2022年06月06日

インド経済の見通し~コロナ禍からの回復続くも、高インフレと金融引き締めが内需の重石に(2022年度+7.4%、2023年度+6.1%)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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経済概況:オミクロン株による感染再拡大とインフレ高進で消費が鈍化

(図表1)インドの実質GDP成長率(需要側) 2022年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.1%となり、前期の同+5.4%から低下したが、Bloombergが集計した市場予想(同+4.0%)を若干上回った1(図表1)。なお、2021年度の実質GDP成長率は前年度比+8.7%となり、2020年度の同▲6.6%からプラスに転換した。

1-3月期の実質GDPを需要項目別にみると、内需は総固定資本形成が前年同期比+5.1%(前期:同+2.1%)、政府消費が同+4.8%(前期:同+3.0%)と持ち直したものの、民間消費が同+1.8%(前期:同+7.4%)が大きく鈍化した。

外需は、輸出が同+16.9%(前期:同+23.1%)、輸入が同+18.0%(前期:同+33.6%)となり、それぞれ二桁成長が続いた。結果として、純輸出の成長率寄与度は▲1.0%ポイント(前期:▲3.0%ポイント)とマイナス幅が縮小した。
(図表2)インドの実質GVA成長率(産業別) 2022年1-3月期の実質GVA成長率は前年同期比+3.9%(前期:同+4.7%)と低下した(図表2)。

産業部門別に見ると、第一次産業は同+4.1%(前期:同+2.5%)となり、コロナ禍でもプラス成長が続いている。

第二次産業は同+1.3%(前期:同+0.3%)と小幅に上昇した。製造業こそ同▲0.2%(前期:同+0.3%)と停滞したものの、建設業が同+2.0%(前期:同▲2.8%)、電気・ガスが同+4.5%(前期:同+3.7%)とそれぞれ上昇、また鉱業が同+6.7%(前期:同+9.2%)と堅調な伸びを維持した。

第三次産業は同+5.5%増(前期:同+8.1%増)と低下したものの、底堅い伸びを維持した。まず商業・ホテル・運輸・通信が同+5.3%(前期:同+6.3%)と低下した。一方、行政・国防が同+7.7%(前期:同+16.7%)と高めの成長が続いたほか、金融・不動産が同+4.3%(前期:同+4.2%増)と僅かに上昇した。
インドは2020年度に新型コロナ対策として全国的な都市封鎖など厳しい活動制限措置を実施したため、社会経済活動が混乱して4-6月期の実質GDP成長率が前年同期比▲23.8%と急減したが、活動制限措置の段階的な緩和に伴いV字回復して10-12月期にはプラス成長に転じた。2021年度は新型コロナウイルスの変異株(デルタ株とオミクロン株)の発生による感染再拡大が生じたが、全国的な都市封鎖のような極めて厳しい活動制限措置は実施されなかったため、2021年度の成長率は前年度比+8.7%となり、2020年度の同▲6.6%からプラスに転換した。

22年1-3月期は成長率が前年同期比4.1%と、6期連続のプラス成長となったが、成長ペースの鈍化が続いた。1-3月期の成長率低下はコロナショック後の経済正常化の過程における回復の勢いが一服しつつあることと、オミクロン株の感染拡大やインフレ高進により消費の勢いが減速した影響が大きい。

インドでは昨年末からオミクロン株の感染が急速に広がると、各地の地方政府は週末や夜間の外出禁止措置を実施した。同時に、政府は新型コロナウイルスワクチンの対象年齢の引き下げや3回目接種を開始するなど、更なる感染対策を進めた。感染者数は1月下旬に1日30万人を突破したところでピークアウトしたほか、オミクロン株の症状の大半は軽症か無症状であったため、2月以降は活動制限が緩和されていった(図表3)。このように活動制限が一時強化されたことから、1-3月期の小売・娯楽施設への人流はコロナ前と同水準(+0.3%)となり、10-12月期の同▲1.7%から小幅の改善にとどまった(図表4)。こうした感染リスクの高まりは、対面型サービス業の多い商業・ホテル・運輸・通信の成長率が同+5.3%(10-12月期:同+6.3%)と鈍化したこととも整合的である。

