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- ECB政策理事会-量的緩和は終了、声明に利上げの道筋も明記
1.結果の概要:量的緩和は終了、声明文に今後の利上げを明示
【金融政策決定内容】
・APPの7月1日での純資産購入の終了を決定(従来は7-9月期に購入終了予定としていた)
・利上げのフォワードガイダンスが満たされていることを確認
・7月理事会での0.25%ポイント利上げについて記載
・9月理事会でのさらなる0.25%ポイント以上の利上げについて記載(中期的なインフレ見通しが持続・悪化した場合は、大幅な利上げが適切と補足)
・9月より先の、段階的かつ持続的な利上げについて記載
・理事会は金融政策の実行に際して選択肢(optionality)、データ依存(data-dependence)、漸進主義(gradualism)、柔軟性(flexibility)を維持する(データ依存を追加)
【記者会見での発言(趣旨)】
・スタッフ見通しでは、GDP成長率を22年2.8%、23年2.1%、24年2.1%と予想
・インフレ率を22年6.8%、23年3.5%、24年2.1%と予想
2.金融政策の評価:利上げへの下地を整備
APPについてはこれまで、7-9月期に終了予定としていたが、7-9月期の中で最も早い7月1日の終了となった。
また、利上げのフォワードガイダンスが満たされたとの判断を示し、APP終了後の7月以降の利上げについても声明文に具体的な形で明示している。具体的には、「7月の0.25%ポイント」の利上げ、「9月の0.25%ポイント以上」の利上げ、「それ以降の段階的かつ持続的な」利上げである。特に、9月の利上げ幅については、中期的なインフレ見通しが持続か悪化した場合はより大幅な利上げが適切であることにも言及されており、9月の0.50%ポイントの利上げも想定内であるようだ。
こうした状況を受けて、質疑応答では利上げに関する質問や、また事前に南欧金利の急上昇(いわゆる「分断化(fragmentation)」)を防ぐ手段の導入が検討されているとの報道が見られたことから分断化に関する質問が多くみられた。
ラガルド総裁は、現在のスタッフ見通しにおけるインフレ率(24年の2.1%)でも9月に0.50%ポイントの利上げが正当化されること、中立金利については現時点で具体的な想定を置いていないこと、3つの政策金利(預金ファシリティ金利、主要リファイナンスオペ金利、限界貸出ファシリティ金利)のすべての引き上げを予定しているが、その幅(スプレッド、コリドー)については、今後の検討事項であると回答している。
また、分断化に対応するための手段としては、既存のPEPPの再投資による柔軟性に言及しつつ、新しい手段も必要があれば導入するとしたが、具体的な検討事項などには踏み込まなかった。
ECBは、今回の決定で利上げへの下地を整備したと言える。
今後、7月および9月の理事会は、今回声明文に提示されたように利上げを着実に進める段階となる。ユーロ圏では11年ぶりの利上げであり、市場の反応(とりわけ「分断化」)や、実体経済に利上げがどのように波及するか、また、それらをECBがどのように評価するのかが注目される。
3.声明の概要(金融政策の方針)
- 高インフレは我々全員の主要課題である
- 理事会は中期的にインフレ率を2%に戻すことを確認する
- 5月のインフレ率は、戦争の影響などを受けて、エネルギーと食料品価格が主導し、再び急激に上昇した
- しかしながら、インフレ圧力は拡大し、また強まっており、多くの財・サービスが強い伸び率となっている
- ユーロシステムのスタッフはベースラインのインフレ見通しを大幅に上方修正した
- これらの見通しは、インフレ率がしばらくの間好ましくない高い伸び率に維持されることを示している
- しかしながら、エネルギー価格が緩やかになり、コロナ禍に関連した供給網の混乱が解消し、金融政策の正常化が進めば、インフレ率は低下してくと見られる
- 新しいスタッフ見通しは3月の見通しよりも高く、22年6.8%となった後、23年3.5%、24年2.1%と低下する
- これは、ヘッドラインインフレ率が見通し期間の終わりまで理事会の目標をやや上回ることを意味している
- エネルギーと食料品を除くインフレ率もまた3月の見通しよりも高く、22年平均で3.3%、23年2.8%、24年2.3%である
- ロシアの不正なウクライナ侵攻は引き続き欧州やそれ以外の経済の重しとなっている
- 貿易は混乱し、原材料不足をもたらし、資源・商品価格の高騰を招いている
- これらの要因は、特に短期的に見て、引き続き景況感の重しとなり、成長を抑制する
- しかしながら、経済は、経済再開、堅調な労働市場、財政支援策とコロナ禍期間中に積みあがった貯蓄の恩恵を受けて、引き続き成長が続くという環境にある
- 現在の逆風が軽減すれば、経済活動は再び上向くだろう
- この見通しは、広くユーロシステムのスタッフ見通しに反映されており、GDP成長率は22年2.8%、23年2.1%、24年2.1%と予想している
- 3月の見通しと比較すると、22年と23年の成長率を大幅に引き下げたが、24年は上方修正した
- 最新の評価に基づいて、理事会は金融政策の正常化へのさらなる段階に進むことを決定した
- この過程全体で、理事会は、金融政策の実施に関する選択肢(optionality)、データ依存(data-dependence)、漸進主義(gradualism)、柔軟性(flexibility)を維持する
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの実施(7月1日での終了を決定)
- 理事会はAPPによる純資産購入について、7月1日をもって終了することを決定した(APPの終了決定)
- APPの元本償還分の再投資(政策の変更なし)
- APPの元本償還分は全額再投資を実施
