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投資家置き去りの東証プライム市場-真の「プライム企業」とは
基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.303]

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾
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1―投資家も証券会社も期待せず
2―投資家置き去りのプライム市場
だが、東証1部上場2,175銘柄の84%にあたる1,837銘柄がプライム市場に移行することとなった(2022年3月31日時点)。しかも、そのうち295銘柄は時価総額や流通株式比率などプライム市場の上場基準を満たしていない。基準未達でも「基準適合に向けた報告書」が受理されればプライム市場に移行できる「経過措置」が適用される。
企業にとって「東証1部上場」、「プライム市場上場」であることは、人材確保や取引先・顧客の信頼を得るのに重要でもあり、激変緩和措置は必要だろう。しかし、この経過措置には期限が設けられておらず、単なる「問題の先送り」にも見える。市場再編が「看板の付け替えに過ぎない」などと揶揄される所以だ。
実は、先のアンケートでは「プライム市場は何社くらいが適当だと思われますか」という問いに対して、投資家の71%が「500社程度」(54%)または「300社程度」(17%)と回答している。一方、実際の銘柄数に近い「1,500社程度」「2,000社程度」との回答は計12%に過ぎない。
こうした投資家の意向はプライム市場の上場基準を検討する段階で既に明らかになっていた。2019年12月にQUICK社が実施した同様のアンケートでは、「プライム市場の銘柄数はどのくらいが妥当か」という問いに対して、投資家の87%が「500社程度以下」と答えていた[図表3]。それにもかかわらず、無期限の経過措置まで導入して1,837社のプライム市場上場を承認したことは、「投資家置き去り」に見える。
3―真のプライム市場に相応しい企業
①プライム市場上場1,837銘柄を出発点とし
②経過措置適用銘柄およびTOPIXの段階的ウェイト低減銘柄を除外した1,517銘柄
③は市場の評価や企業の収益性を加味するため、直近のPBR(株価純資産倍率)が1倍未満の銘柄、実績ROE(株主資本利益率、10期平均)が直近の株主資本コストよりも低い銘柄を②から除外した612銘柄だ。
さらに④はコーポレートガバナンス・コードが求める社外取締役の割合(3分の1以上)を満たさない銘柄、投資家の売買しやすさを考慮するため売買代金回転率(図表4注参照)が0.5回未満の銘柄と最低投資金額(東証は50万円以下を推奨)が100万円超の銘柄を③から除外した401銘柄だ。
図表4の絞り込み方法はごく簡易的で他の方法も無数に考えられるが、銘柄数としては③④が投資家のイメージに近い。
というのも、PBRが1倍未満の企業は市場での株式評価額が自己資本よりも低いことに他ならず、一般に「経営として失格」とされる。スクリーニングしたデータを詳細に見ると、PBRが1倍未満の企業の約半数は実績ROEが株主資本コストを下回っている。株主が求める最低限のROEを達成できていない。
これらの企業が「株主価値を毀損している」ことは、企業が投資家との対話を通じて持続的に企業価値を高めていくための課題を分析・提言した経済産業省のプロジェクト(伊藤邦雄座長)の最終報告書、通称「伊藤レポート」が指摘しているほか、学術的にも「価値破壊的」であることが一般的な解釈だ。また、近年その重要性の指摘が増えている非財務資本(人的資本、環境への配慮など)が脆弱なため市場の評価が低い可能性もある。いずれも「最上位市場に相応しい」とは言い難い。
一方、社外取締役比率などで銘柄数をさらに絞り込んだ④のリターンは最も低いが、リスクも最も低く評価は微妙だ。全期間のリスク・リターン効率が0.83と①~④のうち最低なので「長期的には魅力度が最も低い」といえるが、短期的なリスクの低さは注目に値する。
たとえば、チャイナショックが起きた2015年は①よりもリターンが4.4%高く、米中貿易摩擦が激化した2018年は5.3%高い。ESG投資に関する先行研究が示唆するように、株価下落局面における下値抵抗力が優れているのかもしれない。
経過措置適用銘柄等を除外した②は①との違いがほとんど無い。②で除外された銘柄のほとんどは時価総額が小さいため、ポートフォリオ全体への影響が軽微だったのだろう。だからといって、経過措置をいつまでも適用するのは好ましくない。東証自身が当該企業に期待しているように企業価値向上に向けた取り組みを加速するためにも、経過措置の期限、未達の場合は厳格に運用することを早期に決めることが重要だろう。
最後に、ポートフォリオ③における構成比が同①の構成比よりも大きい銘柄(上位10社)を図表6に挙げた。当然だがPBRは全て1倍を超え、キーエンス、リクルートホールディングス、東京エレクトロンは特に高い。この3社に共通するのは過去10期平均ROEが10%を超えていることだ。資本を有効活用して効率的に稼ぐ仕組みができていることを株式市場は高く評価しているのだろう。他の銘柄も含めて、成長投資に積極的な企業や世界的なデジタル化の潮流に乗った企業が目立つ。
(2022年06月07日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1852
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
2023年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会認定アナリスト
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