利用」が上位を占めるが、個人年収600~800万円未満では「家計全体の見直し」が2位を占める(図表12)。なお、前述の通り、個人年収600~800万円未満では子育て世帯が多い。
また、個人年収別には、60歳以上の多い200万円未満では不要品やファッションなど必需性の低い製品の買い控えが多いなどシニア世帯の特徴があらわれており、子育て世帯の多い600万円前後では家計の見直しや中古品、シェアサービスの利用が多いなど、これまでに見た特徴があらわれている。
世帯年収別にも、子育て世帯の多い600~800万円未満では家計の見直しや生活必需品の安価な製品への乗り換え、外食控えなどこれまでに見た特徴があらわれている。なお、世帯年収1,000万円以上ではファッションや旅行・レジャー控え、シェアサービスやセール・アウトレットの活用が多い一方、生活必需品の安価な製品への乗り換えが約2割と低い。高収入世帯ではコロナ禍前より暮らし向きが悪化したとはいえ、従来から必需性の低い消費が多いために、まずはそれらを控えたり、価格を抑えられる手段を活用することによって、必需性の高い消費まで見直す必要はさほどない、という様子が読み取れる。なお、高収入世帯ほどシェアサービスの利用が多い傾向があることは興味深いが、サンプル数の制限によって統計的な解釈は難しい。ただし、既出レポート4で見た通り、年収1,000万円程度の高収入男性ではコストパフォーマンスを重視することから、シェアサービスの利用意向が強い傾向があるため、高収入世帯では合理的な判断のもとでシェアサービスを利用するということもあるのかもしれない。
個人年収や世帯年収別に見ても、いずれも「できるだけ不要なものは買わない」や「ポイントやクーポンの利用」が上位を占めるが、個人年収600~800万円未満では「家計全体の見直し」が2位を占める(図表12)。なお、前述の通り、個人年収600~800万円未満では子育て世帯が多い。
また、個人年収別には、60歳以上の多い200万円未満では不要品やファッションなど必需性の低い製品の買い控えが多いなどシニア世帯の特徴があらわれており、子育て世帯の多い600万円前後では家計の見直しや中古品、シェアサービスの利用が多いなど、これまでに見た特徴があらわれている。
世帯年収別にも、子育て世帯の多い600~800万円未満では家計の見直しや生活必需品の安価な製品への乗り換え、外食控えなどこれまでに見た特徴があらわれている。なお、世帯年収1,000万円以上ではファッションや旅行・レジャー控え、シェアサービスやセール・アウトレットの活用が多い一方、生活必需品の安価な製品への乗り換えが約2割と低い。高収入世帯ではコロナ禍前より暮らし向きが悪化したとはいえ、従来から必需性の低い消費が多いために、まずはそれらを控えたり、価格を抑えられる手段を活用することによって、必需性の高い消費まで見直す必要はさほどない、という様子が読み取れる。なお、高収入世帯ほどシェアサービスの利用が多い傾向があることは興味深いが、サンプル数の制限によって統計的な解釈は難しい。ただし、既出レポート4で見た通り、年収1,000万円程度の高収入男性ではコストパフォーマンスを重視することから、シェアサービスの利用意向が強い傾向があるため、高収入世帯では合理的な判断のもとでシェアサービスを利用するということもあるのかもしれない。
4 久我尚子「シェアリング志向が強いのは誰?」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2018/6/25)
5――おわりに~5月の個人消費はコロナ禍前の水準に戻らず、家計支援策と消費刺激策両面の必要性
本稿で見た通り、ニッセイ基礎研究所の調査では、年収などの属性によらず、コロナ禍前と比べて暮らし向きは悪化しており、先行きに不透明さを感じる消費者の存在もうかがえた。また、足元で物価高が続く中、暮らし向きにゆとりがなくなった理由には、やはり圧倒的に生活必需品や光熱費等の値上がりがあった。一方で生活費の値上がりによる負担感は年金生活のシニアで強いものの、生活必需品の安価な製品への乗り換えは、子育て世帯で多く見られた。暮らし向きが悪化した子育て世帯では生活費の負担増に加えてコロナ禍で世帯収入が減少したことで、多方面に渡って徹底的に支出を抑える傾向が強くあらわれていた。
今後1年程度は食料を中心に物価高が続くことが見込まれる中、収入が改善されないならば、経済状況の厳しい世帯では必需性の低い消費を一層、強く抑制するほか、教育費の削減や自家用車を手放すなど、必需性の高い(と見られる)消費も抑制せざるを得ない。