- 政策金利を引き上げ、十分な流動性と適切な政策姿勢を維持するために必要な限り実施(表現を若干修正、政策の変更なし)
- PEPP元本償還分の再投資実施(政策の変更なし)
- PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2024年末まで実施(変更なし)
- 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する(変更なし)
- PEPP再開の可能性について(表現を一部移動、政策の変更なし)
- コロナ禍に関連して、市場の分断(fragmentation)が再発する場合には、いつでもPEPPの再投資は、実施期間、資産クラス、国構成を柔軟に調整する(変更なし)
- これには、国構成に関して購入が中断され、コロナ禍の余波からの回復途上にあるギリシャ経済への金融政策の伝達が阻害されることを避けるために、償還再投資についてのギリシャが発行する国債を購入することも含まれる(変更なし)
- PEPP下での純資産購入は、コロナ禍の負の影響に対抗するため、必要があれば再開する(変更なし)
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 理事会は、政策金利の引き上げ前にフォワードガイダンスに関する条件を注意深く調査し、それが満たされているかを確認した(利上げ条件が満たされていることについて記載)
- 理事会は評価の結果、これらの条件が満たされていると結論付けた
- したがって、理事会の次なる政策として、理事会は政策金利を7月の理事会で0.25%ポイント引き上げるつもり(intends)である(次の理事会での利上げについて記載)
- それまでの間、理事会は政策金利を維持することを決定した
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:0.00%
- 限界貸出ファシリティ金利:0.25%
- 預金ファシリティ金利:▲0.50%
- それまでの間、理事会は政策金利を維持することを決定した
- その先、理事会は政策金利を9月にも引き上げるつもり(expects)である(さらなる利上げについて記載)
- これらの利上げの調整は最新化された中期的なインフレ見通しに依存する
- 仮に中期的なインフレ見通しが持続的、あるいは悪化すれば、9月会合でより大幅な利上げが適切となるだろう
- 9月より先は現時点での評価に基づいて、理事会は段階的だが、持続的な政策金利の引き上げが適切であると見込んでいる(利上げスタンスについて記載)
- 理事会の中期的な2%目標というコミットメントに沿って、理事会の金融政策の調整ペースは、最新のデータと中期的なインフレ動向への評価に依存する
- (利上げのフォワードガイダンスは条件が満たされたため削除)
(資金供給オペ)
- 流動性供給策の監視(変更なし)
- 理事会は銀行の資金調達環境を監視し、TLTROⅢの満期が金融政策の円滑な伝達を阻害しないよう保証する(変更なし)
- 理事会はまた、条件付貸出オペが金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する(変更なし)
- 以前に公表したように、TLTROⅢの特別条件は今年6月23日に終了する(具体的な日付に言及、政策の変更なし)
- (準備預金への付利の2階層制度の適切な運用に関する記述を削除)
(その他)
- 金融政策のスタンスと柔軟性について(政策の変更なし)
- インフレが2%の中期目標に向け推移するよう、必要があれば柔軟性を組み込み、すべての手段を調整する準備がある(「責務の範囲内で(within its mandate)を削除」)
- コロナ禍による緊迫した環境下で、資産購入の設計・実施の際の柔軟性が、金融政策の伝達への悪影響に対抗し、理事会の目標達成への取り組みをより効果的にすることを示した(変更なし)
- 我々の責務の範囲内において、緊迫した環境下で、金融政策の伝達性が脅かされ物価の安定が危うくなる場合には、柔軟性が引き続き金融政策の一要素となるだろう(変更なし)
4.記者会見の概要
(冒頭説明)
- (クノットオランダ中銀総裁への感謝の言葉)
- (声明文冒頭に記載のインフレ・経済見通しと今後の利上げに関する言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- 短期的に、我々は高いエネルギー価格、交易条件の悪化、高インフレによる所得への悪影響の不確実性のために経済活動が鈍化すると見ている
- ウクライナでの戦争と中国でのコロナ禍に対する規制が再度実施されたことにより、供給制約が再び悪化している
- その結果、企業はコスト高と供給網の混乱に直面しており、生産見通しは悪化した
- しかしながら、経済活動の下支え要因もあり、今後数か月でこれらが強化されると見ている
- コロナ禍で大きな影響を受けた産業での経済再開や雇用が回復し堅調な労働市場は所得と消費の下支え要因となる
- 加えて、コロナ禍期間中に積みあがった貯蓄は緩衝材(buffer)となる
- 財政政策は戦争の影響を緩和する助けになる
- 的を絞った一時的な財政手段は、さらなるインフレ圧力を助長するリスクを避けつつ、高いエネルギーに耐えている人々を守る助けになる
- 「次世代EU」「Fit for 55」「REPowerEU」計画の下での投資・構造改革を迅速に実施することは、ユーロ圏経済が持続的な成長加速と、世界的なショックに対する強靭性(resilience)強化の助けになるだろう
(2022年06月10日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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