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パンデミックは生命保険需要を大きく喚起するのか-米国の従業員マーケットから
保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛
1――はじめに
ここでは、同レポートに加え、必要に応じてLIMRAによる他のレポート・データ等も参照しつつ、米国の従業員の生命保険に対する意識について、概要を紹介したい。
1 LIMRA「2021 Annual U.S. Life Insurance Sales Growth Highest Since 1983」2022年3月16日。また、2022年4月4日付保険毎日新聞「海外トピックス 米国 コロナ禍による不安反映 生保販売が前年比20%増 80年代以降で最大の伸びを記録」において同年3月15日付ウォール・ストリート・ジャーナルの記事が紹介されているが、そこでは、米国における生命保険販売が大幅増になったのは、新型コロナウイルスのパンデミックが長引いており、自分が死ぬことへの懸念が増しているからだ、とされている。
2 LIMRA「Life After COVID Employees' Views on Life Insurance 」2022年3月28日。
2――生命保険に対するニーズの高まりならびに団体生命保険・個人保険別の加入状況
このような経緯を経て、米国の多くの被用者は、雇用主が提供する団体生命保険により家族の保障を獲得することができることとなっている5。
(表1)では、日米それぞれにおける、個人保険・団体生命保険の保有契約高を示しているが、上記の経緯もあり、米国では、団体生命保険は日本より広く普及していると考えられる6。
3 LIMRA「2021 Insurance Barometer Study」P.20。
4 前掲LIMRA「Life After COVID Employees' Views on Life Insurance 」P.2。
5 松岡博司「米国では、人々はどのように生命保険に加入しているのか(1)」保険・年金フォーカス2016年11月1日P3。
6 一方、(表1)中、米国の保有契約高は、2010年は個人保険は団体保険の1.3倍だったが、2020年では1.7倍となっており、差が広がっている。その背景については、後述の脚注8にも記載の通りだが、日本の同4倍と比較すると、依然として米国では団体保険の普及は幅広いといえよう。
7 米国の団体生命保険の数字は、団体信用生命保険の数値が含まれていないため、日本の数値は、団体定期保険と総合福祉団体定期保険の合計値とした。
8 前掲2022年4月4日付保険毎日新聞「海外トピックス 米国 コロナ禍による不安反映 生保販売が前年比20%増 80年代以降で最大の伸びを記録」。また、同記事では併せて個人保険のニーズの高まりの背景について、「最近の数十年、多くの人々は彼らの雇用者が提供する生命保険に頼ってきたが、(中略)パンデミックが経済に打撃を与えるようになるのに伴って、個人向けの生命保険の販売が上向いてきた。その一つの理由は人々が、雇用者が提供する生命保険を失ったり失うのを恐れたりし始めたからだと保険会社や代理店は述べている。」と記載されている。
3――雇用主が提供する生命保険の必要度・依存度
4――低い従業員の制度理解
福利厚生制度についての従業員の理解度の低さについて、従業員があげている原因、ならびに福利厚生についてのコミュニケーションを改善するために従業員が望んでいることは以下の通りとなっている11。
【従業員から見た福利厚生制度についての理解度が低い理由】
・情報に基づいた決定を行うためのすべてを確認する十分な時間がない
・複雑すぎて詳細が理解できない
・情報が効果的に伝達されない
・より多くの事を学ぶ程の関心がない
【コミュニケーション改善のために従業員が望むこと】
・わかりやすい情報提供
・保障額、特約についての推奨・ガイダンス
・より多くの材料提供
・個々の事情に応じた情報提供
9 前掲LIMRA「Life After COVID Employees' Views on Life Insurance 」P.8。
10 LIMRA and EY 「Harnessing Growth and Seizing Opportunity: The Future of Workforce Benefits」2022年4月18日P.14。また、前掲LIMRA「Life After COVID Employees' Views on Life Insurance 」P.8において、LIMRAの調査結果によれば、従業員は福利厚生制度に対する理解が十分ではなく、また、自らの知識レベルを過大評価する傾向にあることが紹介されている。ここからも、多くの従業員は、福利厚生制度について、理解できていないことが推察される。
11 前掲LIMRA「Life After COVID Employees' Views on Life Insurance 」P.9。
5――おわりに
世界最大の保険市場である米国の動向については、引き続き、注視していきたい。
12 小著「パンデミックがアジア太平洋の消費者に与えた影響」『保険・年金フォーカス』(2021年11月
5日)、同「シンガポール、人による保険サービスに根強いニーズ」『保険・年金フォーカス』(2021年12月
15日)、同「インド、アセアン諸国における個人向け損保商品のデジタル化の状況」『保険・年金フォーカ
ス』(2022年1月25日)、同「アジア消費者、新型コロナウイルスにより家計・健康を懸念」『保険・年金フォ
ーカス』(2021年11月5日)。
13 2022年5月2日保険毎日新聞「第一生命 福利厚生制度活用促しライフプランづくり支援 従業員エンゲージメント向上へセミナー提供」において、同社が社内で実施した調査では、自社の福利厚生制度の内容を知らない従業員が多いこと、また、同社の取引先企業2600社に対するヒアリングでも、半数近い企業で同様の課題認識があることが示されたことが紹介されている。
(2022年06月01日「保険・年金フォーカス」)
03-3512-1822
- 【職歴】
1989年 日本生命入社
1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職
有村 寛のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/06/07 | 米国、消費者の誤解・理解不足が生保加入の最大の障害-最大の理由(保険料が高すぎる)も、誤解に基づくものが大半- | 有村 寛 | 保険・年金フォーカス |
2024/05/10 | 米国消費者の生命保険ニーズギャップは過去最大-コロナ禍以降、ニーズギャップは拡大- | 有村 寛 | 保険・年金フォーカス |
2024/04/16 | 引き続き高成長が予想されるインド保険市場-2022年の生保収入保険料は前年の世界第9位から第7位に浮上- | 有村 寛 | 保険・年金フォーカス |
2024/03/26 | 過去最高の新契約保険料収入となった米国個人生命保険販売-2024年、2025年も5%成長予想- | 有村 寛 | 保険・年金フォーカス |
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