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- ECB政策理事会(臨時)-PEPP再投資を柔軟化、新しい手段も検討
2022年06月16日
1.結果の概要:PEPPの償還再投資の柔軟性活用を決定
6月15日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・PEPPのポートフォリオから発生する償還再投資に柔軟性を適用する
・関連部署に理事会による検討のための新しい分断化防止手段の設計を加速させるよう指示した
2.金融政策の評価:新しい手段の検討も明示
ECBは15日に臨時の会合を開催し、市場環境に関する意見交換を実施した。
定例の理事会がその前週の9日に開催されており、そこから1週間経過しないうちに臨時会合を実施したことになる。
理事会では、まずPEPP(パンデミック緊急資産購入プログラム)の償還再投資に柔軟性を適用ことが決定された。これは従来から必要があれば柔軟性を利用するとして、声明文や記者会見で言及されていたことであるが、今回、改めて声明として示された。
PEPPの柔軟性は、当初コロナ禍という有事に対処するための金融政策手段であることを前提に設計されているため、理事会では「コロナ禍の影響が残っている」との評価をした上で、柔軟性を使うことが決定されたものと見られる。
これにより、PEPPについては償還再投資の際、例えば(低金利の)ドイツ国債の償還資金で(金利上昇が目立つ)イタリア国債を購入するなど、ポートフォリオの地域構成を積極的に変えることで、金利上昇圧力を減らすことを狙っていると見られる。
また、理事会は合わせて「新しい分断化防止手段」の設計を加速させる指示も決定した。今回の会合では「新しい手段」の具体的な内容については、公表・決定されなかったが、次回7月の理事会では11年ぶりの利上げが「予告」されてため、そこで公表される可能性がある。
「新しい手段」としては、例えば、償還再投資より積極的にポートフォリオの構成を変えること(例えば、ECBが保有しているドイツ国債を(償還を待つのではなく)売却してイタリア国債を購入する)やECBの保有する資産を拡大しつつ利上げを行うこと(例えば、償還が近い国債について償還を待たずに再投資を先行して実施し一時的な保有資産の増額を許容する、あるいは(償還に関係なく)資産購入を行いつつ利上げを実施する)などが考えられるだろう。
なお、この新しい分断化防止手段については、PEPPのように有事の一時的な手段として導入されるのか、そうではなく、(半)恒久的な手段として導入されるのかも注目点と言える。
ユーロ圏では、コロナ禍の経済への悪影響は解消されつつあり、南欧諸国の金利上昇圧力は、(コロナ禍で悪化したにせよ)より構造的な財政懸念などから生じている可能性がある。今後、「分断化」はコロナ禍以外の要因でも発生しうることも想定すると、「新しい手段」はコロナ禍と切り離したものとして導入される可能性がある。
一方、既存のECBの資産購入策であるOMT(国債買切りプログラム)やPSPP(公的部門購入プログラム)に関して、ドイツで訴訟が起きた経緯がある。これらの政策がEU条約の「比例性原則」(EU機関の行動を実現するための手段の行使は目的の実現に必要な限度を超えてはならない1)を満たしているかを問うものだった。いずれの政策も廃止されることはなかったが2、少なくとも資産購入に関連した手段として、あまりに自由度の高いものは採用できない。
今後のECBの検討状況が注目される。
1 田中素香「ドイツ憲法裁判所のQE(量的緩和策)違憲判決:ECBとEU存立の基本問題に」2020.06.01(22年6月16日アクセス)
2 例えば、鎌倉治子(2021)「欧州中央銀行の国債買入れ策の動向と課題」(22年6月16日アクセス)
定例の理事会がその前週の9日に開催されており、そこから1週間経過しないうちに臨時会合を実施したことになる。
理事会では、まずPEPP(パンデミック緊急資産購入プログラム)の償還再投資に柔軟性を適用ことが決定された。これは従来から必要があれば柔軟性を利用するとして、声明文や記者会見で言及されていたことであるが、今回、改めて声明として示された。
PEPPの柔軟性は、当初コロナ禍という有事に対処するための金融政策手段であることを前提に設計されているため、理事会では「コロナ禍の影響が残っている」との評価をした上で、柔軟性を使うことが決定されたものと見られる。
これにより、PEPPについては償還再投資の際、例えば(低金利の)ドイツ国債の償還資金で(金利上昇が目立つ)イタリア国債を購入するなど、ポートフォリオの地域構成を積極的に変えることで、金利上昇圧力を減らすことを狙っていると見られる。
また、理事会は合わせて「新しい分断化防止手段」の設計を加速させる指示も決定した。今回の会合では「新しい手段」の具体的な内容については、公表・決定されなかったが、次回7月の理事会では11年ぶりの利上げが「予告」されてため、そこで公表される可能性がある。
「新しい手段」としては、例えば、償還再投資より積極的にポートフォリオの構成を変えること(例えば、ECBが保有しているドイツ国債を(償還を待つのではなく)売却してイタリア国債を購入する)やECBの保有する資産を拡大しつつ利上げを行うこと(例えば、償還が近い国債について償還を待たずに再投資を先行して実施し一時的な保有資産の増額を許容する、あるいは(償還に関係なく)資産購入を行いつつ利上げを実施する)などが考えられるだろう。
なお、この新しい分断化防止手段については、PEPPのように有事の一時的な手段として導入されるのか、そうではなく、(半)恒久的な手段として導入されるのかも注目点と言える。
ユーロ圏では、コロナ禍の経済への悪影響は解消されつつあり、南欧諸国の金利上昇圧力は、(コロナ禍で悪化したにせよ)より構造的な財政懸念などから生じている可能性がある。今後、「分断化」はコロナ禍以外の要因でも発生しうることも想定すると、「新しい手段」はコロナ禍と切り離したものとして導入される可能性がある。
一方、既存のECBの資産購入策であるOMT(国債買切りプログラム)やPSPP(公的部門購入プログラム)に関して、ドイツで訴訟が起きた経緯がある。これらの政策がEU条約の「比例性原則」(EU機関の行動を実現するための手段の行使は目的の実現に必要な限度を超えてはならない1)を満たしているかを問うものだった。いずれの政策も廃止されることはなかったが2、少なくとも資産購入に関連した手段として、あまりに自由度の高いものは採用できない。
今後のECBの検討状況が注目される。
1 田中素香「ドイツ憲法裁判所のQE(量的緩和策)違憲判決:ECBとEU存立の基本問題に」2020.06.01(22年6月16日アクセス)
2 例えば、鎌倉治子(2021)「欧州中央銀行の国債買入れ策の動向と課題」(22年6月16日アクセス)
3.声明の概要(金融政策の方針)
6月15日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
- 本日、現在の市場環境に関する意見交換をするために、理事会を開催した
- 段階的な政策の正常化が21年12月に開始されて以降、理事会は分断化リスクの再発に対して行動すると約束してきた
- コロナ禍は、ユーロ圏経済に地域間で金融政策の正常化の不均一な伝達をもたらす、永続的な脆弱性を残している
- この評価に基づいて、理事会は、ECBが物価安定の責務を果たすという原則(precondition)のもと、金融政策の伝達機能を維持するために、PEPPのポートフォリオから発生する償還再投資に柔軟性を適用することを決定した
- 加えて、理事会は関連するユーロシステムの委員会(Eurosystem Committees)およびECBの部局(ECB services)に対して、理事会による検討のための新しい分断化防止手段(anti-fragmentation instrument)の設計を加速させるよう指示した(mandate)
(2022年06月16日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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