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高齢者の生活ニーズのランキング首位は移動サービス(道府県都・政令市編)~市町村の「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」「在宅介護実態調査」集計結果より~
生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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3――要介護高齢者の生活ニーズランキング
2で述べたニーズ調査と同様に、市町村は、介護保険事業計画作成にあたり、要介護認定者を主な対象に「在宅介護実態調査」を実施している。第8期介護保険事業計画用の在宅介護実態調査は、目的に「高齢者の適切な在宅生活の継続」と「家族等介護者の就労継続」という二本柱が据えられている9。市町村は、これらの調査を通じて、地域の目標を設定し、必要となるサービスの提供体制の構築方針を立て、妥当なサービス見込み量を推定し、その確保策を示し、介護保険事業計画につなげていくことが求められている10。
在宅介護実態調査についても、厚生労働省が市町村に調査票を例示している。移動手段に関する設問としては、必須項目ではないものの、オプション項目として「今後の在宅生活の継続のために必要と感じる支援・サービス」という設問があり、その選択肢に「外出同行(通院、買い物など)」と「移送サービス(介護・福祉タクシー等)」が含まれている。この設問を設けている市町村は多いため、要介護者等に対する移動支援の必要性については、全国的な集計結果を基に判断することができる。
9 厚生労働省 (2019)「第8期介護保険事業計画作成に向けた各種調査等に関する説明会」配布資料。
10 同上
(1)全国集計の結果
「在宅介護実態調査」については、厚生労働省が、全国の調査結果を集計、公表しているため、その中から「今後の在宅生活の継続のために必要と感じる支援・サービス(複数選択)」の結果を紹介する。
まず、全国の集計結果が図表2である。回答率のトップは「移送サービス(介護・福祉タクシー等)」で21.1%、2位は「外出同行(通院、買い物等)」で19%だった。移動に関わる両項目が1位と2位を占めており、要介護の高齢者らが地域で暮らし続けていく上で、移動支援が突出して大きな難題になっていることが分かった。同じく、移動に関わる「買い物(宅配以外)」も6位の10.7%だった。
ただし、都市部と地方、大都市と郡部では、公共交通の整備状況や、主な外出先と考えられる医療機関や食料品店などの数や配置も異なる。そこで、次に市町村規模別の集計結果を確認すると、人口5万人未満(図表3)、人口5万人以上10万人未満(図表4)、人口10万人以上30万人未満(図表5)、人口30万人以上(図表6)のいずれにおいても、トップが「移送サービス(介護・福祉タクシー等)」、2位は「外出同行(通院、買い物等)」という上位2位の順序は変わらなかった。さらに、「買い物(宅配以外)」についても、いずれの人口規模でも6位だった。つまり、いずれの人口規模の市町村においても、要介護の高齢者らにとっては、移動が最大の難題であることが分かった。
2で見てきた、一般の高齢者を対象とした介護予防・日常生活圏域ニーズ調査の集計結果と比較すると、要介護高齢者の場合は、在宅生活継続のために、公共交通などの移動手段が最大の課題であることは共通しているが、それに加えて、乗り物への乗降や、外出先での歩行や行動を介助する「外出同行」の順位が高いことが分かった。
これまでは、高齢者の移動困難は、公共交通が衰退した地方の問題として捉えられがちであった。しかし、(1)の結果は、人口規模に関係なく、いずれの地域にとって移動が最大の課題となっていることを示している。身体機能の低下した要介護の高齢者にとっては、駅やバス停が近くにあっても、様々な気象条件のもとで乗降したり、買い物袋などの荷物を持ち運んだりすることが難しいためだと考えられる。また、認知症によって、付き添いが必要になる場合もある。公共交通が充実した都市部の市町村も、このような高齢者の特性を認識して、高齢者が気軽に利用できる移動サービス提供に努める必要があるだろう。
4――終わりに
日々の買い物から通院、お出掛けまで、高齢者の日常生活の多くに、送迎の問題が付きまとう。これらの調査結果は、移動手段の整備・確保が、高齢者の在宅での生活を支え、地域の持続可能性を維持するために喫緊の課題である事実を、改めて突きつけている。移動手段や付き添いがネックとなって高齢者が外出を控えると、健康状態の悪化につながる。あるいは、自身や配偶者がマイカー運転を続けざるを得なくなり、交通事故のリスクを地域で抱えることになる。まさに、移動は、高齢者の「在宅限界点」を上げるための鍵だと言える。
移動サービスは、市町村の組織の中では、介護保険の担当だけではなく、公共交通担当と連携して整備していく必要があり、解決するには、庁内に横ぐしを通して取り組まなければならない11。市町村のリーダーには、まずこの移動課題の優先度を認識してもらい、組織横断的な取組を強化してほしい。また国も、市町村が様々な移動サービスを導入しやすいように、法制度の運用などについて検討する必要があるだろう。
加えて、産業界にも積極的な取組を期待したい。従来の公共交通の担い手であった鉄道事業者やバス事業者だけでは、もはや住民に必要な移動サービスを提供することは難しい。業種の垣根をまたいで、多くの企業が直接的、間接的に高齢者の移動に関与することで、移動サービスの収益性や地域の持続可能性を向上することができ、地域貢献にもつながる。それによって高齢者の外出が増えれば、介護予防に寄与することができる12。
特に近年では、交通分野でもデジタル化が進捗し始めたことにより、移動サービスと他のサービスを連携させやすい状況が生まれてきている。技術的には、異業種から移動サービスに関与するハードルは下がっていると言える。
高齢ドライバーによる事故を防ぎ、高齢者が地域で安心して暮らし続けることができるように、まずは官民が移動課題の優先度と重要度を認識し、さらに業界の垣根をまたいだ重層的な取組が行われることを望むところである。
11 坊美生子(2021)「高齢者の移動支援に何が必要か(上)~生活者目線のニーズ把握と、交通・福祉の連携を~」(基礎研レポート)
12 坊美生子(2022)「コロナ禍で低下した高齢者の外出頻度~『第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査』より」(基礎研レポート)
(2022年06月28日「基礎研レポート」)
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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