- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 欧州経済 >
- ECB政策理事会-量的緩和は終了、声明に利上げの道筋も明記
2022年06月10日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
(インフレ)
(リスク評価)
1 悲観シナリオは成長率が22年1.3%、23年▲1.7%、24年3.0%、インフレ率が22年8.0%、23年6.4%、24年1.9%である。前提に、22年7-9月期からロシア産エネルギー輸入が遮断され、大幅な商品価格の上昇や世界的な供給網問題の深刻化が置かれている、(例えば、ガス価格はベースライン対比で2倍と想定されている)。
- インフレ率は5月に8.1%となった
- 政府が介入し、エネルギーインフレの抑制に努めているものの、エネルギー価格は前年比39.2%となっている
- 市場の指標はエネルギー価格が短期的に高止まりするものの、将来的にはやや緩和することを示唆している
- 食料品価格は5月に7.5%上昇し、一部は農作物の国際的な生産者としてのロシア・ウクライナの重要性を反映したものとなっている
- 物価は供給制約の再発と、特に経済再開に伴うサービス産業における域内需要の高まりによって力強く上昇している
- 物価はより幅広い産業で上昇するようになっている
- したがって、インフレ基調もさらに上昇している
- 労働市場は改善を続けており、失業率は4月には6.8%という歴史的な低水準を維持している
- 多くの部門では求人件数から、労働需要の強さが示されている
- 時間が経過し、経済が強くなること、またキャッチアップ効果(catch-up effects)により賃金上昇が支えられるだろう
- 金融市場やサーベイ調査による長期のインフレ期待の様々な指標が2%付近にあるなかで、これらの指標が目標を上回る兆候には注視する必要がある
(リスク評価)
- コロナ禍に関するリスクは低下する一方で、戦争が経済成長への大きな下方リスクとなっている
- 特に、スタッフ見通しの悲観シナリオにも反映されている1通り、ユーロ圏のエネルギー供給のさらなる混乱は主要リスクである
- さらに、戦争がエスカレートすれば、経済の景況感悪化、供給制約の深刻化、エネルギーと食料品価格の想定以上の高止まりの可能性がある
- インフレ見通しをとりまくリスクも、主に上方に傾いている
- 変動しにくい中期的なインフレ見通しのリスクには、経済供給力の悪化、エネルギーと食料価格の高止まり、期待インフレ率の目標を上回る上昇、予想以上の賃金上昇がある
- しかしながら、中期的な需要が低迷すれば価格上昇圧力も抑制されるだろう
1 悲観シナリオは成長率が22年1.3%、23年▲1.7%、24年3.0%、インフレ率が22年8.0%、23年6.4%、24年1.9%である。前提に、22年7-9月期からロシア産エネルギー輸入が遮断され、大幅な商品価格の上昇や世界的な供給網問題の深刻化が置かれている、(例えば、ガス価格はベースライン対比で2倍と想定されている)。
(金融・通貨環境)
(結論)
- 市場金利はインフレと金融政策見通しの変化に反応して上昇した
- 基準金利の上昇により、銀行の調達コストも上昇しており、特に家計への貸出金利の上昇をもたらしている
- それにもかかわらず、3月の企業貸出は増加している
- これは、生産コストの上昇や供給制約の長期化、市場調達の依存度低下に対抗して、投資需要や運転資金確保の必要性があることが貢献しているとみられる
- 我々の金融政策の戦略に基づいて、理事会は半年に1度、金融政策と金融安定の相互関係に関する詳細な評価を実施した
- 金融安定に関する環境は、特に短期的に見て、前回21年12月での評価から悪化している
- 特に、低成長と原材料価格の上昇圧力、無リスク金利や国債金利の上昇によって、借入主体の資金調達環境はさらに悪化する可能性がある
- 同時に、資金調達環境が厳格化すれば、中期的には既存の金融安定への脆弱性が解消する可能性もある
- 銀行は、年明けから確固たる資本を確保し資産の質も改善してきたが、現在は信用リスクの高まりに直面している
- 我々はこうした要因を注視するつもりである
- いかなる場合でも、マクロプルーデンス政策は金融の安定性を維持し、中期的な脆弱性に対処することが最善の手段であり続ける
(結論)
- 要約すれば、ロシアの不正なウクライナへの侵攻はユーロ圏経済に深刻な影響を及ぼし、見通しを取り巻く不確実性は依然として大きい
- しかし、経済は回復を続けており、中期的なさらなる回復の途上にある
- インフレ率は好ましくない高さであり、しばらくの間我々の目標を上回り続けると見られる
- 我々は中期的にインフレ率を2%に戻すことを確認する
- 従って、我々は金融政策の正常化へのさらなる段階に進むことを決定した
- 我々の政策手段の調整は引き続きデータや見通しへの評価に依存し続ける
- インフレが2%の中期目標に向け推移するよう、責務の範囲内で、必要があれば柔軟性を組み込み、すべての手段を調整する準備がある
(質疑応答(趣旨))
- あなたは、過去数か月、ユーロ圏経済は他の先進経済とは異なる場所にいると繰り返してきた。FRBが利上げを開始してから、3か月後に同じことをしようとしている。まだ違いがあるのか、それとも後追いをしているのか
- 我々は、12月に開始した正常化の段階をさらに進めるという課題に焦点をあてており、追い付くことは問題ではない
