2022年07月15日

物価高と消費者の暮らし向き-子育て世帯で徹底的に支出減、安価な製品への乗り換えも

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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3――暮らし向きにゆとりがなくなった理由~シニアを中心に生活費負担増、現役世代では収入減も

1|全体の状況~生活必需品や光熱費、ガソリン代の値上がりが圧倒的で6割強、コロナ禍による収入減も
コロナ禍前と比べて暮らし向きのゆとりがなくなった回答者に対して、その理由をたずねたところ、20~74歳全体では「食料や日用品などの生活必需品の値上がり」(64.7%)と「光熱費やガソリン代の値上がり」(64.2%)が並んで圧倒的に多く、6割を超える(図表6)。冒頭で述べた通り、生活必需品をはじめとした物価高で家計の負担が増す中、消費者の意識においても強い負担感がある様子が見て取れる。

また、次いで「コロナ禍で自分の給与や事業収入などが減った」(34.2%)、「コロナ禍とは無関係に自分の給与や事業収入などが減った」(19.1%)、「コロナ禍で家族の給与や事業収入などが減った」(17.3%)が約2割で続き、コロナ禍による経済状況の悪化を理由とするものも目立つ。
図表6 コロナ禍前より暮らし向きのゆとりがなくなった理由(複数選択、20~74歳)
2性年代やライフステージ別の状況~シニアは生活費負担増、子育て世帯は収入減や教育費負担増
性年代やライフステージ別に見ても、いずれも生活必需品や光熱費、ガソリン代の値上がりが圧倒的に多い(図表7)。

男女を比べると、男性では「コロナ禍で自分の給与や事業収入などが減った」(男性43.2%、女性26.2%で男性より▲17.0%pt)や「株式や債券などの金融資産の価値が下がった」(男性10.2%、女性4.6%で同▲5.6%pt)が多く、女性では「食料や日用品などの生活必需品の値上がり」(男性55.7%、女性72.8%で同+17.2%pt)や「光熱費やガソリン代の値上がり」(男性59.6%、女性68.3%で同+8.6%pt)が多い。つまり、男性では自身の収入や金融資産への悪影響が、女性では生活費の負担増といった理由が多い傾向がある。

年代別には、高年齢層ほど生活必需品や光熱費、ガソリン代の値上がりが多く、60歳以上では7割を超える。また、高年齢層ほど「医療費や看護・介護のための支出が増えた」や「金融資産の利子や配当などの収入が減った」、「株式や債券などの金融資産の価値が下がった」が多い。一方、50歳代を中心に「コロナ禍で自分の給与や事業収入などが減った」が、30・40歳代を中心に「コロナ禍で家族の給与や事業収入などが減った」や「子どもの教育費支出が増えた」が多い。また、30歳代では「扶養家族が増えた」も他年代より多い。

ライフステージ別には、第一子小学校入学や第一子独立以上で生活必需品の値上がりが、第一子独立以降で「光熱費やガソリン代の値上がり」、「医療費や看護・介護のための支出が増えた」が、未婚・独身で「コロナ禍で自分の給与や事業収入などが減った」が、第一子独立で「コロナ禍とは無関係に自分の給与や事業収入などが減った」が、第一子誕生から第一子大学入学の子育て世帯で「コロナ禍で家族の給与や事業収入などが減った」や「子どもの教育費支出が増えた」が、結婚で「コロナ禍とは無関係に家族の給与や事業収入などが減った」が、第一子小学校入学で「不動産の購入や耐久消費財の買い替えなどをした」が、第一子誕生や第一子小学校入学で「扶養家族が増えた」が多い。

つまり、シニア世帯では生活費や医療費等の負担の増加、金融資産への悪影響が、子育て世帯などの現役世帯では世帯収入の減少や教育費負担の増加といった理由が多い傾向がある。
図表7 性年代やライフステージ別に見たコロナ禍前より暮らし向きのゆとりがなくなった理由(複数選択)
3職業別の状況~自営業や正規雇用者は収入減、専業主婦や無職は生活費負担増
職業別に見ても、いずれも生活必需品や光熱費、ガソリン代の値上がりが上位を占めるが、「コロナ禍で自分の給与や事業収入などが減った」が自営業・自由業(79.1%)で首位、正社員・正職員(管理職)(51.2%)で2位を占める(図表8)。自身の収入減少は男性でも比較的多かったが、男性の割合(コロナ禍前と比べて暮らし向きのゆとりがなくなった回答者全体で47.2%)は自営業・自由業(73.3%)や正社員・正職員(管理職)(90.2%)で多い。

