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家計の現金・預金への偏重は解消されるか?
金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 梅内 俊樹
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2021年の金融資産残高の増加を牽引したのは株式等や投資信託である。TOPIXは配当込みで2021年に13%上昇し、S&P500に至っては配当込みの円ベースで44%上昇している。円ドルレートも2019年12月末の103円台から2021年12月末には115円台へと12円、率にして12%円安が進展している。こうした株高や円安による時価の増加を主因として、2020年12月末比の株式等や投資信託の増加率はそれぞれ15.7%、20.0%と際立った。
この他、現金・預金残高が約35兆円、率にして3.3%増えたことも大きく寄与した。特別定額給付金などの支給などにより4.9%増加した2020年よりも増加率は鈍化したものの、引き続き、新型コロナの感染拡大に伴う行動制限により、家計の消費が抑制されたことで、現金・預金への多額の資金の滞留を招いた。
家計の金融資産構成を見ると、現金・預金が大半を占める状況に目立った変化は見られていない。現金・預金の金融資産残高に占める割合について1997年以降の推移を見ると、一部に例外は見られるものの、概ね52~55%程度の範囲で推移していることを確認できる(図表2)。コロナ禍によって現金・預金が通常よりも高めとなっていることを勘案する必要はあるものの、現金・預金の構成割合に低下の兆しは見られない。長年政府が掲げてきた「貯蓄から投資へ」という政策目標とは裏腹に、家計の金融資産の構成は大きく変わっていない。
安全だがリターンを生まない現金・預金とリスクを伴うが中長期的にリターンを生む株式等のリスク性資産。いずれを重視するかによって、その後の財産所得や金融資産の増加ペースを大きく左右することになる。少子高齢化が進展し、金融資産の安定的な増加が極めて重要な社会的課題となっているわが国においては、金融資産の選択は将来の社会や経済の有り様にも大きな影響を及ぼしかねない。それだけに、適切な金融行動が実現されるような仕掛けづくりが急務と言える。
岸田政権は、「新しい資本主義」の一環で、成長の果実が家計に分配される好循環の実現に向け、「貯蓄から投資へ」の流れを加速させる仕組みの創出に取り組む意向を示しているが、金融資産の多くの割合を高齢者が占める現実を踏まえると、金融資産構成の劇的な変化を実現することは容易ではない。政府は2014年に導入されたNISAや2017年から加入範囲が大幅に緩和されたiDeCoなどの利便性の向上はもとより、若年層にはリスクテイクの効用を、高齢者には増やしながら取り崩すことの重要性を訴えかけ続けている。しかし、国内家計の金融行動の変容をより一層促す、実行可能な政策はあるはずだ。あらゆる政策の総動員によって長年の政策目標の実現に向けた変化を醸成できるのか、今後の動向を見守りたい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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(2022年05月31日「研究員の眼」)
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