- 分断化(fragmentation)リスクに関する議論がなされたか教えて欲しい。それに対処するための新しい提案はあったか
- 我々は、金融政策の伝播が地域全体に及ぶように、分断化がないようにする必要がある
- 既存の政策手段があり、過去にも記述したと思う
- PEPPの1.7兆ユーロの再投資は、時間、国、資産クラスに関する柔軟性を持って実施している
- 必要な場合は、過去に実施したように既存の手段を講じるか、新しい手段を利用する
- 我々は、適切な金融政策手段の実施にコミットしており、伝達を損なうような分断化は回避される必要がある
- 今日の決定は全会一致だったか、議論の内容をさらに教えて欲しい
- 議論は前回一致の決定で終了した
- ECBは9月の会合で0.25%ポイント以上の利上げの可能性について言及している。7月会合でも同じことを考えているか
- 声明文では「我々は7月会合で0.25%ポイントの政策金利の引き上げを意図している」としている
- もしインフレ見通しが2%に引き下がらなければ、9月に0.50%ポイントの利上げをすることを意味しているか
- 重要な点は、「仮に中期的なインフレ見通しが持続的、あるいは悪化すれば、9月会合でより大幅な利上げが適切となるだろう」である
- 例示すれば、24年あるいはその先に2.1%となったら、利上げ幅の調整が大きくなるかと言われれば、そうである
- 9月までに利上げをしたいといっていたが、3つすべての金利を意味するのか
- 声明文の単数・複数を含むすべての言葉が重要である
- 「9月に再度」「政策金利(key ECB interest rates)を引き上げる」としており、(複数形であり)3つの金利すべてが含まれる
- タイムラグについての見解を聞きたい、7月の利上げはインフレ率やインフレ期待にいつごろ影響するのだろうか
- 即時の効果は期待していない
- 一方、インフレ期待は現在のところ固定されており、我々の政策によって引き続き固定させておく必要がある
- 最終的には、新しい中立金利まで利上げをすることを意味するのか。中立金利には様々な推測があるが、何であると考えているか
- 中立金利は、この理事会で恣意的に議論しなかった事項である
- 中立金利の具体的な水準についてはうんざりする議論になるだろう
- 生産性や人口動態などの複数の理由で低下したことを把握するだけで十分でと言える
- 他の議論すべき事項が多くあったので、後の議論としてとってある
- 中立金利は、正確に観察し決定できるものではない
- さらに(中立金利に)近づけば、よりよく理解できるだろうし、その際に議論するつもりである
- APPの終了はフォワードガイダンスを調整するのに良い時期か。2013年にフォワードガイダンスが導入された際は、市場の期待を管理することを意図していた。今は、異常なインフレをもたらずウクライナでの戦争があるにも関わらず、約束があったために資産購入を早期に終了できなかったように思われる。金融市場であるしっぽは犬であるECBを振り回していないか
- 言及しているフォワードガイダンスは資産購入のフォワードガイダンスのことかと思う
- フォワードガイダンスは実際に変更されている
- 我々は実際に生じた変化を考慮している
- 過去11年間の多くのフォワードガイダンスや多くの道具は、反対の動きと関係しており、インフレ率が低すぎて、デフレのリスクを心配していた
- 今は逆の状況にあり、インフレ率が高すぎて中期的に2%に戻す必要がある
- ECBは24年までにインフレ率が目標に戻ると信じている。しかし、過去のほとんどの期間、ECBは一貫してより低いインフレ率に収束すると考えていたが、それは起こらなかった。歴史的には大きな信頼性がないなかで、どの程度、今回の成功を確信しているか
- 第1に予測は、スタッフが自覚とプロ意識をもって見通し作成を実施している
- 第2にこの予測はECBだけでなく、(各国中央銀行を含む)ユーロシステム全体の見通しである
- 第3にエネルギー価格の高騰、ウクライナの戦争、経済回復ペースの速さはすべての予測担当者にとって驚きであり、すべての予測担当者が同じ間違いをしている
- 第4にユーロシステムやECBは、過去を振り返り、間違いがどこから生じたのかを見てきている
- 予測誤差の3/4はエネルギー価格により生じており、残りの大部分について、供給制約が予想よりも長期化していることに起因している
- 再投資について、これまであなたはフロー(購入額)に対してストック(残高)の重要性を数倍強調してきた。現在、特にPEPPの再投資が少なくとも24年末まで実施されることを再確認している。これは、数年間の金融緩和を意味している。これを金融政策の正常化と言うことは適切なのか
- 再投資については、(今後の)理事会で議論する予定であるが、今日の議論内容ではないと決めた事項である
- 理事会メンバーには、柔軟性に興味を持っているだけではなく、気候変動対策としての資金調達支援にも興味を持つ人もいる
- 以前に言及した緑の(green)LTROは興味深い事項である
- 今後、数か月あるいは数年のうちに決定される再投資については、こうしたもの(気候変動)に触発(inspired)されたものになるかもしれない
- 7月の0.50%の利上げを除外しているのはなぜか
- 我々は11年間の金利の動きがない状況から抜け出しつつある
- 我々の本日の決定は7月単月だけではなく、中期的な2%への回帰に向けた全体の旅(journey)である
- 我々はまた、市場がどのように反応するかを観察したい
