2022年02月14日

マレーシア経済:21年10-12月期の成長率は前年同期比+3.6%~感染改善に伴う活動制限の緩和により再びプラス成長に回復

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2021年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比3.6%増1(前期:同4.5%減)とプラス成長に回復し、市場予想2(同3.3%増)を上回る結果となった(図表1)。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内外需の改善が成長率上昇に繋がったことが分かる。

GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比3.7%増(前期:同4.2%減)と上昇して2四半期ぶりに増加した。

また政府消費は前年同期比4.3%増(前期:同8.0%増)と底堅い成長が続いた。

総固定資本形成は同3.3%減(前期:同10.8%増)と低迷した。設備投資が同16.4%増(前期:同10.2%増)が好調だったものの、建設投資が同15.5%減(前期:同26.1%減)と低迷した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の4分の3を占める民間部門が同3.0%減(前期:同4.8%減)、公共部門が同3.8減(前期:同28.9%減)となり、それぞれ減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+0.2%ポイント(前期:▲3.1%ポイント)と改善した。まず財・サービス輸出は同13.3%増(前期:同5.1%増)と大きく上昇した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同13.1%増)とサービス輸出(同15.4%増)がそれぞれ増加した。また財・サービス輸入は同14.6%増と、前期の同11.7%増に続いて二桁増となった。
(図表1)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)マレーシアの実質GDP成長率(供給側)
供給側を見ると、第二次産業と第三次産業の改善が成長率上昇に繋がったことが分かる(図表2)。

まずGDPの6割弱を占める第三次産は前年同期比3.2%増(前期:同4.9%減)と上昇して2期ぶりのプラス成長となった。金融・保険(同4.0%増)や情報・通信(同6.8%増)、政府サービス(同5.4%増)が増加傾向を続けたほか、宿泊・飲食業(同3.9%増)や運輸・倉庫(同11.7%増)、卸売・小売(同1.3%増)がプラスに転じた。一方、不動産・ビジネスサービス(同6.7%減)は引き続き減少した。

第二次産業は前年同期比5.1%増(前期:同3.3%減)と再び増加した。まず製造業は同9.1%増(前期:同0.8%減)と大きく増加した。内訳を見ると、主力の電気電子機器(同17.7%増)や化学製品(同10.8%増)、食品加工(同12.1%増)、石油製品(同9.5%増)、動植物性油脂(同8.5%増)、金属製品(同8.7%増)、輸送用機器(同1.7%増)など増加した業種が多かった。また鉱業は同0.9%減(前期:同3.6%減)、建設業は同12.2%減(前期:同20.6%減)となり、それぞれ低迷した。

第一次産業は同2.8%増(前期:同1.9%減)と増加した。漁業・養殖業(同0.5%減)、天然ゴム(同18.9%減)は減少したものの、主要産品であるパーム油(同4.8%増)をはじめとして畜産(同0.2%増)やその他農業(同5.4%増)は増加した。
 
1 2022年2月11日、マレーシア中央銀行が2021年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

10-12月期GDPの評価と先行きのポイント

マレーシア経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化、に2020年に経済が停滞して、実質GDP成長率が前年比▲5.6%に落ち込んだ。マレーシアは比較的早期にウイルスの封じ込めに成功して活動制限措置を段階的に緩和したものの、経済活動の回復が遅れてマイナス成長が続いた。昨年4-6月期には前年同期の落ち込みからの反動増(ベース効果)によりプラス成長(前年同期比+16.1%増)となったが、7-9月期は感染再拡大に伴う活動制限措置の影響を受けて再びマイナス成長(同▲4.5%)となっていた。

今回発表された10-12月期の成長率は同+3.6%と再びプラスの伸びに回復した。この成長率上昇は感染状況の改善に伴う経済活動の再開が進んだ影響が大きい。マレーシアでは昨年デルタ株の流行により感染第3波が到来すると、8月中旬には感染者数が1日2万人台に達した(図表3)。政府は6月に全国規模の都市封鎖を実施して生活に不可欠な業種以外の社会・経済活動を禁止したほか、7~8月にかけて新型コロナウイルスワクチンが急速に普及すると(直近の完全接種率は人口の8割弱)、9月に感染改善に転じて10-12月期の新規感染者数の期中平均は5000人台で比較的落ち着いて推移した。政府は9月上旬にクアラルンプール首都圏を「国家回復計画」の第2期(全4段階)に移行するなど段階的に活動制限を緩和したため、10-12月期の小売・娯楽施設への人流はコロナ前と比べて約2割減(7-9月期は約5割減)と改善した(図表4)。こうして10-12月期は経済活動が回復することとなり、民間消費は前年同期比+3.5%(前期:同▲4.2%)とプラスに転じた。総固定資本形成は同▲3.3%(前期:同▲10.8%)と減少したものの、マイナス幅が縮小した。また世界的な経済活動の再開や原油・ガスなどの資源価格の高騰、半導体需要の堅調な拡大が財輸出(同+13.1%)の追い風となり、成長率を押し上げた。

2022年は先進国で経済活動が再開され外需の改善が続くとみられ、引き続き輸出の拡大が経済の牽引役となりそうだ。足元では新型コロナのオミクロン株の感染拡大が生じている。政府は厳しい規制を再導入しない方針を示しているが、感染再拡大を受けて活動制限緩和の動きを一時中断しており、内需は伸び悩む恐れがある。もっとも、政府は新型コロナウイルスワクチンの成人向けの追加接種や5歳以上の子どもへの接種を推進しているため、オミクロン株の感染拡大が経済活動に与える影響は限定的に止まるだろう。
(図表3)マレーシアの新規感染者数の推移/(図表4)小売・娯楽施設への移動量
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年02月14日「経済・金融フラッシュ」)

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