2022年05月10日

ASEANの貿易統計(5月号)~輸出は商品市況の高騰により好調続くも、今後は中国都市封鎖の影響により鈍化へ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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22年3月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比21.1%増(前月:同17.3%増)と伸びが加速した(図表1)。輸出は20年に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が本格化して一時的に大きく落ち込んだ後、経済活動の再開や半導体需要の増加、商品市況の高騰を受けて増加傾向が続いている。今年1~2月はオミクロン株の感染拡大や半導体不足、中華圏の旧正月の影響などにより輸出の勢いが幾分鈍化したが、3月は世界的な景気回復や域内各国の活動制限緩和による生産活動の活発化、ロシアのウクライナ侵攻を背景とする商品市況の更なる上昇により輸出が回復した。もっとも今後は中国の一部都市で行われている都市封鎖の影響が表れて輸出が失速する恐れがある。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、3月は東アジア向けが同16.0%増、東南アジア向けが同25.4%増、北米向けが同21.2%増、EU向けが同14.3%増となり、それぞれ大幅な伸びが続いた(図表2)。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6ヵ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの22年3月の輸出額(通関ベース)は前年同月比17.1%増(前月:同16.0%増)の347億ドルと、大幅な伸びが続いた(図表3)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて一時的に落ち込んだ後、世界的な経済活動の再開や電子機器の需要拡大により増加傾向が続いている。一方、輸入額は前年同月比14.8%増(前月:同22.9%増)の327億ドルとなり二桁増を維持した。結果として、貿易収支が20.5億ドルの黒字となり、前月から40.1億ドル改善した。

輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比42.4%増(前月:同4.4%増)と急伸したほか、電気製品・同部品が同11.9%増(前月:同13.7%増)と好調に推移した(図表4)。アパレル関連では、履物が同17.0%増(前月:同10.5%増)、織物・衣類が同11.9%増(前月:同12.5%増)と、それぞれ二桁増が続いた。農林水産物を見ると、水産物(同38.7%増)やコーヒー(同52.0%増)、天然ゴム(同3.1%増)が増加する一方、野菜(同14.4%減)、コメ(同9.1%減)、カシューナッツ(同9.7%減)が減少するなど、品目毎にばらつきがみられた。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同17.8%増(前月:同13.3%増)、地場企業が同15.0%増(前月:同24.7%増)となり、それぞれ二桁増となった。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの22年3月の輸出額(通関ベース)は前年同月比19.5%(前月:同16.2%増)の288億ドルと伸びが加速した(図表5)。輸出の基調は新型コロナ感染拡大の影響が直撃した2020年に急減した後、世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いている。一方、輸入額は前年同月比18.0%増(前月:同16.8%増)の274億ドルと二桁増の伸びが続いた。結果として、貿易収支が14.6億ドルの黒字となり、前月から13.4億ドル改善した。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同18.5%増(前月:同25.9%増)と伸びが鈍化したものの、13カ月連続の二桁増となった(図表6)。製造品の内訳を見ると、電子機器(同38.8%増)や家電製品(同11.3%増)が堅調な拡大が続いており、機械・装置(同14.3%増)や石油化学製品(同20.2%増)などの主要輸出品も増加した。一方で半導体不足の影響で生産に悪影響が及んでいる自動車・部品(同0.9%増)は鈍化した。このほか、鉱業・燃料は同32.9%増(前月:同35.0%増)と好調を維持、石油製品(同30.7%増)を中心に大幅な増加が続いた。農産物・同加工品は同14.2%増(前月:同18.1%増)と大幅な伸びが続いた。ゴム製品(同23.3%減)やドリアン(同0.1%減)は減少したものの、コメ(同65.6%増)や加工食品(同37.2%増)、園芸産物(同18.1%増)が二桁増となるなど、総じて増加した品目が多かった。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの22年3月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比22.7%増(前月:同12.8%増)の313億ドルと好調に推移した(図表7)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して一時約3割の減少を記録した後、世界経済の回復や商品市況の高騰、電気電子製品の需要拡大を追い風に増加傾向が続いているが、足元では輸出の勢いに陰りがみられる。また輸入額も前年同月比27.1%増(前月:同14.3%増)の249億ドルとなり伸びが加速した。結果として、貿易収支が+63.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から16.3億ドル拡大した。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同26.7%増(前月:同19.9%増)となり、主力の電気・電子製品(同29.9%増)を中心に8カ月連続で増加した(図表8)。また鉱物性燃料は同99.7%増(前月:同17.7%増)と大きく増加した。石油製品(同101.8%増)と天然ガス(同96.2%増)、原油(同88.4%増)がそれぞれ急伸した。このほか、化学製品(同14.5%増)、動植物性油脂(同49.9%増)の二桁増が続いた一方、ゴム手袋(同69.3%減)は昨年好調だった反動で減少が続いている。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの22年3月の輸出額(通関ベース)は前年同月比44.4%増(前月:同34.2%増)の265億ドルとなり、大幅な増加が続いた(図表9)。輸出の基調は20年に新型コロナの感染拡大の影響が直撃して最大約3割減まで落ち込んだ後、経済活動の再開や国際商品市況の上昇により増加傾向が続いている。22年1月は石炭の輸出禁止措置が実施されたが、その後の輸出再開により輸出の落ち込みは一時的なものにとどまった。また輸入額も前年同月比30.9%増(前月:同25.4%増)の219億ドルとなり、伸びが再び加速した。結果として、貿易収支が+45.3億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から6.9億ドル拡大した。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同43.8%増(前月:同35.3%増)、石油ガス輸出が同54.8%増(前月:同15.6%増)とそれぞれ好調だった(図表10)。品目別にみると、国際商品市況の高騰により鉱産物(同101.3%増)や天然又は養殖真珠、貴石、半貴石(同144.5%増)が大幅に増加したほか、鉄・鉄鋼(同81.8%増)や電気機械(同20.4%増)、自動車・同部品(同17.7%増)、機械類(同8.4%増)、化学製品(同46.5%増)、動植物性油脂(同6.5%増)も好調だった。一方、ゴム製品(同8.1%減)は減少した。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの22年3月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比6.5%増(前月:同7.9%増)の141億ドルとなり、堅調な伸びを維持した(図表11)。輸出は昨年から世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により増加傾向が続いている。なお、総輸出額が同12.5%増(前月:同20.4%増)の464億ドル、総輸入額が同20.5%増(前月:同17.8%増)の427億ドルと、それぞれ増加した。結果として、貿易収支が+37.1億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から15.3億ドル縮小した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約2割を占める電子製品は同10.1%増(前月:同10.0%増)と、16カ月連続の二桁増となった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、ディスクメディア(同0.1%減)が減少したものの、主力のIC(同19.6%増)が好調だったほか、PC(同10.6%増)と通信機器(同6.0%増)が増加に転じた。一方、全体の約3割を占める化学品は同3.1%増(前月:同16.3%増)と伸びが鈍化した。化学品の内訳を見ると、医薬品(同16.5%増)は大幅な伸びが続いたものの、石油化学製品(同3.1%減)が減少した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの22年3月の輸出額(通関ベース)は前年同月比5.9%増(前月:同15.8%増)の71億ドルと鈍化したものの、底堅い伸びを維持した(図表13)。輸出の基調は2020年に新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて急減した後、世界経済の再開を受けて増加傾向が続いているが、足元の輸出の勢いは緩やかなものとなっている。また輸入額は前年同月比27.7%増(前月:同28.6%増)の121億ドルと大幅な伸びを保った。結果として、貿易収支が▲50.0億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から8.3億ドル拡大した。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同8.1%増(前月:同15.1%増)となり、伸びが鈍化した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同9.2%増)が堅調を維持したものの、電子データ処理機(同0.5%減)が4ヵ月連続で減少した。その他9品目については、ココナッツオイル(同63.9%増)、金(同40.0%増)、その他鉱業品(同19.7%増)がそれぞれ増加した一方、機械・輸送用機器(同33.9%減)と金属部品(同21.6%減)、化学品(同8.0%減)、イグニッションワイヤーセット(同5.8%減)、その他製造品(同4.5%減)、製錬銅(同0.9%減)が減少した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年05月10日「経済・金融フラッシュ」)

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