またインフレの高進も消費の重石となった。1-3月期はウクライナ情勢の悪化を背景とした原油や食品価格の高騰に加えて、サプライチェーンの混乱が世界的なインフレ要因となるなか、通貨ルピー安により輸入物価が上昇し始めたため、企業はコスト上昇を販売価格に転嫁させたものとみられる。3月の消費者物価上昇率は前年同月比7.0%(21年12月:同5.7%)まで上昇した。こうしたオミクロン株による感染再拡大とインフレの加速が消費の重石となり、民間消費は前年同期比+1.8%(10-12月期:同+7.4%)と大きく鈍化した。

一方、投資と外需は改善しており、1-3月期の実質GDPを下支えた。まず輸出(前年同期比+16.9%)は二桁成長となり、引き続き世界経済のコロナ禍からの回復が追い風となっている。また総固定資本形成(同+5.1%)も改善、これまでの消費を中心とした内需の持ち直しに加え、輸出拡大や大規模なインフラ開発を続ける政府の支出拡大などにより押し上げられたものとみられる。
(図表3)インドの新規感染者数の推移/(図表4)インドの外出状況
 
1 5月31日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2022年1-3月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。

経済見通し

経済見通し:コロナ禍からの回復続くも、高インフレと金融引き締めが内需の重石に

今後も新型コロナウイルスの新たな変異株が出現する可能性があるが、治療薬やワクチンの普及など感染対策が整備されるなかで経済活動との両立が容易になり、都市封鎖のような厳しい活動制限措置は回避されることを想定している。このため、先行きは感染抑制を背景にコロナ禍からの社会経済活動の正常化が進み、対面型サービス業を中心に景気の追い風になるだろう。

足元のインドの新規感染者数は1日2,000人台まで減少しており、感染状況は落ち着いている(図表3)。4-5月の小売・娯楽関連施設への移動量はコロナ前を10%ほど上回る水準にまで改善しており、オミクロン株の感染拡大により弱まった消費者マインドは回復している。またインド経済監視センター(CMIE)によると、失業率は今年2月に8.1%まで上昇したが、5月には7.1%まで低下しており、コロナ前と同水準となっている(図表5)。このため、オミクロン株の感染拡大の影響は1-3月期の内需の下押し要因となったが、4-6月期は感染状況の改善と活動制限の緩和により内需が持ち直すだろう。

また公共投資の拡大も景気回復をサポートするだろう。今年度国家予算では、資本支出が前年度比35.4%増の7兆5,000億ルピーに大幅に引き上げられており、政府は大型インフラ投資計画「ガティ・シャクティ」政策を推進することにより経済成長を後押しする計画である。

一方、足元のインフレの加速は引き続き民間消費を中心に内需の重石となるだろう。4月の消費者物価上昇率は前年同月比+7.8%まで上昇し、2014年5月以来の高水準を記録した(図表6)。海外発の物価上昇は企業収益を圧迫すると共に、家計の実質所得を目減りさせる。先行きは政府の燃料減税や輸入関税の引下げなどがインフレ抑制に繋がるものの、貿易赤字の拡大や米国をはじめとした世界的な金融引き締めの動きを受けて通貨ルピーは減価傾向にあるため、輸入物価の上昇などを背景にインフレ圧力の高い状況が続くとものみられる。インド準備銀行(中央銀行、RBI)は中期的な物価目標の範囲(2%~6%)の上限を上回っていることを受けて、5月に臨時の金融政策決定会合を開き、政策金利(レポ金利)を0.4%ポイント引上げ、4.4%にすると決定した(図表7)。今後も追加利上げが実施されることにより、更なるインフレ懸念は和らぐだろうが、金利上昇が消費や設備投資を抑制することになるため、景気回復は勢いに欠けるものとなりそうだ。なお、RBIは年内3回の追加利上げを実施すると予想する。

実質GDPは、経済正常化の過程における回復の勢いが一服するため22年度の成長率が前年度比+7.4%(21年度の同+8.7%)、23年度が同+6.1%と低下するが、底堅い成長が続くと予想する(図表8)。
(図表5)失業率の推移/(図表6)消費者物価上昇率
(図表7)政策金利と銀行間金利/(図表8)経済予測表
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年06月06日「基礎研レター」)

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