昨年の衆院選とは異なり、先日の参院選では個人に対する給付金を公約に掲げる政党は少なく、教育無償化や消費税率の引き下げなどが目立った。2020年の国民一律10万円の特別定額給付金や、所得制限はあったが子育て世帯の約8割に支給された子ども1人あたり10万円の臨時特別給付金は、その必要性や方法に対して議論が分かれた。特別定額給付金の家計消費への影響を分析した論文5によると、主に効果が見られたのは約1割を占める流動性制約に直面した世帯(貯蓄がなく、金融機関から借り入れを断られるような世帯)であり、「消費刺激策をするのであれば一律給付は正当化できない」とされている。感染状況下で消費行動に制限があった影響もあるのだろうが、一律給付は消費刺激策になりにくく、生活困窮世帯の救済策にとどまるのであれば、給付対象を限定し、手厚く継続的に実施していくことが効果的だ。
一方で、当調査で見た通り、消費者の約2割は物価高の中でも暮らし向きにゆとりがあると回答しており、消費者の間に温度差が生じている。
今後1年程度は食料を中心に物価高が続くことが見込まれる中、収入が改善されないならば、経済状況の厳しい世帯では必需性の低い消費を一層、強く抑制するほか、教育費の削減や自家用車を手放すなど、必需性の高い(と見られる)消費も抑制せざるを得ない。
昨年の衆院選とは異なり、先日の参院選では個人に対する給付金を公約に掲げる政党は少なく、教育無償化や消費税率の引き下げなどが目立った。2020年の国民一律10万円の特別定額給付金や、所得制限はあったが子育て世帯の約8割に支給された子ども1人あたり10万円の臨時特別給付金は、その必要性や方法に対して議論が分かれた。特別定額給付金の家計消費への影響を分析した論文5によると、主に効果が見られたのは約1割を占める流動性制約に直面した世帯(貯蓄がなく、金融機関から借り入れを断られるような世帯)であり、「消費刺激策をするのであれば一律給付は正当化できない」とされている。感染状況下で消費行動に制限があった影響もあるのだろうが、一律給付は消費刺激策になりにくく、生活困窮世帯の救済策にとどまるのであれば、給付対象を限定し、手厚く継続的に実施していくことが効果的だ。
一方で、当調査で見た通り、消費者の約2割は物価高の中でも暮らし向きにゆとりがあると回答しており、消費者の間に温度差が生じている。

暮らし向きが悪化した世帯の家計を支援するとともに、足元で再び感染状況が悪化傾向にある懸念があり、時期を見る必要はあるが、あわせて消費刺激策を講じていくことが求められる。
次稿では暮らし向きにゆとりがある消費者層について、その理由やそれによって取った行動などの状況を捉えることで、日本の消費者の全体像を捉えていきたい。
5 宇南山卓ら「コロナ禍における現金給付の家計消費への影響」、RIETI Discussion Paper Series、2021年4月
(2022年07月15日「基礎研レポート」)
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経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/22 | 家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年2月)-物価高の中で模索される生活防衛と暮らしの充足 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2025/04/14 | 「トキ消費」の広がりとこれから-体験が進化、共有が自然な消費スタイル、10年後は? | 久我 尚子 | 研究員の眼 |
2025/04/08 | 2025年の消費動向-節約一服、コスパ消費から推し活・こだわり消費の広がり | 久我 尚子 | 基礎研マンスリー |
2025/04/01 | 「こづかい」が20年で7割減少?-経済不安、キャッシュレスやサブスクなど消費のデジタル化の影響も | 久我 尚子 | 基礎研レター |
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【物価高と消費者の暮らし向き-子育て世帯で徹底的に支出減、安価な製品への乗り換えも】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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