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- 自動車産業と供給制約
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- コロナ禍は、世界経済に需要・供給双方のショックを与えた。特に、原材料・部品不足によって自動車生産が抑制されたことは報道でも多く報じられた。
- 本稿では、こうした供給制約の影響を大きく受けてきた自動車産業の構造をマクロのデータで確認していく。主な結果は以下の通りである。
・世界の自動車生産・販売はコロナ禍にあった20年に大きく落ち込み、21年の回復は経済全体の回復に比し弱かった。供給制約が原因である。
・世界の自動車生産・販売台数を見ると、米国は生産台数に比べ販売(売上)台数が多い輸入国となっている、一方、日本やメキシコ、韓国といった国は販売台数と比較して生産台数が多い輸出国である。
・自動車生産について完成車ベースではなく、自動車の部品などを構成する原産国レベルで見て国別の生産(厳密には付加価値)と販売(最終需要)を比較すると米国が付加価値の輸入国であり、日本、ドイツ、メキシコ、韓国といった国が付加価値の輸出国、ということになる。
・したがって、世界的に見ると自動車需要の増減は、輸出国である日本やドイツ、メキシコ、韓国といった国の生産に大きな影響を及ぼす構造になっていると言える。
・加えて、一般的に自動車産業は「消費者に近く、サプライチェーンが長い」という特徴がある。消費者に近いということは、需要の変化の影響を早く受け、またサプライチェーンが長いということは、潜在的に供給上のボトルネックが発生しやすいことを示唆している。
・コロナ禍では、サービス消費が落ち込む一方、モノ消費が増加した。その傾向は特に米国で強かった。そして米国の自動車需要の増加を通じて、そのサプライチェーン上のボトルネックが顕在化した。
・米国向けに付加価値を供給している国としては、メキシコ、日本、中国、カナダといった国が中心なので、供給制約が発生しなければ、米国の自動車需要増は直接的にはこれらの国の付加価値を増やした可能性がある。ただし、供給制約が顕在化したことで世界全体の自動車生産・販売が抑制されたものと見られる。
・なお、このような状況下で中国の生産・販売の落ち込みが限定的だったことは特徴的であり、中国の自動車産業が世界的なサプライチェーンから独立している(「地産地消」的な)構造があることを示唆する結果とも言える。
・現在、自動車産業が直面する供給制約について、その回復タイミングを予想することは難しい。また、中長期的には、気候変動対応や経済安全保障の観点から産業構造が変化する可能性がある。サプライチェーン上の供給制約をすべて排除することは難しいが、サプライチェーン上に発生し得る様々なリスクのコントロール(安全保障リスクといった特定のリスクは抑制しつつ、別のやむを得ないリスクやコストは許容するといった試み)は模索されるだろう。
・自動車関連産業は経済の大きなシェアを占め、サプライチェーンの状況や構造的な変化を把握する事はマクロ経済全体の動向を捉える上で重要であるため、今後もその動向を丁寧に追っていきたい。
■目次
1――はじめに
2――自動車の生産と販売の構造
1|世界の自動車生産・販売推移の概観
2|自動車の生産国と販売国
3――自動車のサプライチェーンの構造
1|上流度
2|サプライチェーンの長さ
3|自動車産業のサプライチェーンの特徴
4――コロナ禍における需給ショック
1|コロナ禍におけるモノ需要
2|コロナ禍における供給制約
5――おわりに
(2022年04月26日「基礎研レポート」)

03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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