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世界各国の市場動向・金融政策(2022年5月)-4月以降の株安・ドル高傾向が一服
経済研究部 主任研究員 高山 武士
1.概要:5月後半に株が反発、為替もドル安に
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する47か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。本文中の先進市場と新興市場の区分についてはMSCIの分類に基づく。
2.ロシアの金融市場と商品価格
ルーブル相場はウクライナ侵攻直後の急落から3月に大きく反発した後、上昇基調が続き5月はウクライナ侵攻前の水準を大幅に上回るまでに回復した(図表4)。そのため、ロシアはウクライナ侵攻後に導入してきた、資本規制を中心とした為替安定策の緩和に踏み切っている。例えば、輸出企業向けに外貨収入の80%を3営業日以内にルーブルに両替するという規制については、外貨収入の50%を120営業日以内にルーブルに両替すれば良いとしている。また、20%まで引き上げた政策金利はついては、11%まで引き下げた。
株価指数の反発は為替ほど強くないものの、4月・5月と上昇基調が続いており、5月下旬には1月末を約▲15%下回る状況まで回復している(図表4)。
CDS(ドル建て)については、4月上旬に米財務省がドル建て国債関係の支払いを許可しない方針を示したと報道された頃から急騰していたが3、5月4日期限のドル建て国債の元利金については支払が完了したとの報道があり、一時下落した4。ただし、5月中旬以降は再び上昇している(図表5)。米財務省がロシア国債の元利金受け取りと認めていた規定を延長せずに5月25日に失効したため、デフォルトの公算は大きくなっていると見られる5。
エネルギー価格(原油、天然ガス)では、EUとロシア間での需給問題が上昇圧力として働いている。欧州委員会は5月4日にロシア産石油の禁輸案を公表7、ハンガリーなどの反対に配慮し、例外を設けつつ欧州理事会で合意している8。供給面ではOPECプラスで予定されている増産幅が据え置かれたこともあって特に原油の需給ひっ迫感が強まっている(図表8)。ガス価格については、ロシア大手国営ガス企業のガスプロムによる供給に関して、ルーブル建てでの決済が行われていないとして、ポーランド、ブルガリア、フィンランド、オランダ、デンマーク、ドイツの一部企業への供給停止が発表されており、これらが供給不安になっていると見られる9。
2 ロシアのウクライナ侵攻と経済・金融制裁を受けて、3月にロシアはMSCI ACWIから除外されているが、世界の金融市場に大きな影響を及ぼしたその後の状況を確認するため、本節で概観する。
3 例えば日本経済新聞電子版2022年4月5日「米財務省、ロシア国債利払い認めず デフォルト懸念増す」(22年6月1日アクセス)
4 ただし、猶予期間中の利息分が支払われていないとしてISDA傘下の決定委員会がクレジットイベントに該当するのかの協議を実施している。例えば、日本経済新聞電子版2022年6月1日「ロシア国債の不履行有無、1日に再協議 業界団体」(22年6月1日アクセス)
5 例えば日本経済新聞電子版2022年5月25日「ロシア国債、7月にもデフォルトか 米国が利払い認めず」(22年6月1日アクセス)
6 天候要因による不作懸念としては、例えば、干ばつの米国産トウモロコシやフランス産小麦への影響など(日本経済新聞電子版2022年5月25日「ラニーニャ長期化、食品市場を揺らす 強まる先高観」)(22年6月1日アクセス)、日本経済新聞電子版2022年5月12日「[FT]世界4位の小麦輸出国フランスに迫る干ばつの危機」(22年6月1日アクセス))。保護主義的な動きとしては、インドの小麦輸出停止など(日本経済新聞電子版2022年5月12日「[FT]食料供給国の輸出制限が相次ぐ 価格高騰に拍車」(22年6月1日アクセス)、日本経済新聞電子版2022年5月15日「小麦生産大国インドが輸出停止 国内供給を優先」(22年6月1日アクセス))。
7 European Commission, Speech by President von der Leyen at the EP Plenary on the social and economic consequences for the EU of the Russian war in Ukraine – reinforcing the EU's capacity to act, 4 May 2022(22年6月1日アクセス)
8 European Council, Special meeting of the European Council, 30-31 May 2022(22年6月1日アクセス)
9 例えば、日本経済新聞電子版2022年5月21日「フィンランドへのガス停止 ロシア、NATO申請に報復か」(22年6月1日アクセス)、日本経済新聞電子版2022年5月31日「オランダ、ロシア産ガス供給停止へ デンマークも」(22年6月1日アクセス)、日本経済新聞電子版2022年6月1日「ロシア国営ガスプロム、ドイツへのガス供給一部停止 ルーブル払い拒否で」(22年6月1日アクセス)など
3.株価(MSCI)・為替レートの動き
一方、株安が目立ったハンガリーでは通貨も弱く、そのほかトルコリラも5月は大幅に下落した。トルコでは、リラ建て預金について対ドルでの為替損失分を中央銀行が補填するといったインセンティブを導入することでリラ買いを誘導してきたが、外貨準備高の減少が加速していることから通貨への下落圧力が強まったと見られる。
10 ただし、名目実効為替レートは5月23日時点の前月末比で算出。
G7以外の国でも、オーストラリア、インド、ブラジル、サウジアラビア、チェコ、ポーランド、アルゼンチン、メキシコ、南アフリカ、韓国、ハンガリーで利上げを決定している。会合が実施された国ではほとんどが利上げを実施している状況であり、またインドでは臨時会合を開催した上での利上げ決定となった。
一方、中国では5年物LPR(最優遇貸出金利)を引き下げている。4月の預金準備率の引き下げに続き、景気減速懸念を受けた金融政策を微調整が続いている。ただし、5月も1年物LPRは据え置いている。
ロシアでは臨時の会合を開催し政策金利を11%まで引き下げた。上述の通り、金融市場等が落ち着いていることが背景にある。ウクライナ侵攻直前の政策金利は9.5%であり、平時の政策金利レンジ内に戻ってきたと見て良いと思われる。また、ロシア中銀はさらなる金利引き下げも排除しない旨を声明文に盛り込んでいる。
なお、トルコでは前述の通り通貨下落が目立ったが、政策金利は今年に入ってから据え置きを続けている。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年06月01日「経済・金融フラッシュ」)
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- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
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