また、全体と比べて、専業主婦・主婦や無職、嘱託・契約社員で生活費の値上がりが、自営業・自由業や正社員・正職員(管理職、一般)で「コロナ禍で自分の給与や事業収入などが減った」が、自営業・自由業や正社員・正職員(管理職)で「コロナ禍とは無関係に自分の給与や事業収入などが減った」が、パート・アルバイトや専業主婦・主夫で「コロナ禍で家族の給与や事業収入などが減った」が、無職や専業主婦・主夫で「医療費や看護・介護のための支出が増えた」が、専業主婦・主夫で「コロナ禍とは無関係に家族の給与や事業収入などが減った」が、嘱託・契約社員や無職で「金融資産の利子や配当などの収入が減った」が多い。なお、60歳以上の割合(同様に全30.2%)は嘱託・契約社員(68.8%)や無職(57.2%)、専業主婦・主夫(43.6%)で全体と比べて多い。

つまり、自営業や正規雇用者ではコロナ禍などによる収入減少が、専業主婦や高年齢層の多い無職や嘱託社員などでは生活費の負担増といった理由が多い傾向があり、性年代別の傾向と一致する。
図表8 職業別に見たコロナ禍前より暮らし向きのゆとりがなくなった理由(複数選択)
4個人年収や世帯年収別の状況~現役世代の多い年収帯は収入減、シニアが多いと生活費負担増など
個人年収や世帯年収別に見ても、いずれも生活必需品や光熱費、ガソリン代の値上がりが上位を占めるが、「コロナ禍で自分の給与や事業収入などが減った」が個人年収600~800万円未満や世帯年収800~1,000万円未満で2位を占める(図表8)。なお、これらの層は男性や正規雇用者、ライフステージでは第一子誕生以降の子育て世帯や正規雇用者が多い傾向があり(データの詳細は省略)、これまでの傾向と一致する。

また、個人年収200万円未満では生活必需品の値上がりが、400万円以上ではコロナ禍による自身の収入減少が、600万円以上では金融資産への悪影響が多い。なお、個人年収200万円未満では60歳以上や専業主婦、無職、パート・アルバイトなどが、400万円以上では現役世代や正規雇用者が多く(データの詳細は省略)、同様にこれまでの傾向と一致する。

世帯年収200万円未満や800~1,000万円未満ではコロナ禍による自身の収入減少が、200万円未満ではコロナ禍によらず自身の収入減少や医療・介護費の支出増が、800~1,000万円未満ではコロナ禍による家族の収入減少や利子・配当収入の減少が、1,000万円以上では光熱費やガソリン代の値上がりや金融資産や不動産価値の低下が、600~800万円未満では扶養家族の増加が多いといった特徴があるが、世帯年収200万円未満では60歳以上が多いなど、やはりこれまでの傾向と一致している。
図表9 個人年収や世帯年収別に見たコロナ禍前より暮らし向きのゆとりがなくなった理由(複数選択)

4――ゆとりがなくなって取った行動

4――ゆとりがなくなって取った行動~シニアは購入控えや貯蓄切り崩し、子育て世帯は徹底的に支出減

1全体の状況~必需性の低い消費を控え、ポイント活用や安価な製品への乗り換えなど支出抑制の工夫
コロナ禍前と比べて暮らし向きのゆとりがなくなったことで取った行動についてたずねたところ、20~74歳全体で最多は「できるだけ不要なものは買わない」(67.6%)であり、次いで、「ポイントやクーポンの活用」(49.1%)、「食料や日用品などの生活必需品は価格の安い製品へ乗り換える」(38.5%)、「家計全体の見直し」(36.0%)、「外食を減らす」(35.8%)、「ファッションなどの生活必需性の低い製品の買い控え」(27.3%)、「旅行やレジャーなどの娯楽費用を減らす」(26.6%)と約3割で続く(図表10)。つまり、暮らし向きのゆとりがなくなると、必需性の低い消費を控えるとともに、出費が必要な場合はポイントの活用や安価な製品への乗り換えなど支出を抑える工夫をする消費者が多い様子が読み取れる。
図表10 コロナ禍前より暮らし向きのゆとりがなくなったことで取った行動(複数選択、20~74歳)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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