2022年02月21日

タイ経済:21年10-12月期の成長率は前年同期比1.9%増~経済活動の再開により再びプラス成長に、今後は観光業の回復がカギを握る

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2021年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比1.9%増1(前期:同0.2%減)と上昇し、市場予想2(同0.8%増)を上回る結果となった(図表1)。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内外需の回復が成長率上昇に繋がったことが分かる。

民間消費は前年同期比0.3%増(前期:同3.2%減)と小幅に増加した。費目別に見ると、食料・飲料(同3.3%増)や住宅・水道・電気・燃料(同4.2%増)、通信(同2.4%増)、保健衛生(同16.4%増)、衣類・靴(同0.9%増)は増加したものの、交通(同5.8%減)と娯楽・文化(同2.0%減)、レストラン・ホテル(同0.2%減)が低迷した。

政府消費は同8.1%増(前期:同1.5%増)と上昇した。

総固定資本形成は同0.2%減(前期:同0.4%減)と低迷した。投資の内訳を見ると、まず民間投資が同0.9%減(前期:同2.6%増)とマイナスの伸びに転じた。民間設備投資(同0.9%減)と民間建設投資(同0.9%減)がそれぞれ減少した。一方で公共投資は同1.7%増(前期:同6.2%減)とプラスの伸びとなった。公共建設投資(同0.7%減)が低迷したものの、公共設備投資(同10.0%増)が好調だった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+0.5%ポイントと、前期の▲9.2%ポイントからプラスとなった。まず財・サービス輸出は同17.7%増となり、前期の同12.3%増に続いて二桁成長となった。財貨輸出が同16.6%増(前期:同12.0%増)と好調を維持すると共に、サービス輸出が同30.5%増(前期:同14.7%増)と一段と上昇した。一方、財・サービス輸入は同16.6%増(前期:同29.5%増)となり、伸びがやや鈍化した。
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイ実質GDP成長率(供給側)
10-12月期の実質GDPを供給項目別に見ると、主に第二次産業と第三次産業の増加が成長率上昇に繋がった(図表2)。

まず農林水産業は前年同期比0.7%増(前期:同2.2%増)と鈍化した。主要作物のゴム、キャッサバ、サイトウキビ、パーム油、パインアップルがけん引したほか、漁業・養殖業も増加を続けた。

鉱工業は同2.6%増(前期:同1.7%減)と、2四半期ぶりのプラス成長となった。まず主力の製造業は同3.8%増(前期:同0.9%減)と増加に転じた。製造業の内訳を見ると、内需の回復で食料・飲料や繊維、家具などの軽工業(同4.4%減)と石油化学製品、ゴム・プラスチック製品などの素材関連(同5.5%増)がプラスに転じたほか、外需の拡大が追い風となり自動車やコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同1.1%増)が引き続き増加した。また電気・ガス業が同2.1%増(前期:同2.4%減)と回復した一方、鉱業が同13.4%減(前期:同11.4%減)と低迷した。

全体の6割弱を占めるサービス業は同1.6%増(前期:同0.3%増)と伸びが小幅に加速した。サービス業の内訳を見ると、コロナ禍でホテル・レストラン業(同4.9%減)や芸術・娯楽等(同7.2%減)、建設業(同0.9%減)、管理及び支援サービス(同4.8%減)は低迷したが、運輸・倉庫業(同3.2%増)がプラスに転じた。また情報・通信業(同5.9%増)や保健衛生・社会事業(同5.6%増)、金融・保険業(同4.4%増)、小売・卸売業(同2.9%増)、不動産業(同1.3%増)、教育(同0.8%増)は引き続き増加した。
 
1 2月21日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2022年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

10-12月期GDPの評価と先行きのポイント

タイ経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化、2020年に経済が停滞して、実質GDP成長率が前年比▲6.2%と減少した。タイ政府は早期のウイルス封じ込めに成功して段階的に行動制限を緩和したが、本格的な経済活動の再開には至らずマイナス成長が続いた。昨年4-6月期には前年同期の落ち込みからの反動増(ベース効果)によりプラス成長に回復したが7-9月期はデルタ株の感染再拡大に伴う活動制限措置の影響を受けて再びマイナス成長(前年同期比▲0.3%)となった。

今回発表された10-12月期の成長率は同1.9%増となり、再びプラス成長となった。この成長率上昇は感染状況の改善に伴う経済活動の持ち直しや外国人観光客の受け入れ再開による影響が大きい。タイでは昨年4月から感染第3波が生じ、政府は首都バンコクなどで店内飲食の禁止や商業施設の営業時間制限するなど行動規制を次第に強化したが、1日あたりの新規感染者数は6月末の5,000人程度から8月中旬には2万人台を突破した(図表3)しかし、タイ政府が7月中旬以降、首都バンコクなどで都市封鎖を実施・強化したほか、ワクチン接種が加速したことにより感染状況は緩やかな改善に転じた。10-12月期の新規感染者数の期中平均は6000人台で比較的落ち着いて推移し、7-9月期から半減した。またタイ政府が10月半ばから都市封鎖の対象地域を段階的に縮小し、12月に入って解除したことから10-12月期の小売・娯楽施設への人流はコロナ前と比較して約4%増加するなど国民の消費活動が持ち直して民間消費(前年同期比0.3%増)がプラス成長に回復した。また世界的な経済活動の再開や半導体需要の堅調な拡大、外国人観光客の受け入れ再開により財・サービス輸出(同17.7%増)が大きく増加した。

2022年は先進国の経済活動の回復によって外需の拡大が続くとみられ、引き続き財貨輸出の拡大が経済の牽引役となるほか、財政政策が景気回復をサポートするだろう。外国人観光客も増加するが、当面はコロナ禍前の水準まで戻ることは難しいため、本格的な景気回復には至らないだろう。今後も新型コロナウイルスの変異株が出現する恐れがあるなか、外国人観光客の受け入れを順調に増やすことができるかどうかが、タイ経済の回復を見極める上で重要なポイントになるだろう。
(図表3)タイの新規感染者数の推移/(図表4)小売・娯楽施設への移動量
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年02月21日「経済・金融フラッシュ」)

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