- 本日の発表は、段階的な正常化を取りやめ、好ましくない高インフレに対処するため、何でもやる(whatever-it-takes)方法が好ましいとする合図(signal)なのか
- 重要な原則が声明文に記載されており、「この過程全体で、理事会は、金融政策の実施に関する選択肢、データ依存、漸進主義、柔軟性を維持する」としている
- 4つすべてが重要であり、環境によっては1つが他の重要性を上回ることもある
- 不確実性が高い状況では、漸進主義がおそらくより適切になるだろう
- 分断化への対処について、新しい手段は既存のPEPPへの再投資がすべて使われた後にのみ設計・導入されるのか
- 我々は責務の範囲内で、ユーロ圏の分断化リスクを防ぐことにコミットしていることを再度強調したい
- 我々は、設計方法を知っており、必要がある場合の新しい手段を導入方法も知っている
- 過去にも実施してきたし、これからもそうする
- インフレは輸入されており、大部分が消費への税金である。このようなインフレに対して、金利は何ができるのか
- 第1に、我々は、前例のない75%の財・サービスが2%を超えるという状況を見ている
- 一部はエネルギーの価格転嫁要因であるが、それだけではなく非エネルギー財とサービスにも(物価上昇が)見られている
- 第2に、我々は賃金、賃金交渉と波及効果(second-round effect)と潜在的なスパイラル(spiralling)について注意している
- 我々は、スパイラルのリスクは観測していないが、賃金上昇は観測しており、特に3月以上は上昇が顕著である
- 例えば、ドイツで最低賃金が10月から引き上げられること認識している
- 物価上昇は、エネルギー関連分野よりも広範囲に拡大している
- なぜ景気後退のリスクについてそれほど見積もられていないのか
- 経済にはマイナス要因(negative)がプラス要因(positive)より多いかもしれないが、どちらもある
- 経済の全産業が回復しており、観光、宿泊、接客業の回復は速い
- 3つの金利を引き上げると話したが、これらの間のスプレッドは維持されるのか、それとも将来は変わり得るのか
- 我々が議論した7月の利上げに関して、我々は、預金ファシリティ金利だけでなく、3つの金利が影響を受けると考えている
- 9月時点では、3つの金利に利上げの原則を適用するかもしれないが、まだ議論していない
- (金利を注視し)スプレッドを維持するのか、よりよい対称性に戻すのかを判断する
- PEPPの柔軟性のきっかけ(trigger)となる条件について、もう少し教えて欲しい。コロナ禍に特化したものでなければいけないのか、ウクライナでの戦争や他の想定していないショックの結果として、柔軟性が使われる可能性があるか
- 重要な点は、金融政策の伝達である
- 無条件にきっかけ(trigger)となる具体的な国債金利、貸出金利、スプレッドの水準はない
- 原則は金融政策の伝達を妨げるような分断化は容認しないということであり、国ごとの状況に鑑みて、顕在化しそうになった場合に、それを防止する
- 我々は国債の売りを経験しているが、PEPPの再投資とECBの新たなコミットメントでは分断化を防止するのに十分ではないかもしれない。ECBの新しいあるいは調整された手段はどのようなものになりそうか
- 断片化を容認しないという、同じことを繰り返すことしか言えない
- データ依存の重要性について、四半期の経済見通しの公表に合わせた形での利上げを期待して良いのか
- 見通しを公表するときのみ、決定を行うという束縛を課すつもりはない
- 金融の安定性について、資金調達環境の厳格化のために、銀行が信用リスクの増加に直面していると言及したが、戦争の状況下でどの程度、金融の安定性を懸念しているのか
- 声明文に記載されているように、短期的には金融政策の正常化によって追加的なストレスが生じる
- しかし、中期的に見て、脆弱性への対処のためには、金融調達環境の厳格化は好ましい
- 住宅について考えて欲しい
- 我々は短期だけでなく中期も含めて評価している
- (オランダとオランダ中銀への感謝の言葉)
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年06月10日「経済・金融フラッシュ」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
高山 武士のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/05/01 | ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 | 高山 武士 | 経済・金融フラッシュ |
2025/04/23 | IMF世界経済見通し-トランプ関税で世界成長率は3%割れに | 高山 武士 | 経済・金融フラッシュ |
2025/04/18 | ECB政策理事会-トランプ関税を受け6会合連続の利下げ決定 | 高山 武士 | 経済・金融フラッシュ |
2025/04/16 | 英国雇用関連統計(25年3月)-緩やかながらも賃金上昇率の減速傾向が継続 | 高山 武士 | 経済・金融フラッシュ |
新着記事
-
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【ECB政策理事会-量的緩和は終了、声明に利上げの道筋も明記】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
ECB政策理事会-量的緩和は終了、声明に利上げの道筋も明記のレポート Topへ